誕生日のコンサートでブル9といえば
先週ブロムシュテットの97歳誕生日の演奏会の記事を書いて、思い出したのがこのハイティンク。1929年3月4日ハイティンクの生誕80年を記念した演奏会でブルックナーの交響曲第9番を演奏したのが、日本でも生中継されたのでした。
NHK クロニカルで過去の番組表が見られますが、こちらにありました。「BS20周年特別企画 世界最高のオーケストラ ロイヤル・コンセルトヘボウ 」です。 2009年3月8日(日) 午後9:00から3時間半の生放送でした。色々あって2023年からNHK BS という名前になっていますが、クラシック音楽のBS の番組はかつてはBS プレミアム、その前はBS hi で放送されていましたね。懐かしい。
アムステルダムから初めての生中継
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートはオーストリア・ウィーンから世界で生放送されていますが、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会がオランダ・アムステルダムから生中継されるのは初めてのことでした。コロナ禍でオーケストラの演奏会がネットで見られるようになるのは多くなりましたが、2009年にテレビの前で観たときは余程の自信がないとできないなとおもったものでした。
プログラム前半はピアニストのマレイ・ペライアを迎えてのシューマンのピアノ協奏曲。そして後半はブルックナーの交響曲第9番ニ短調でした。コンセルトヘボウ管のコンサートアーカイブのWeb ページから検索してみると、ハイティンク・ペライア・コンセルトヘボウ管によるこのプログラムは3月4日(水)、5日(木)にも夜8時15分から演奏され、8日(日)は昼の2時15分から。
3月4日がハイティンクの誕生日なので、このプログラムは80歳記念プログラムでしたし、放送するNHK としても1989年6月1日から本放送を開始した衛星放送の20周年。
小細工なしの通常配置
コンセルトヘボウ管のオーケストラの配置はストコフスキー・シフトと言われる通常配置。指揮者から左手から右に向かって第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、そしてコントラバスがチェロの後ろ (指揮者からは右奥)にいます。弦セクションに包まれるように金管と木管が並び、ティンパニは正面の最後尾。
指揮者によってはブルックナーの特に後期交響曲で木管や金管の人数を増やす倍管がおこなわれることもありますが、ハイティンクはそうしません。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、トランペットが3人、ホルンは8人 (うち4人はヴァーグナー・チューバ持ち替え)、トロンボーンが3人、バス・チューバが1人です。
オーケストラのメンバーの譜面台には年季の入った楽譜が。第9番ではオーレル版のスコアを使用しています。
中庸の極み
ハイティンクはブルックナーを長年演奏している「ブルックナー指揮者」ですが、、キャリア初期の若さ溢れる演奏や、ブルックナー演奏で一斉を風靡したセルジュ・チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の影響が色濃い1993年のバイエルン放送交響楽団とのブル8を除けば、割とオーソドックスな解釈が特徴。このブル9でもまさに中庸を極めたような演奏で、奇をてらわない安心感があります。
この演奏会の数ヶ月前の当時の首席指揮者マリス・ヤンソンスとの来日公演 (NHK音楽祭でのティル・オイレンシュピーゲル)の演奏もテレビ放送されましたが、そのときには表情豊かなヤンソンスに対して団員の中もニコっとする方もいました。近年のコンセルトヘボウ管も次期首席指揮者のクラウス・マケラが指揮するとニコニコされていることが多いですよね。しかしこの演奏会では前半のシューマンでも後半のブルックナーでもオーケストラの表情は真面目。ハイティンク自身が感情を出さないタイプではありますが。
コンセルトヘボウ管にしては少し乱れも
ヴィブラートを効かせたトレモロに木管がニ音で動機のパーツを奏でて行くのですが、最初のニ音では少しファゴットの入りが速いかなと。2回目ではピッタリした。ライヴなのでキズがあるのも仕方ないですが、第1楽章のコーダではティンパニの最後の打音の入りがやや速かったり、第3楽章のフィナーレではヴァーグナー・チューバによる交響曲第8番のアダージョの旋律が流れるのですが、そこで音が揺らいでしまったりと、当時オーケストラの世界ランクでNo.1 とも言われたコンセルトヘボウ管にしては少し乱れがありますね。
NHK エンタープライズ、NHK クラシカルからこの演奏会の映像がDVD とBlu-ray Disc で発売されています。Blu-ray のほうは3月8日だけの日付になっていますが、DVD では3月4日と5日の日付も含まれています。DVD 版では3公演で合わせて編集しているのか詳細は不明です。
「室内楽的」と言われた交響曲
生中継の解説には音楽評論家の黒田 恭一 氏がいたのですが、「ブルックナーの交響曲は室内楽的」という主旨の発言をされたのを覚えています。こんなに大規模なオーケストラで演奏される交響曲が、なぜ数人による室内楽のようなのだろうかと私は疑問に思いつつ、音色が混じり合い一つになる感じが室内楽ということなのかなと解釈をしていたのですが、ブルオタの視聴者から苦情が来たようで、後に番組内でアナウンサーが謝罪されていました。クラシック音楽を一般の方にも分かりやすいように紹介していた黒田氏なので、ブルックナーに馴染みのない方にも分かりやすく言ったつもりでしたのでしょう。隣でアナウンサーが謝罪されているときも当人の表情が変わらなかったのが印象的でした。
コンセルトヘボウの響きを最大限に活かした第2楽章のスケルツォの圧倒的なサウンドを聴けば、これほどスケールの大きな交響曲はないのではと、動画を今見返してもそう思います。他にも第1楽章の主要動機の提示での迫力、第2楽章トリオでのキビキビとした演奏、そして第3楽章のヴァーグナー・チューバのコラールは筆舌に尽くしがたい美しさ。最後の音が終わった後、ハイティンクは左手を開いてオーケストラに止まるように指示。四分休符と二分休符の休符を守ってからすっと手を下ろし、聴衆の一人から「ブラボー」の声が。温かい拍手に包まれました。
ハイティンクが80歳を迎えてブルックナーの素晴らしさを実直に引き出した忘れられない演奏会です。
オススメ度
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:2009年3月8日, コンセルトヘボウ (ライヴ)
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試聴
特に無し。
受賞
特に無し。
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