このアルバムの3つのポイント
- アシュケナージのハンマークラヴィーアの最初の録音
- クリスタルな輝きとシャープなキレ
- 第4楽章での吉田秀和の不満
ピアノ・ソナタ全集とは別のテイクのハンマークラヴィーア
前回の記事で紹介したヴラディーミル・アシュケナージのソロ録音全集を購入した目的がハンマークラヴィーアの旧録音を聴くこと。
アシュケナージは1970年から80年にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を完成させていますが、1972年5月の「悲愴」や1973年5月の第7番と第23番「熱情」はお蔵入りになっています。また、1988年の「月光」、「ヴァルトシュタイン」、「熱情」の再録音、1991年の後期ソナタの再録音もあります。
今回紹介する1967年の「ハンマークラヴィーア」の録音はアシュケナージにとってデッカでの最初のベートーヴェンのピアノ・ソナタの録音になりました。1957年にベルリンのレーベルで第21番「ヴァルトシュタイン」と第32番を録音しているので、アシュケナージ初というわけではないですが。
ハンマークラヴィーアは1980年12月の再録音もあり、ピアノ・ソナタ全集ではこちらが採用されています。しかも、2バージョンがあり、全く同じ時期の録音なのですが、ADD (アナログ録音・デジタル編集)で1981年にリリースされたものと、DDD (デジタル録音・デジタル編集)で1994年にリリースされたものがあります。ピアノ・ソナタ全集では1980年録音のDDD のほうが使われています。
色彩とシャープさ
1960年代はアシュケナージ若かりし頃の特徴であるシャープさが堪能できる時代。第1楽章の冒頭から分厚く色彩豊かに描いていきます。新録音ではもっとスマートになっていたAllegro のフォルテッシモが旧録音では溢れんばかりに引き出されています。ドルチェのうっとりするような美しさやリタルダンドの心地よい溜め、そしてフォルテッシモとスフォルツァンド (sf)が続くところではバリバリと強靭な足取りで登っていくようです。ハンマークラヴィーアの名録音は多々ありますが、1967年のこの時点でこれほどまでにカラフルでシャープな切れ味がある演奏はあまり無いのではないでしょうか。これだけでもアシュケナージの旧録音を聴く価値がありました。
第2楽章でも音を保ってロマン派を先取っているかのようにも捉えていますが、力強さとケラケラ笑うような軽やかさもあり、ベートーヴェンのスケルツォだということを意識しています。第3楽章
吉田秀和氏が第4楽章に不満
音楽評論家の吉田 秀和 氏は、「世界のピアニスト」でアシュケナージについても少し書いていますが天の邪鬼気質なのか、自分の推しのピアニスト(フリードリヒ・グルダなど)を好みだからか、アシュケナージのこのハンマークラヴィーアについてもベルリンのレコードショップで勧められても半年ほど放置してから批評を書いていますが、第3楽章までの演奏については称賛しつつも、第4楽章のフーガではイントロこそ速いテンポで驚いたそうですが、フレーズが進むにつれてテンポの動かし方について不満があるようで、「幻想曲化即興曲化してしまう」と苦言を書いていました。一方で「グルダはすばらしく解決している」と自分好みのピアニストを持ち上げるあたり、アシュケナージを好きな方にはすごくフラストレーションの溜まる批評です。
こういうのがあるから私はレコード芸術のような批評を読まなくなり、逆にAmazonやタワーレコードオンラインなどのネットショップのレビューを参考にするようになってしまったのですが。ネットのレビューのほうが多数の方の意見が書かれていて色んな捉え方があるんだなと感じます。
まとめ
なかなか聴けなかったアシュケナージのハンマークラヴィーアの旧録音をソロ録音全集でようやく聴けて嬉しかったですし、新録音とは違う色彩や溢れんばかりの力強さもある演奏。新録音と聴き比べてみるとより面白いと思いました。
オススメ度
ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
録音:1967年7月4ー7日, キングズウェイ・ホール
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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