このアルバムの3つのポイント
- まだ若かりしアシュケナージのロマン
- シュミット=イッセルシュテットの端正さと気品
- 2つのモーツァルトのピアノ協奏曲
意外と知られていない名指揮者シュミット=イッセルシュテット
世の中に名指揮者と呼ばれる指揮者は数多く、世界最高峰のオーケストラの首席指揮者を務めたり花形のレコード・レーベルで名演を録音したような指揮者はもちろん、知名度が低かったり録音はそれほど多くなかったりしますが、クラシック・ファンから名指揮者と知られる「隠れた名指揮者」も結構多いです。
今回紹介するハンス・シュミット=イッセルシュテット(Hans Schmidt-Isserstedt)もそうした隠れた名指揮者の一人でしょう。
1900年生まれのドイツ出身の指揮者で1973年に亡くなりました。北ドイツ放送交響楽団の創設し1971年に退任まで26年にわたり首席のポストに就いたり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団などとも指揮をとっています。
ただ、シュミット=イッセルシュテットの録音はあまり多くありません。私も最近重点的にApple Musicで聴きまくっていますが、アルバムがこれしかないのかと驚くばかりです。
ただ、シュミット=イッセルシュテットはウィーンフィル最初のベートーヴェンの交響曲全集をセッション録音した指揮者として有名で、その後ウィーンフィルは交響曲全集をカール・ベーム(1970ー72年)、レナード・バーンスタイン(1977ー79年)、クラウディオ・アバド(1985ー88年)、サー・サイモン・ラトル(2002年)、クリスティアン・ティーレマン(2008ー10年)、アンドリス・ネルソンス(2017ー19年)と続きますが、ネット上ではシュミット=イッセルシュテットの録音が一番良かったと言う方もいます。
私も今まさに交響曲全集を聴き比べているのですが、シュミット=イッセルシュテットの指揮では気品があって、とても端正。それでいて各楽器のメロディがしっかりと引き出されて、本当に良いです。
シュミット=イッセルシュテットとアシュケナージのピアノ協奏曲
さて今回紹介するのはシュミット=イッセルシュテットが1968年1月にロンドン交響楽団を指揮して、ピアニストのヴラディーミル・アシュケナージと協演したピアノ協奏曲第20番K466と第6番K238。
デッカ所属のアシュケナージは60年代から70年代のレコーディングでロンドン響との協演が多かったですが、指揮者はアナトール・フィストゥラーリ(ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番)、アンドレ・プレヴィン(ラフマニノフとプロコフィエフのピアノ協奏曲全集)、ロリン・マゼール(チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番)、ウリ・セガル(シューマンのピアノ協奏曲)、デイヴィット・ジンマン(バッハのピアノ協奏曲第1番とショパンのピアノ協奏曲第2番)、イシュトヴァン・ケルテス(モーツァルトのピアノ協奏曲第8・9番)と、指揮者はまちまちでした。
このシュミット=イッセルシュテットとのモーツァルトのピアノ協奏曲では、シュミット=イッセルシュテットらしい端正な演奏で、気品があります。ピアノ協奏曲第20番K466の第1楽章冒頭。弱く(p)始まるオーケストラの演奏。チェロとコントラバスが不気味な三連符を奏でるのですが、煽るようにする指揮者もいる中、シュミット=イッセルシュテットは淡々と演奏させているのですが、しっかりと声部が引き出されています。初めて聴いたときにこういう演奏のしかたがあるのかと驚きました。
音質はややマイナス
音質に定評のあるデッカですが、1968年のアナログ録音ということもあり、音質はややこもったように聴こえます。音量を上げるとAMラジオのようなノイズが乗ってしまいます。第6番はよりノイズが目立ちます。CD(2007年リリースのUCCD-3859)とApple Musicの配信両方で聴きましたが同じでした。
まだ若かりしアシュケナージのロマン
キャリアを重ねるに連れてよりバランスが整って色彩豊かになっていくアシュケナージのピアノですが、1937年生まれのアシュケナージにとって、20代後半から30代前半の1960年代の録音は特別だと言えます。カミソリのようなシャープなテクニックと、詩情あるロマンがあるのです。1963年のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と第3番や、1964年のショパンのバラード全集は筆頭です。このときだけの特徴。
モーツァルトのピアノ協奏曲も、指揮者としての顔も持つアシュケナージは1970年代後半から英国フィルハーモニア管弦楽団を弾き振りして全集録音を完成させていまして第6番や20番も再録音がありますが、このシュミット=イッセルシュテットとの協演は格別。翡翠のように輝いた音色がします。
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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