97歳にして現役のブロムシュテット
アメリカ生まれのスウェーデン人指揮者のヘルベルト・ブロムシュテット。1927年生まれなので今年で97歳になるのですが、まだまだ現役で今は来日していて昨日 (10/26)のNHK 交響楽団の定期公演でシューベルトを指揮しています。
2024年7月には、名誉指揮者を務めるドイツ、バンベルク交響楽団に客演して、3日間連続でブルックナーの交響曲第9番の演奏会をおこないました。その初日が7月11日のオーストリアの聖フローリアン修道院 (ザンクト・フローリアン)。ブロムシュテット97歳の誕生日に、ブルックナーの聖地でのコンサートです。
その演奏会のテレビ放送が2024年10月21日(月)のNHK BS のプレミアムシアターで放送されました。
ブルックナーの聖地、聖フローリアン修道院
聖フローリアン修道院はブルックナーが寄宿生として宗教と音楽について学び、成人後には教師として戻りオルガニストとしても活躍。さらに亡くなってからも棺が地下で眠っています。まさにブルックナーにとっては聖地といえる場所。
今から45年前の1979年6月にはこちらの記事で紹介したヘルベルト・フォン・カラヤンがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してブルックナーの交響曲第8番を熱演していましたね。
事前のインタビューで聖フローリアンについて「いろいろな意味で里帰りのようなものです」と語っていたブロムシュテット。理想を変えることを余儀なくされ、政治的な力による脅威に苦しみ、明日がどうなるかわからない今だからこそブルックナーの時代が来ている、と語るブロムシュテット。「ブルックナーの音楽には一種の錯覚あるいは確信があります、世界がどんな状況でも消えない美があるという」と話していたようにこの聖フローリアンでの交響曲第9番は特別な日になりました。
これまでの録音とも違うブル9
ブロムシュテットは全曲を暗譜で指揮し、椅子に座っての指揮ですが、指揮棒無しでも手の振りは大きく少しも年齢を感じさせません。
第2ヴァイオリンが指揮者から見て右手にある「対向配置」を取ったフォーメーション。
ブロムシュテットはカペルマイスターを務めたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団でこの対向配置を取っていましたが、ブルックナーの交響曲全集での第9番のライヴ録音は2011年11月。また、バイエルン放送交響楽団との第9番のライヴ録音 (2009年5月)もありますが、このバンベルク響との演奏は少し解釈が少し異なっています。
特に違うのは第1楽章の提示部での主要動機が奏でられる63 小節、練習番号C の部分。クレッシェンドで最高潮に達してフォルテフォルテッシモ (fff)で強烈に動機が演奏されますが、これを間髪入れずに演奏するのは至難の業。バイエルン放送響とのときは63 小節の手前で少し休止を入れていましたし、ゲヴァントハウス管とのときは、63 小節のfff をほんの少し弱く始めてクレッシェンドして最強音になるようにしていました。しかしこのバンベルク響で間を入れずに一気呵成に演奏していきます。それによりボルテージが最大に達して主要動機が強烈に登場しています。
しかしブロムシュテットが導く響きは慈愛に満ちていて、ブルックナー未完の交響曲で登場する不協和音でもまろやかで達観したかのよう。第3楽章は実に崇高で、聖フローリアンで演奏されたからこそさらに神々しく聴こえます。全休符のときに直前の音がゆっくりと下に降りてくる感じが素晴らしいです。
ブロムシュテットの指揮では、どの楽器が旋律をリードし、どの楽器が引き継ぐか明確になっているので、これこそブルックナーがスコアで表したかった音楽なんだろうなぁと思ってしまいます。
バンベルク響のメンバーも気持ち良さそうな表情で演奏していて、ブロムシュテットに対して笑顔を見せる方もいて、良好な関係が伺えます。金管の入りが少しだけ早いと感じる箇所もありましたが、細かいところはどうでも良いと思うほどの特別な演奏会でした。
オススメ度
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
バンベルク交響楽団
録音:2024年7月11日, 聖フローリアン修道院 (ライヴ)
試聴
現時点では無し。
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?