11月27日(木)の読売日本交響楽団、略して読響 (よみきょう)の第653回定期演奏会@サントリーホールは、フィンランド出身の指揮者ハンヌ・リントゥが出演予定でしたが、「本人のやむを得ぬ事情」により来日ができなくなりました。

シベリウスの交響曲第7番をメインにしたプログラムだったのですが、リントゥは昨年4月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にデビューを果たし、この曲を指揮していました。デジタル・コンサートホールで観られますが、シベリウスを得意とする本場の指揮者でベルリンっ子も満足の表情でしたね。

それを日本で、読響で、聴けるかと思ったのですが、リントゥ代理に選ばれたのは同じくフィンランド出身、シベリウス音楽院で学んだピエタリ・インキネン日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者 (2016-2023年)で日本の音楽ファンにもお馴染みですが、意外にも今回が読響初登場となります。

指揮界のフィンランド旋風

クラウス・マケラ (1996年生まれ)を筆頭にフィンランド&シベリウス音楽院の出身指揮者が世界中で大活躍していますが、1980年生まれのインキネンは中堅どころ。2022年11月の日経新聞の記事「指揮界にフィンランド旋風」では、マケラやタルモ・ペルトコフスキの20代の指揮者の他に、エサ=ペッカ・サロネンサカリ・オラモ、インキネン、サントゥ・マティアス・ロウヴァリエミリア・ホーヴィングの名前が挙げられ、ほぼ全員に共通しているのがシベリウス音楽院出身で、ヨルマ・パヌラの師事を受けたこと。こうした指揮者に共通しているのは「皆、楽器奏者としても相当なレベル」であること。マケラはチェロ、サロネンはホルン、ペルトコフスキはピアノでも一流であることを述べていました。インキネンはヴァイオリン奏者ですね。

サントリーホールは内装がクリスマス仕様に。赤絨毯の会場がさらに華やいでいます。

シベリウスを中心としたプログラム

曲目は、シベリウスの交響曲第7番を中心としたプログラムで、

  • シベリウス: 交響的幻想曲『ポホヨラの娘』 Op.49
  • バルトーク: ピアノ協奏曲第3番 Sz.119。ピアノ独奏はピョートル・アンデルシェフスキ
  • (アンコール) ブラームス: 間奏曲 Op.118-2
  • (休憩)
  • シベリウス: 組曲『レンミンカイネン』Op.22 より『トゥオネラの白鳥』
  • シベリウス: 交響曲第7番 Op.105

でした。リントゥが指揮する当初は3曲目はフィンランドの作曲家サーリアホの『冬の空』の予定でしたが、シベリウスの『トゥオネラの白鳥』に変更になっています。逆にシベリウスが濃厚に堪能できるプログラムになったと思います。

冒頭の『ポホヨラの娘』から澄み切った空気感。マケラ&オスロ・フィルでシベリウスを聴いたとき(紹介記事) も感じたのですが、北欧出身の指揮者はシベリウスの空気感、透明感が抜群にうまいですね。

続くバルトークのピアノ協奏曲の前に5分ほどオケが中座して、ピアノの搬入が始まります。休憩ではないので聴衆も座ったまま見守るのですが、作業をじっと観るのも珍しい経験。ピアノ協奏曲のソロを務めたのがアンデルシェフスキ。この曲は打楽器的にピアノを扱っていたバルトークが旋律に回帰して、ジャズっぽい即興さも感じる作品ですが、アンデルシェフスキはかっちりとした骨太さで構築し、タララ―と流すメロディーもタンタンターンと1音ずつしっかりと弾いていました。インキネンと読響も第1楽章は透き通った美しさで聴かせますが、ピアノの剛とオケの柔が混ざり合わない感じも。しっとりとした第2楽章で融合し、第3楽章ではオケ、特に後半のティンパニが火を噴くように熱くなってきました。拍手に応えてアンコールはブラームスの間奏曲Op.118-2。心に染み入るような内省的な演奏で、アンデルシェフスキの真価がより発揮されたと感じました。

ピアノの搬入時間があった代わりか、前半と後半の休憩が15分と短め。トイレから戻ってきたらロビーに誰もいなくなっていたのでびっくりしましたw

白眉のシベリウス

後半のシベリウスの作品2つはインキネンのすごさを堪能させてくれました。『トゥオネラの白鳥』はイングリッシュ・ホルンのソロが憂いがあって演奏に奥行きを与えてくれます。

シベリウスの交響曲第7番はまさに白眉の演奏。最後の交響曲はシンプルな素材で構成されますが、インキネンと読響は混じりっけなしの蒸留された美しさでした。ヴィオラが右にいる標準配置でしたが、冒頭はティンパニが静かに鳴った後に弦の合奏による上昇音。コントラバスが半音ずれて入るのが特徴ですが、インキネンはゆったりとしたテンポを取り、コントラバスの低音を厚くして立体感を生み出し、まるで山鳴りのように大地が動いていく、そんな風景が思い浮かびました。

トロンボーン主題も温かくて自愛に満ちていました。ロンド主題やコーダ前のヴァイオリンの最高音域では、弦を垂直に立てて演奏し、天に昇るかのように神秘的。このこだわりはインキネンがヴァイオリニスト奏者でもあることと関係しているでしょう。ラストは両手を天高く上げ、地面からエネルギーが放出されるような力強さで締めくくりました。

読響の常連の方が多いのか、電車混む前に帰るためなのか、終演後拍手が始まるとすぐに席を立って帰ってしまう方も多かったのがちょっと残念ですが、温かい拍手に包まれ、読響デビューを大成功で迎えたインキネン。来年は3月に東京都交響楽団、8月に紀尾井ホール室内管弦楽団にもデビューするので、こちらも楽しみですね。より大舞台での活躍も期待したいです。

指揮:ピエタリ・インキネン
読売日本交響楽団
演奏:2025年11月27日, サントリーホール

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