このアルバムの3つのポイント
- マリス・ヤンソンスが珍しくオペラ曲を指揮
- 2008年3月のルツェルンでのライヴ録音
- とろけるように美しい極上のヴァーグナー
オペラをほとんど指揮しなかったマリス・ヤンソンス。その理由は…
マリス・ヤンソンスはオペラをほとんど指揮しなかった。録音でも最近はチャイコフスキーの「スペードの女王」が2016年にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、2018年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のものがあるくらいで、私ももっと聴きたいなと思っていた。マリス・ヤンソンスは歌曲や合唱を含む作品を得意としていたので、オペラは絶対に合うはずなのに、とずっと考えていた。ただ、指揮者によっては管弦楽曲をメインの活動にしてオペラは全く振らないという方もいるので、マリス・ヤンソンスもそういうタイプなのかなと勝手に思っていた。先日紹介した「ラスト・コンサート」の解説を読むまでは。
「マリス・ヤンソンス ラスト・コンサート(Mariss Janson His Last Concert Live at Carnegie Hall)」には、ドイツの音楽ジャーナリストのレナーテ・ウルム(Renate Ulm)氏による解説が載っており、マリス・ヤンソンスが幼少期から歌劇場で過ごしてリハーサルや演奏をたくさん見てきて、オペラに対する情熱が芽生えたこと、しかし長期に渡るオペラのリハーサルの心労のためにマリス・ヤンソンスが1996年に最初の心臓発作を起こしたこと、それを機に健康上の理由からオペラを指揮することができなくなったことが書かれている。
今までその事実を知らなかったことに愕然としたのだが、逆に健康上の理由だったのかと知ると今までのマリス・ヤンソンスのオペラ作品の演奏がより違った捉え方ができるようになってくる。
ルツェルンでのヴァーグナー管弦楽曲
今回紹介するのは、マリス・ヤンソンスが亡くなってから数カ月後にソニークラシカルからリリースされた、CD7枚組の「マリス・ヤンソンス グレート・レコーディングズ」からCD7のヴァーグナーの録音。曲目は以下のとおり。
- 歌劇「タンホイザー」序曲
- 歌劇「タンホイザー」~バッカナール
- 歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
- 歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲
- 楽劇「ヴァルキューレ」~ヴァルキューレの騎行
- 楽劇「神々のたそがれ」~ジークフリートのラインへの旅
- 楽劇「神々のたそがれ」~ジークフリートの葬送行進曲
CDのジャケットに2009年とあるが…
このソニークラシカルからリリースされているグレート・レコーディングズだが、CD7枚が紙のジャケットに入っているだけで、解説は一切無し。だから7枚組で3千円ぐらいとリーズナブルな価格なのだが、1つ間違いを発見した。CD7には録音日が2009年3月16日となっているが、2008年の誤りである。これも先日紹介した「ラスト・コンサート」の付録で付いてきたマリス・ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団の全公演の目録を見ていたら気付いたのだが、2009年3月16日にマリス・ヤンソンスとバイエルン放送響はコンサートを行っていない。しかも、直前の2009年3月13〜15日はアメリカのカーネギー・ホールで公演をしているので、翌日の3月16日にスイスのコンサートに駆けつけるのは無理だろう。変だなと思って1年前を見たら2008年3月15日と16日にルツェルンのクンスト&クルトゥルツェントルムで公演を行っていた。15日がブラームスのドイツ・レクイエム、16日がヴァーグナーの作品で、曲目は
- 歌劇「タンホイザー」序曲
- 楽劇「神々のたそがれ」~ジークフリートのラインへの旅
- 歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲
- 楽劇「神々のたそがれ」~ジークフリートの葬送行進曲
- 歌劇「タンホイザー」~バッカナール
- ヴェーゼンドンク歌曲集 (メッゾ・ソプラノは藤村実穂子)
- 歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
- 楽劇「ヴァルキューレ」~ヴァルキューレの騎行
となっていた。なのでこのCDは2008年3月16日のライヴ録音で間違いない。ただ、CD1枚に収めるためにヴェーゼンドンク歌曲集を省いてしまい、さらにヴァーグナーの歌劇、楽劇を作曲年代順に並べ替えて最後に神々のたそがれが来るようにしたのが今回のCDなのだ。
決してヴァーグナー指揮者ではないが極上の美しさは格別
マリス・ヤンソンスは決して「ヴァーグナー指揮者」ではなかった。特に名声を得た2000年代以降は上記の健康上の理由からオペラはほとんど演奏していないし、ヴァーグナーの聖地であるバイロイト音楽祭を指揮したわけでもない。それなのにヤンソンスのヴァーグナーには唯一無二の存在感がある。
コンセルトヘボウ管との「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死(FC2ブログ記事)も、ヴァーグナーの作品から毒々しさを取り除き、まろやかで美しい演奏に昇華させていた。
このCDでも、「ゾクゾク」するわけでも、「官能的」というわけでもないのだが、身体が溶けてしまいそうな極上の美しさを引き出している。こんな音楽を表現できる指揮者は、他にいないだろう。それに応えるバイエルン放送響のアンサンブルも見事。
まとめ
マリス・ヤンソンスの貴重なヴァーグナー作品の録音で、とろけるような極上の美しさが見事。
オススメ度
指揮:マリス・ヤンソンス
バイエルン放送交響楽団
録音:2008年3月16日, ルツェルン・クンスト&クルトゥルツェントルム(ライヴ)
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特に無し。
受賞
特に無し。
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