全集とは別のベーム最晩年のトータル79分の遅い第九 ベートーヴェン交響曲第9番 ウィーンフィル(1980年)

ベートーヴェン交響曲第9番 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1980年)

このアルバムの3つのポイント

ベートーヴェン交響曲第9番 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1980年)
ベートーヴェン交響曲第9番 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1980年)
  • 全集とは別のベーム最晩年の第九
  • トータル79分2秒の遅い遅いテンポ
  • テノールはプラシド・ドミンゴ

カール・ベーム1970年代にウィーンフィルとベートーヴェンの交響曲全集を録音しており、ゆったりとしたテンポでウィーンフィルの美音を活かした演奏で、数あるベートーヴェンの交響曲全集の中でも定番として不動の位置を築いている。第9番「合唱付き」も1970年に録音しているが、全楽章で72分41秒というゆったりとしたテンポで、淡々としながらも優しさが感じられる演奏であった。

また、それよりも少し前の1963年には、7月にバイロイト音楽祭でバイロイト祝祭管弦楽団を指揮してフルトヴェングラー並の迫力ある熱演の第九を演奏し、11月の初来日公演ではベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団と美音で豪華な歌手陣による演奏をおこなっている。

今回紹介する録音は、1980年11月、ベームが没する9ヶ月前の最晩年の演奏であり、全集の時と同じく気心知れるウィーンフィルとの演奏。なお、この1ヶ月前の1980年10月6日にウィーンフィルとの来日公演で、昭和女子大学の人見記念講堂のこけら落とし記念演奏を行っていたが、これが奇しくも日本でベームが指揮した最後の演奏会となったそうだ。

さてこの第九だが、全曲を聴くにはかなりの忍耐が必要である。

全体的に遅すぎるテンポで、全曲で79分2秒もの時間を要している。ゆったりしていた1970年の録音が72分41秒だったので、それよりもさらに遅くなっている。この10年で解釈がだいぶ変わったのだろう。第九で遅い演奏として有名なフルトヴェングラーの1951年のバイロイト音楽祭での録音が74分32秒なので、ベームの新盤はそれをはるかに超える遅さである。

ベーム/ウィーンフィルの新旧の第九の演奏時間を比較すると以下のとおりとなる。それぞれ左が1970年盤、右が1980年盤。
第1楽章 16:46 → 18:44
第2楽章 12:08 → 13:22
第3楽章 16:38 → 18:19
第4楽章 Presto 6:43 → 7:30
 Presto – 「おお友よ、このような音ではない!」 20:26 → 21:07

特に第1楽章はこの遅さで、美しいヴァイオリンの響きが甲高い声で悲鳴を上げるような感じなので、より一層苦難さが伝わってくるのだが、重厚感は無いので、美しすぎる苦難という表現が合うだろうか。どこか綱渡りで進むような危うさすら感じる遅さである。きっちりと楽譜を忠実に演奏しているベームらしく、感情に流されることは決して無い。

第2楽章も躍動感というよりはしっとりとした演奏だが、やはりゆっくりだなぁと感じる。

第3楽章は文句無しに美しい。ここはテンポがゆっくりでちょうど良いぐらいで、ベーム自身がこれまでの音楽生活を噛みしめるかのような味わいが感じられる。永遠に続いて欲しい極上の音楽。

第4楽章はPrestoの冒頭から「ギャー」と悲鳴のようなトゥッティで始まる。Prestoの楽章なのに非常にゆっくりだが、主題でも情熱的になることもなく、淡々と楽譜どおり演奏している。本当かどうか分からないが、Late Recordingsの解説にはベームファンは「黄金の中庸」と表現してベームの演奏を称賛していると書いてあったが、この第4楽章の前半を聴いて思うのは「生真面目だなぁ」ということ。

また、1980年11月のデジタル録音なのだが、音質は若干イマイチ。各楽器の音がはっきりとは聴こえづらい。

カール・ベームの晩年の録音を集めたLate Recordingsにはカール・ベームのエピソードが載っている。プラシド・ドミンゴはこのように表現していた。

1980年にウィーンで第九をレコード収録したとき、彼は既に86歳でした。録音スタジオに現れた彼は、とても体力のいる仕事ができるとは思えないくらい弱っておられるように見えました。ところが、音楽に没頭するやいなや、ベームの偉大さの全貌が見えてくるのです。
(中略)
大抵の指揮者は急かしすぎるか、または息が続かないくらい遅すぎるテンポで我々はほぼ死にそうにさせられます。ベームのテンポは、実に的確でした。全員を一人残らずコントロールし、ソリストにも、コーラスにも、オーケストラにも正確な出だしの指示を出し、自らの任務に全霊を込めて打ち込むのです。

プラシド・ドミンゴ 回想録「スター街道まっしぐら」より

上記のようにプラシド・ドミンゴはテンポが「実に的確」と言っていたが第4楽章前半のPrestoのゆっくりすぎるテンポだと、ソリストと合唱が加わっても歌いづらいだろうなぁと思っていたら、バリトン独唱の「おお友よ、このような音ではない!」」からテンポが……速くなっている!

「え、今までのゆっくりさは何だったの?」と思うぐらいに普通のテンポで演奏されている。確かにこれならテンポは的確だろう。そして歌と合唱の出番が落ち着くと、またゆっくりのテンポに戻っていく。

クライマックスのPrestissimoでは全曲を通じて一番速い。ここは普通なのに、他がどうしてあんなにも遅いのだろうか。

テンポのあまりの遅さゆえにファーストチョイスには選びづらいが、聴き比べすると味わい深い演奏だと感心してしまう演奏。

オススメ度

評価 :2/5。

ソプラノ:ジェシー・ノーマン
アルト:ブリギッテ・ファスベンダー
テノール:プラシド・ドミンゴ
バス:ヴァルター・ベリー
指揮:カール・ベーム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団(合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン=グロル)
録音:1980年11月, ウィーン楽友協会・大ホール

【タワレコ】ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》<タワーレコード限定>

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特に無し。

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