このアルバムの3つのポイント
- 2008年10月〜11月に2週間で収録されたラトルとベルリンフィルのブラームス交響曲全集のライヴ録音
- 重厚感、躍動感が揃った名演
- 往年のベルリンフィルを彷彿とさせるラトルとの新時代
待望のラトルとベルリンフィルのブラームスの交響曲全集
サー・サイモン・ラトルは2008年10月29日〜11月14日の2週間でベルリンフィルとブラームスの交響曲4つをライヴでレコーディングした。本拠地ベルリン・フィルハーモニーでのコンサートで、EMI Classicsで2009年に初回リリースされた日本国内の限定盤では高音質のHQCDの上に、4つの交響曲のライヴ映像を収めたDVDも付いていて、何とも豪華なCDボックスだった。確か6千円だったと記憶しているが、DVDを欲しかったために予約して購入したことを今でも覚えている。
EMIがワーナーに吸収されてからも、このCDの再発売はされているが、CD3枚でのリリースとなって、映像は付かないようだ。ただし、映像の一部はベルリンフィルのYouTube公式サイトでも見ることができる。
ベルリンフィルのブラームス交響曲全集と言えば、数多い。ヘルベルト・フォン・カラヤンも録音しているし、クラウディオ・アバドも1990年〜1991年に録音している。ラトル待望のブラームスの交響曲はどうなっているのか、期待半分、不安半分で最初にCDを聴いた記憶を今でも覚えている。結論として、往年のベルリンフィルの重厚感を復活とさせ、かつラトルらしいキレのあるテンポ・ドライブで、躍動感ある演奏に仕上がっている。
米国グラミー賞や英国グラモフォン賞も期待していたのだが、残念ながら特に受賞はしなかった。ただ、私自身は、新時代のベルリンフィルの一つの金字塔を打ち建てた演奏だと思っている。
交響曲第1番 ハ短調
4つの交響曲で、ラトル/ベルリンフィルの演奏ではこの第1番が最も優れている。第1楽章の冒頭から重厚感があり、ラトルのキレのある指揮が冴え渡っている。
第4楽章のホルンの柔らかな音もまた良い。音質が素晴らしいからこそ、ここの部分は特に良く聴こえる。
音の厚み、迫力、テンポの揺らぎ、現代を代表する指揮者ラトルと、現代のベルリンフィルとの豪華な演奏。
交響曲第2番 ニ長調
この第2番では、伝統と新しさが良いバランスで融合された好演と言える。厚みあるハーモニーはベルリンフィルならではだが、トゥッティではオケが精度の高いアンサンブルを発揮し、ティンパニーも迫力がある。
映像で見ると、第1楽章を終えると観客の咳が続く。穏やかな楽章だから咳をしたくてもずっと我慢していたのだろう。
ドイツ南部の「黒い森」をイメージさせるような、牧歌的な安らぎと深みが同居するこの曲を、ラトルはふくよかに、しかし時にドライに演奏する。単なる癒しだけの音楽ではなく、情熱的で心揺さぶる演奏へと、この曲をドラマティックに仕上げることに成功している。
交響曲第3番 ヘ長調
ブラームスの交響曲の中で最も複雑なのがこの第3番である。英雄的な第1楽章、牧歌的な第2楽章、憂いを帯びた第3楽章、そして嵐のような第4楽章。猫のように捉えどころがない。だからこそ、通り一辺倒の演奏ではうまくいかない。
第1楽章ではスケールが大きく、ベルリンフィルの精度の高いアンサンブルで全体が一塊となって前へと進んでいく。第2楽章では弦と木管がゆったりと柔らかい音を奏で、じんわりと心地よい響きを醸し出す。第3楽章では木管のツヤのある音色で憂いを出しつつも、少し明るい音色でしんみりと。第4楽章は一転して、オケがそれぞれ個々の名技を現しつつ、一丸となって怒涛のような音の渦を作り出している。ラトルが時折テンポを自在に揺らしているが、ティンパニーも加えてオケが一つになって機動力ある演奏を聴かせる。これほどキビキビと動くのはやはりベルリンフィルだからであろう。
交響曲第4番 ホ短調
小刻みにテンポを揺らしながら、音楽を進めているが、ベルリンフィルを完全に統率して、少しも乱れがない。また、音は決して尖らせず、輪郭を柔らかく縁取っている。音の厚みもベルリンフィルならでは。素晴らしいバランス感覚だ。ラトルは本当にうまい。
まとめ
伝統に革新性をスパイスした、サー・サイモン・ラトルとベルリンフィルの金字塔とも言うべきブラームスの名演。
オススメ度
指揮:サー・サイモン・ラトル
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2008年10月29日-11月14日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ)
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【タワレコ】ブラームス:交響曲全集(CD)試聴
iTunesで試聴可能。
ベルリンフィルのYouTubeサイトでコンサート映像の一部を視聴可能。
受賞
特に無し。
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