このアルバムの3つのポイント
- ピアノ・ソナタ全集とは別テイクの「悲愴」、「熱情」を含む3曲
- アシュケナージの切れ味鋭い
- たっぷりと取った間合い
ピアノ・ソナタ全集とは別の
ヴラディーミル・アシュケナージは1937年に旧ソ連出身のピアニスト。ロシアやソ連出身のピアニストにはベートーヴェンを得意とするピアニストも多いですが、アシュケナージもベートーヴェンを得意としていて、ピアノ・ソナタやピアノ協奏曲、さらにはヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタの伴奏でも高い評価を受けました。
アシュケナージは1971年から1980年にかけてベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集のレコーディングをおこないました。しかし、1972年に録音されたピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、1973年のピアノ・ソナタ第7番、第23番「熱情」は、全集には含められず、後年に再録音されたものが採用されています。
時期的には全集に入れる予定で録音したと思われますが、結果的にお蔵入りになってしまったのが今回紹介するアルバムです。私は2007年のアシュケナージ生誕70周年の再リリース盤(UCCD-3865)を持っていますが、2017年にも同じ型番で再リリースされました。
ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」は1972年5月にイリノイ大学のクラナート・センターで録音されたもの。ピアノ・ソナタ第7番と第23番「熱情」は1973年5月にロンドンのオペラ・センターでの録音と書いてあります。ただ、2017年発売のCDでは第7番と23番が1970年5月と書いてあり、混乱してしまいます。この記事では2007年のCDに基づいて情報を載せていきます。
たっぷりと間合いを取って始まる「悲愴」
1972年5月と言えば、アシュケナージがサー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を録音していた時期です。こちらの記事にレビューを紹介していますが、筋肉質なオーケストラのサウンドにアシュケナージが互角に対峙している名演でした。
この「悲愴」は第1楽章Graveの冒頭からユニークです。ピアノ・ソナタ全集のレコーディング(1980年)では、ハ短調の和音が標準的な長さだったのに対して、この1972年ではかなり長く伸ばしています。
他の箇所は全集盤の録音とさほど違いが無いのですが、アナログ録音なので少し音質は劣ります。ただ、アシュケナージらしいキレのある打鍵と、集中力に満ちた緊密な演奏や強弱の絶妙な使い分けが感じ取れます。これはこれで素晴らしいと思います。
「熱情」と第7番
ピアノ・ソナタ第23番「熱情」と第7番もシャープな演奏です。
「熱情」の第3楽章は、全集盤(1978年)では7分27秒でしたが、この1973年盤では7分50秒。冒頭の和音の強連打が少しゆっくりとしたテンポで入り、その後のフレーズも再録よりは少しテンポが落ち着いています。とは言ってもアシュケナージのキレのあるテクニックはここでも堪能できますが。
まとめ
ピアノ・ソナタ全集と同時期に録音されたのにお蔵入りになってしまったアシュケナージの幻のベートーヴェンのピアノ・ソナタ集。「悲愴」も「熱情」も全集のときの再録音と比較すると違った味わいがあります。3曲ともシャープなアシュケナージのキレのある演奏です。
オススメ度
ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
録音:1972年5月, クラナート・センター(第8番)
1973年5月, ロンドン・オペラ・センター(第7番、23番)
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試聴
上記のタワーレコードの商品ページから試聴可能。
受賞
特に無し。
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