このアルバムの3つのポイント
- ベートーヴェンの流れを汲むピアニスト、クラウディオ・アラウのピアノ・ソナタ
- 得意の「ヴァルトシュタイン」
- 威風堂々とした悠然たる響き
ベートーヴェンの流れを汲むピアニスト、クラウディオ・アラウ
ピアニストのクラウディオ・アラウ(Claudio Arrau)は、音楽院でフランツ・リストの高弟であるマルティン・クラウゼに師事していました。リストはカール・ツェルニーに師事したのですが、ツェルニーはルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの弟子だったので、アラウはベートーヴェンの流れを汲むピアニストと言えます。
ベートーヴェンを得意としたアラウが1回目のピアノ・ソナタ全集を録音したのは1960年代のこと。1903年生まれのアラウは既に60代の御年で、円熟した音楽作りが特徴です。
以前、後期ソナタ集(第28番から第32番)のアルバムを紹介しましたが、味わい深い演奏ではありましたが、トリルの繰り返しなど高度な技術が要求されるフレーズでは、もっさりとしてテンポを下げてしまっていることもあり、ヴィルトゥオーソ・ピアニストでは無いんだなという印象を受けました。
得意の「ヴァルトシュタイン」
しかし、中期のピアノソナタである第21番「ヴァルトシュタイン」Op.53、第23番「熱情」Op.57、そして第24番「テレーゼ」Op.78が収録されているアルバムを聴いてみるとまた違う印象を受けます。
特に「ヴァルトシュタイン」はアラウが得意としたレパートリーだったようで、このアルバムでも威風堂々とした悠然とした演奏を聴かせてくれます。
「ヴァルトシュタイン」はマウリツィオ・ポリーニ(1988年と1997年)や、フリードリッヒ・グルダの録音も人気がありますが、やっぱりAllegro con brioの楽譜の指示に対してテンポがあまりにも速すぎます。特急列車のようです。
それに対して、アラウの演奏はたっぷりと間合いを取っていて、悠然としています。第1楽章は第1主題の繰り返しもおこなって、11分46秒。ヴァルトシュタインに関しては、私はこれぐらいのテンポが良いと思っています。
第2楽章に入る直前のフレーズでは、フェルマータでたっぷりと間を取り、スフォルツァンドの後の32分音符ではテンポ・ルバートでぐっとゆっくりに落としてロマンティックに弾ています。
第2楽章でもIntroduzioneでは弱音でノン・レガートでポツポツと独り語るかのようにしんみりと演奏します。ピアノの素朴な音色が奥深いです。続くRondoではペダルも活かしてレガートで柔らかい音色を引き出しています。
この曲はベートーヴェンが若いときに苦労した時代を金銭面、精神面で支えてくれたフェルディナント・フォン・ヴァルトシュタイン伯爵に捧げられた曲ですが、そのヴァルトシュタインへの想いが表れているかのように、アラウの演奏には温かさを感じます。
「ヴァルトシュタイン」を得意としたアラウの名演でしょう。アラウの息遣いも聞こえますが、そこまで気になりません。
「熱情」、「テレーゼ」も
このアルバムにはピアノ・ソナタ第23番「熱情」 Op.57と第24番「テレーゼ」Op.78もカップリングされています。
いずれもたっぷりとした風格漂う演奏で、「熱情」は「ヴァルトシュタイン」に引けを取らない名演です。どっしりとしています。第3楽章はヴィルトゥオーソのピアニストが演奏すると繰り返しを入れても8分を切ってきます。例えばヴラディーミル・アシュケナージ(1978年)は7分29秒、エミール・ギレリス7分53秒(1973年)、スヴャトスラフ・リヒテル(1960年)は7分13秒という速さで駆け抜けました。しかし、アラウはさ8分22秒掛けてメラメラと重厚感ある炎のような情熱を聞かせてくれます。
第24番「テレーゼ」は反対に、慈愛に満ちた1曲。「ヴァルトシュタイン」、「熱情」を聴いた後でより一層癒やされます。たっぷりと間合いを取って、心に染み入る演奏です。
まとめ
ベートーヴェンの流れを汲むピアニスト、クラウディオ・アラウによる1回目のピアノ・ソナタ全集から、中期のソナタ集のアルバムを紹介しました。アラウが得意とした曲だけに、どれも納得の素晴らしい演奏です。
オススメ度
ピアノ:クラウディオ・アラウ
録音:1963年9月19-26日(第21番), 1965年9月24-25日(第23番), 1965年11月7-10日(第24番), アムステルダム・コンセルトヘボウ
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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