このアルバムの3つのポイント
- 首席客演指揮者ジュリーニとシカゴ響の名演
- 旋律美と細部の描写へのこだわり
- 米国グラミー賞受賞!
シカゴ響の主席客演指揮者ジュリーニ
イタリア出身の指揮者、カルロ・マリア・ジュリーニは、音楽から歌うような旋律を引き出すのが上手く、個性的な名指揮者の一人です。マーラーの交響曲全集の録音はおこなっていませんが、正規録音だけジュリーニは交響曲第1番「巨人」(1971年、シカゴ交響楽団)、交響曲第9番(1976年、シカゴ響)、交響曲「大地の歌」(1984年、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)があります。これらの作品には、ジュリーニ没後にリリースされたライヴ録音もあります。
限られたレパートリーでしたが、ジュリーニのマーラーは打てばホームランというタイプで、第1番「巨人」は米国グラミー賞、そして第9番も米国グラミー賞と日本のレコード・アカデミー賞他、世界各国の音楽賞を受賞した名盤でした。
ジュリーニは3大レーベルで録音が分かれていて、1960年代から70年代中盤ぐらいまでがEMIレーベル(現ワーナー)、70年代中盤から晩年まではドイツ・グラモフォン・レーベルと契約し、さらに1980年代後半からはライヴ録音を中心にソニー・クラシカルでの録音をおこなっています。
EMIでの1971年の録音
今回紹介する「巨人」は1971年3月30日なので、EMIでの録音。以前紹介したベートーヴェンの交響曲第7番の録音が3月29日でしたので、その翌日のセッションになります。1969年からシカゴ響の首席客演指揮者となり、1972年まで務めました。音楽監督のサー・ゲオルグ・ショルティが引き締まってボルテージの高い演奏をおこない、首席客演のジュリーニが歌うような旋律美で魅了していた黄金期の時代です。
こだわりの第一楽章
立ち上がりからユニークです。キーンと長い通奏低音が静かに鳴り響く上で、巨人の誕生を予兆するかのように様々な楽器が登場し、徐々に霧が晴れていく情景が描かれます。カッコウの鳴き声の旋律もジュリーニならではの旋律美。そしてトラック1の4分7秒あたりで序奏が終わり、霧が晴れるかのように伸びやかにチェロが第1主題を奏で、祝祭的な雰囲気に変わっていきます。たった数分聴いただけで情景の移り変わりに没頭してしまいました。
6分20秒あたりで提示部での繰り返しをおこなって第1主題に戻り、また音楽は徐々に温まってき、展開部で通奏低音がキーンと鳴る中で手探りのような靄がかかった雰囲気になっていきます。暗い世界の中でカッコウの声が度々聴こえてきます。そして遠くからホルンの落ち着いたファンファーレが聴こえてくると、カラフルで祝祭的な情景が戻ってきます。ジュリーニとシカゴ響による「巨人」の全楽章でもこの第1楽章が特に秀逸です。
旋律に満ちた第2楽章、柔らかい第3楽章、パワフルなフィナーレ
第2楽章のスケルツォはおどけた感じはせず、牧歌的でゆったりとしたテンポで進んでいきます。ここでもこれほど旋律に満ちていることに驚かされました。第3楽章「緩慢でなく、荘重に威厳をもって」は他の演奏家のものだと不気味な印象がしたのですが、ジュリーニの手にかかるとここでも柔らかいです。意外にテンポは少し速めですが音楽がレガートでつながれていきます。
そして第4楽章のフィナーレ。ここではシカゴ響のパワフルな金管とヴィルトゥオーソ・オーケストラのアンサンブルが見事。テンポは若干ゆとりがありますが、中身がぎっしりとしているので音楽は遅滞しません。クライマックスで音質がイマイチなのがマイナスポイントですが、トランペットのファンファーレが壮大です。
まとめ
首席客演指揮者のジュリーニがシカゴ響と録音した「巨人」。ジュリーニならではの旋律美と情景の緻密な描写に驚かされます。
オススメ度
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
シカゴ交響楽団
録音:1971年3月30日, シカゴ・メディナ・テンプル
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1971年の米国グラミー賞「BEST CLASSICAL PERFORMANCE – ORCHESTRA」を受賞し、「ALBUM OF THE YEAR, CLASSICAL」にもノミネート。
コメント数:1
聴く前からワクワクする組み合わせ。そして期待を裏切らない素晴らしい演奏。ショルティとは一味違う、シカゴ響の巨人を楽しみました。これで、もう少し録音状態が良ければ、と思うのは欲張りすぎかなあ。