このアルバムの3つのポイント
- ショルティ晩年の「マイスタージンガー」の名演
- シカゴ響に客演したライヴ録音
- 米グラミー賞と日本のレコード・アカデミー賞を受賞
ショルティ晩年の2回目の『マイスタージンガー』
20世紀のヴァーグナー指揮者の一人、サー・ゲオルグ・ショルティ。幅広いレパートリーを持っていましたが、ヴァーグナーは中でも重要な作曲家でした。デッカ・レーベルの敏腕プロデューサーのジョン・カルショーの企画で始まった楽劇『ニーベルングの指環』の全曲スタジオ録音という前代未聞のプロジェクト。その指揮者としてショルティが選ばれ、1958年9月から10月にかけてのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との『ラインの黄金』の録音から始まりました。このニーベルングの指環のレコードは英国グラモフォン誌に「20世紀最大の録音事業」と賞賛されています。
それ以降、ヴァーグナーの楽劇について多くを録音したショルティですが、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』だけは2回正規録音があります。1回目は1975年10月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とセッション録音していて、はちきれんばかりの推進力とウィーンの雅な響きが素晴らしい演奏でした。こちらの記事で紹介した個人的に選んだショルティの名盤の中に入れています。まだこのサイトでは取り上げていないのですが、前身のFC2ブログで記事を書いています。
それから20年後の1995年9月。かつて音楽監督を務めていたシカゴ交響楽団に客演してシカゴ・オーケストラ・ホールでおこなわれたコンサート形式での『マイスタージンガー』の演奏会のライヴ録音が今回紹介するものです。
1991年で音楽監督を退任し、シカゴ響は後任の音楽監督であるダニエル・バレンボイムとの時代になりましたが、ショルティは退任後もシカゴ響との客演・録音を継続していました。ブルックナーの初期交響曲も退任後に録音して全集を完成させていましたね。
グラミー賞とレコードアカデミー賞のダブル受賞
このディスクは1997年度の日本のレコード・アカデミー賞「オペラ部門」と1998年の米国グラミー賞の「最優秀オペラ録音」のダブル受賞をしています。ちなみにレコードアカデミー賞の同年の管弦楽曲部門ではこちらの記事で紹介したウィーンフィルとのエルガーの「エニグマ変奏曲」を含む録音が受賞しています。ショルティは1997年9月5日に逝去されましたが、その追悼を込めてショルティが評価されたという事情もありそうです。
私は2015年12月にタワーレコードからリリースされた限定盤のCDでこのレコーディングを聴いていますが残念ながら廃盤になっていて、CDでは入手困難な状況になっています。
旧録とは異なる穏やかさ
1975年のウィーンフィル盤ではショルティの溢れんばかりのエネルギッシュさで、それに対してはちきれんばかりの活き活きとしたハーモニーでウィーンフィルが演奏していたのですが、それから20年も月日が経ったこの『マイスタージンガー』では、冒頭から穏やかです。
シカゴ響自体も変わってきています。かつてのショルティとの黄金時代ではパワフルさと弦の美しさが特徴的でしたが、この1995年ではバレンボイム時代の変化もあり、落ち着いているというかモデラートになっています。
2015年のタワーレコード限定盤だと、リーフレットの解説を音楽プロデューサーでオペラ研究家でもあるフランコ酒井氏が以下のように書いています。
最初の全曲盤(1975年盤)がウィーン・フィルとの壮大なスケール感のある演奏だったのに対し、シカゴ響との音楽構築の特徴は、より研ぎ澄まされた精緻な響きと構成美の極致とも言える演奏にあると言えるだろう。
(略)
ウィーン・フィルを思う存分鳴らしまくっていたショルティが、疾風怒濤の如く時代の寵児として1950年代から約40年間を走り抜けて、最晩年に到達した境地がこの全曲盤に投影されていると感じられる。その境地とは、あくまでもワーグナー音楽の巨大さだけに囚われず、細部の一音までも疎かにしない緻密な響きを追求した結果辿り着いたものと言えるのではないだろうか。
フランコ酒井「ショルティのワーグナー演奏の集大成 その執念と情熱の結晶に酔う」、2015年10月
私もこの考えに同調したいのですが、旧録とはアプローチが異なり、よりハーモニーが緻密になったショルティの変化に驚きを感じました。
バス・バリトンのジョゼ・ヴァン・ダムの軽やかさもある爽やかな歌声も私には心地良いです。
まとめ
ショルティが晩年に遺したシカゴ響との『マイスタージンガー』。穏やかさもありつつショルティらしい躍動感を感じる特別なライヴ録音です。
オススメ度
ハンス・ザックス役 (バス):ジョゼ・ヴァン・ダム
ジクトゥス・ベックメッサー役 (バリトン):アラン・オーピー
ヴァルター・フォン・シュトルツィング役 (テノール):ベン・ヘップナー
ファイト・ポーグナー役 (バス):ルネ・パーペ
エヴァ役 (ソプラノ): カリタ・マッティラ
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響合唱団(合唱指揮:デュエイン・ヴォルフ)
シカゴ交響楽団
録音:1995年9月20-27日, シカゴ・オーケストラ・ホール(ライヴ)
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廃盤のため無し。
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1997年度の日本のレコード・アカデミー賞「オペラ部門」及び1998年の米国グラミー賞「最優秀オペラ録音」を受賞。また1998年のグラミー賞の「最優秀クラシカルアルバム」にノミネート。
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