ツィメルマンが今年も来日
世界最高峰のピアニストの一人、クリスチャン・ツィメルマン。隅々まで研究された解釈と徹底的なピアニズムでファンからも音楽評論家からも評価が高いピアニストですが、日本通として知られ、2003年に東京にも別荘を所有しています。
毎年のように来日公演をおこなっていて、私も2006年のサントリーホール公演を聴いてから、度々ツィメルマンのリサイタルに足を運んでいます。前回はこちらの記事で書いたように2021年の12月4日の所沢公演 (ミューズのアークホール)に行きました。
さて2023年も11月から日本各地でピアノ・リサイタルをおこなっていて、公演ごとに主催者が異なるのですが、横浜みなとみらいホール(12/2)とサントリーホール(12/4と13)の公演はジャパン・アーツが主催でした。
以下のHP に情報があります。
【ジャパン・アーツ】深化する孤高のピアニズム クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル (2023年)
クリスマスモードのサントリーホール
サントリーホールは今年かなり行っていて、この秋もオスロフィル(10/24)、ベルリンフィル(11/20)とゲヴァントハウス管(11/22)と聴きに通っていました。
こちらはサントリーホールの入口前のツリーのイルミネーション。まだ紅葉が残っていますね。
大ホールでツィメルマンのピアノ・リサイタルがおこなわれます。
入場するとクリスマスモードになっています。
ショパン、ドビュッシー、シマノフスキの作品
曲目は
ショパン:夜想曲 第2番 変ホ長調 Op. 9-2
ショパン:夜想曲 第5番 嬰へ長調 Op. 15-2
ショパン:夜想曲 第16番 変ホ長調 Op. 55-2
ショパン:夜想曲 第18番 ホ長調 Op. 62-2
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調「葬送 」Op. 35
休憩
ドビュッシー:版画
シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op. 10
というプログラム。前半にツィメルマンの母国ポーランドの作曲家ショパンの作品を、そして後半はツィメルマンが得意とするドビュッシーに同じくポーランドの作曲家シマノフスキの変奏曲です。
私がチケットを購入したのはチケットぴあで一般発売が開始された直後ですが、その8月4日時点では曲目が未定になっていました。ツィメルマンだからどんな曲でも聴いておきたいと思ってチケットを買ったのですが、2021年のショパンのピアノソナタ第3番に続いて第2番を聴けるなんて、予想以上のプログラムになりました。
今回もピアノの上に譜面を置いて演奏するスタイルでした。最初のノクターンは説明不要の有名な曲ですが、ツィメルマンが弾くと本当にロマンティック。聴き慣れた曲でもツィメルマンの手によると新しく聴こえるなぁと思い始めていたら、この日は本調子ではなかったのが、最初のトリルが少しもつれてしまいます。
ノクターンは1曲が短いので、曲が終わるごとに拍手を入れずに連続して演奏していましたが、季節柄か、曲間での聴衆の咳が多くて、ツィメルマンも演奏前に苦笑いをしたりも。
前半の圧巻はピアノソナタ「葬送」で、第1楽章と第2楽章では完璧にコントロールされたツィメルマンらしさが現れ、馬が疾走するかのような迫力。そして第3楽章は本当に素晴らしく、ゆったりと進む第3楽章では葬送行進曲の光景が思い浮かびました。トリオは本当にパッと光が差すようで、再び葬送行進曲になると静かな弱音で、長い長い回想(トリオ)から現実に戻ったら行進が遠くに行ってしまったかのようでした。第4楽章へは文字通り休みなくアタッカで突き進み、墓場に風が吹き荒れるような大きなうねりを生み出していました。ピアノソナタは本当に素晴らしかったです。
さらに後半のドビュッシーの版画ではツィメルマンのピアニズムが全開。水が跳ねるような軽やかさ、色彩の重なり方が本当に綺麗です。最後のシマノフスキの変奏曲も素晴らしかったです。
なんとアンコールを!しかも2曲!
私はこれまでツィメルマンのリサイタルに5回ぐらい行っているのですが、アンコールを聴いた記憶がなく、プログラム通りの曲目を終えてカーテンコールで照明が明るくなって終了だったのですが、今回はアンコールがありました。
実はジャパン・アーツのHP で12月4日のリサイタルでアンコール曲が1曲発表されていたので、12/13の会もアンコールがあるのかもと期待していのですが、ありました。しかも2曲です。
ラフマニノフ:13の前奏曲 嬰ト短調 Op. 32-12
ラフマニノフ:10の前奏曲 二長調 Op. 23-4
で、Op.23-4は12/4でアンコールで弾いたのと同じです。後半が始まる前に置かれた譜面にシマノフスキの変奏曲の次をめくるとラフマニノフの楽譜があったので、アンコールはする予定だったのですね。
今日のプログラムでショパンのピアニズム、ドビュッシーの色彩、そしてシマノフスキのリリシズムを感じていたので、そこからつながるラフマニノフのこの前奏曲は素晴らしい選択だなと思いました。ラフマニノフの軽やかとみずみずしさを感じてツィメルマンのピアノを堪能。
2曲目のアンコール後に、スタインウェイの鍵盤の蓋を閉じたツィメルマン。これでおしまいという意味です。スタンディングオベーションをする聴衆もいるほど素晴らしいピアノ・リサイタルになりました。
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
演奏:2023年12月13日, サントリーホール
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