
ツィメルマンが今年も来日。「曲目未定」でチケット販売
世界最高峰のピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンが今年も来日しています。前回は2023年12月13日のリサイタルに行って感想をこちらに書きました。この間にもブラームスのピアノ四重奏曲第2番と3番のアルバムがグラモフォン誌が選ぶグラモフォン・アウォード2025の最優秀室内楽レコードに選ばれるなど、素晴らしい活躍をしています。
2025年の来日公演でのピアノ・リサイタルは、「曲目未定」でチケット販売を迎え、どの作品が演奏されるのか分からず、また複数回公演があるホールではプログラムはAとBとかに分かれているのか、など不明な状態でファンの方々も手探り。名声と知名度の割には1ヶ月前でもサントリーホールのチケットの残席がある状態でした。



プログラムの内容は…
そして当日のプログラムは、前半はシューベルトの即興曲とドビュッシーが2作品。ドビュッシーはツィメルマンの意向により追加されたそうです。後半は「プレリュード&Co〜アーティスト・セレクション」というタイトルで。様々な作曲家の前奏曲のアラカルト。
- シューベルト: 4つの即興曲Op.90 D899
- ドビュッシー: アラベスク第1番
- ドビュッシー: ベルガマスク組曲より『月の光』
- (休憩)
- スタトコフスキ: 前奏曲Op.37-1
- バッハ: 平均律クラヴィーア曲集第1巻 前奏曲第1番 BWV846
- スクリャービン: 前奏曲Op.11-2
- ラフマニノフ: 前奏曲Op.23-4
- フランク: 前奏曲、フーガと変奏曲Op.18より前奏曲
- ドビュッシー: 前奏曲第1集第11番 バックの踊り
- シマノフスキ: 前奏曲 Op.1-7
- バッハ: 6つのパルティータ第1番より プレリューディウム BWV825
- フォーレ: 前奏曲 Op.103-3
- ドビュッシー: 前奏曲第1集第8番 亜麻色の髪の乙女
- ガーシュウィン: 前奏曲第3番
- ドビュッシー: 前奏曲第2集第6番 風変わりなラヴィーヌ将軍
- シマノフスキ: 前奏曲Op.1-2
- ショパン: 前奏曲Op.28-11
- ラフマニノフ: 前奏曲Op.32-12
- カプースチン: 前奏曲Op.53-9
- ラフマニノフ: 前奏曲Op.3-2 『鐘』
シューベルトの即興曲やドビュッシーの前奏曲のように、だいぶ前に録音している作品、そして名盤があるものもありましたが、後半の前奏曲はレコーディングでは聴けないものばかり。バッハのパルティータは2021年の来日公演でも聴いていますし、ラフマニノフの前奏曲Op.32-12は2023年来日公演でアンコールで弾いてくれました。とは言うものの、今回ツィメルマンで初めて聴く曲目が多く、自分で弾いたことがありそして色んなピアニストの演奏を聴いた立場でも、ツィメルマンが弾くとこうなるんだ、という新鮮さがいっぱいでした。
シューベルトの即興曲で始まり、ラフマニノフの鐘で締める
演奏前、終演後も含めて撮影NGだったのでホール内の写真が1枚もなくて言葉で説明しますが、ピアノはスタインウェイで、椅子はレバーで高さを調整するものがなくフラットな椅子。すっかり白髪のツィメルマン、いつものようにスコアのコピーを見ながら自分でめくって演奏するスタンスでした。
シューベルトの即興曲は第1番がさすらい人のように虚ろに。ツィメルマンの打鍵は「弾いている」ことを忘れさせてくれるほど滑らか。とりとめがなく漂う流れの中、ハッとさせる運命のリズム (タタタタン)。そう言えばこの曲も『運命』交響曲と同じハ短調だったなと思いながら聴き進めます。最強音でも気品があるのがツィメルマンの磨き上げられたピアニズム。
第1番の演奏後に咳する聴衆がたくさんいたので、客席を見つめるツィメルマン。その姿にクスッと笑いが起きますがこうした聴衆との一体感がツィメルマンのリサイタルの醍醐味ですね。
第2番は常に動き続ける音楽で、ツィメルマンのピアノがまるでビロードのようにまろやか。落ち着いた第3番や、湧き水が流れるような第4番も素敵でした。
ツィメルマンの意向で追加されたというドビュッシーの『アラベスク』。アラビア模様のように織りなす音楽。そして『月の光』は本当に月が浮かぶのが感じさせるような印象的な演奏。
後半は前奏曲をノンストップで演奏するスタイル。ラフマニノフとスクリャービンはツィメルマンの演奏を聴きたいと思っていたので夢が叶いました。クリスタルのような透明感のあるピアノ。各曲が終わるとスコアを自らめくっていましたが、片手でめくっている間もペダルでつないで音をつないでいたので、目をつぶっているとめくっていることにさえ気付かないですね。
バッハの平均律クラヴィーア曲集の前奏曲では、左手による低音をしっとりと奏で右手でメロディラインを綺麗に出していました。さすがにこの曲はスコアを見ないで演奏していましたね。パルティータは4年前にも聴きましたが、ツィメルマンのバッハは実にロマンティック。
印象的だったのは最後の『鐘』。ラフマニノフがモスクワの教会で聞いた鐘の音がモチーフになっていますが、ツィメルマンは1回目の鐘の後の2回目では少し小さく、3回目ではさらに小さく弾いての残響が漂うような印象。アジタートではツィメルマンの超絶的な技巧が堪能でき、最後のコーダではぐっとテンポを落とした大胆な解釈。鐘の余韻がホールに響き渡って最後の2つの和音が静かに消えていくのが素晴らしかったです。
私はこれで今年のコンサート納めでしたが、ツィメルマンで締められて良かったです。来年はサー・サイモン・ラトル指揮バイエルン放送交響楽団との来日公演で協演する予定のツィメルマン。これはマストで聴きに行きたいですね。
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
演奏:2025年12月3日, サントリーホール






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