このアルバムの3つのポイント
- ミケランジェリの珍しい正規のライヴ録音
- ジュリーニ&ウィーン響との共演
- 変幻自在のタッチ
クライバーと決裂したミケランジェリのピアノ協奏曲
イタリア出身の崇高なピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ。先週の記事でドビュッシーの前奏曲集第1巻と映像第1集・第2集のレコーディングを紹介しましたが、今回紹介するのはピアノ協奏曲。
同じくドイツ・グラモフォン・レーベルの鬼才指揮者カルロス・クライバーとの共演でベートーヴェンのピアノ協奏曲全集をおこなう予定だったそうです。どちらも録音嫌いでキャンセル魔としても名高いミケランジェリとクライバー。両者のシナジーが実現したらすごいことになっていたと思いますが、あまりにも音楽性の違いがあり、決裂したそうです。
同じイタリア出身の指揮者ジュリーニと
ドイツ・グラモフォンは次の手として、同じイタリア出身のカルロ・マリア・ジュリーニとの共演でピアノ協奏曲を進めることに。1979年にテレビ放送のためのウィーン・ムジークフェラインザールでの特別演奏会で、2月に第3番、第5番「皇帝」、そして9月に第1番と、3つの奇数番号の協奏曲を録音しています。CDによっては、第5番の第1楽章前と第3楽章の演奏後に客席からの拍手も入っています。
ミケランジェリの没後にリリースされたライヴ録音の海賊盤を除けば、第1番と第3番はミケランジェリ唯一の正規録音。第3番は生前に発売を渋っていたことがミケランジェリの伝記に書いてあるそうです。一方で第5番「皇帝」はミケランジェリが愛奏した曲で、10種類以上の録音があります。録音嫌いで正規の録音が極めて少ないミケランジェリが、ライヴ録音でベートーヴェンのピアノ協奏曲を録音したというのはそれだけでも素晴らしい予感がしますし、パートナーがジュリーニ指揮のウィーン交響楽団。
ジュリーニ自身もピアノやヴァイオリン、チェロとの協奏曲の録音は多いですが、ベートーヴェンのピアノ協奏曲はなかなか貴重。これも楽しみです。
「皇帝」では変幻自在のタッチ
まずは「皇帝」から。何度も演奏・録音してきたミケランジェリの十八番の曲とあって、第1番・3番よりもミケランジェリの演奏は実に深い解釈に裏付けられています。タッチが本当に変幻自在。第1楽章冒頭ではジュリーニの柔らかなファンファーレの後に、疾走するかのようなピアノで色鮮やかに演奏するミケランジェリ。3回目のフレーズでは駆け上がるところでややゆっくりと打鍵し、a tempo (元のテンポで)で自然とテンポを落としてオーケストラの勇ましいフレーズへとつながります。冒頭だけでミケランジェリのピアノは多彩な表情を見せてくれます。
ジュリーニ&ウィーン響の歌心のあるレガートな演奏で、「皇帝」の曲がジュリーニが指揮するだけでこれほど歌に満ちているのか驚かされます。ヴァイオリンはもちろん、オーボエやホルンが柔らかく奏でる旋律が本当に心地良いです。第2楽章の慈愛に満ちた演奏も奥深いです。
第3楽章はよりハツラツとして、最後のコーダでのピアノが縦横無尽に駆け巡るソロではヴィルトゥオーソとしてのミケランジェリのスタイルを感じさせます。
第1番と3番も
第3番と第1番は第5番「皇帝」に比べると地味かもしれませんが、こちらも個性的な演奏。ジュリーニとウィーン響が奏でると重々しいハ短調の第3番第1楽章でも伸び伸びとしています。ミケランジェリのピアノもクリスタルように透明感があって、レガート、スタッカート、強弱の多彩な表情を魅せてくれます。
まとめ
唯一の個性を発揮したピアニスト、ミケランジェリがジュリーニ&ウィーン響と魅せたベートーヴェンのピアノ協奏曲。ライヴ録音ということもあり、貴重で新たな発見があるアルバムです。
オススメ度
ピアノ:アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ウィーン交響楽団
録音:1979年2月(第3番・第5番), 9月(第1番), ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)
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試聴
第1番と3番はこちら、第5番がこちらのiTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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