このアルバムの3つのポイント
- シューマン、メンデルスゾーン、ベートーヴェンに続くネゼ=セガンとヨーロッパ室内管の交響曲全集第4弾
- ドイツの伝統とは一線を画す新風
- 室内管ならではの密度
好調なヤニック・ネゼ=セガンとヨーロッパ室内管の交響曲全集
最近はニューリリースのアルバムを集中的に聴いていますが今日紹介するのはカナダ出身の指揮者ヤニック・ネゼ=セガンとイギリスにあるヨーロッパ室内管弦楽団のブラームスの交響曲全集です。
2021年5月にライヴ録音されたベートーヴェンの交響曲全集を先日紹介したばかりですが、現在ヨーロッパ室内管の名誉団員を務めるネゼ=セガンはこのコンビでシューマン、メンデルスゾーン、ベートーヴェンと交響曲全集を3つ完成させていて、第4弾がブラームス。
米国メトロポリタン歌劇場管弦楽団 (MET)の音楽監督も兼任するネゼ=セガンは2024年6月にMET の13年ぶりとなる来日公演を率いました。6月27日のサントリーホール公演のレビューでは「ネゼセガンが提示するスマートな作品像をアンサンブルがタクトにシームレスに反応しながら実現する、その一体感もまた格別だ。」(江藤 光紀 氏)と称賛されていました。
MET との来日に合わせてブラームスのアルバムも日本盤が6/19に先行発売され、輸入盤のアルバムやApple Music での配信は7/12からでした。
型破りな指揮者
ネゼ=セガンは音楽の友 7月号でも表紙を飾りました。シャツのボタンは第3ボタンまで開いているし、胸元のネックレスが存在感。指揮者といえば燕尾服を着るというステレオタイプとは違う、型破りな指揮者でしょう。
演奏会の映像を観ても、ネゼ=セガンはジャケットよりもシャツのほうが10cm 以上長く、カフスがキラリと光っていますし、今回紹介するブラームスのアルバムでのジャケット写真も、エンジ色のクルーネックの長袖に黒のパンツ、そしてナイキのスニーカーという出で立ち。
ドイツの慣習とは一線を画す新風
このブラームスの全集は2022年7月と23年7月のバーデン・バーデンでのライヴ録音。ドイツ南西部にある有数の温泉地のここには、2500 席を収容できるドイツ最大のコンサートハウスがあります。場所は最大でも、ヨーロッパ室内管は「室内管」だけにオーケストラの編成は小規模。
このブラームスの全集は2022年7月と23年7月のバーデン・バーデンでのライヴ録音。ドイツ南西部にある有数の温泉地のここには、2500 席を収容できるドイツ最大のコンサートハウスがあります。場所は最大でも、ヨーロッパ室内管は「室内管」だけにオーケストラの編成は小規模。YouTube で交響曲第2番の第3楽章が公開されていますが、映像で見ると木管は2管編成ですが、弦楽器が少なめで第1ヴァイオリンが9人、第2ヴァイオリンが9人?、ヴィオラが6人?、チェロが6人、コントラバスが3人という構成。標準のオーケストラに比べて弦が少ないことで、弦の厚みは薄くなりますがその代わりに木管や金管とのバランスが変わり、密度の高い演奏になっています。
MET のメンバーはネゼ=セガンを「太陽のよう」と称したと音楽の友の記事に書いてありましたが、この映像でもネゼ=セガンは弾むように指揮をしていて、ものすごいエネルギーです。
演奏もドイツの慣習とは違っていて、重厚感があって恰幅の良いブラームスとは違い、ネゼ=セガンとヨーロッパ室内管はスマートで洗練されたブラームスを描いています。ベートーヴェンのときも繰り返しを守っていたこのコンビですが、ブラームスでも通常省略されがちな第1番、第2番、第3番ともに第1楽章の提示部の繰り返しを忠実に守っています。
ユニークなのは第1番の第1楽章。序奏からかなりテンポが速いのです。ハ短調という重たい調性と、ベートーヴェンの第九に続く交響曲というジャンルの重圧で、作曲に20年以上掛かったという「難産」の作品だということを考慮して、苦悩を表すようにまるで「Grave (重々しく)」が付いているかのように演奏されるこの序奏部。私にはここのティンパニが法事の木魚を連想されます。しかい実は「Un poco sostenuto (音を少し長めに)」の指示だけなんですよね。ネゼ=セガンとヨーロッパ室内管はこの序奏部をささっと流していき、ティンパニもタンタンタンと軽め。トラック1の5分20秒まで聴き始める提示部のリピートをおこなうのですが、それでこのテンポ設定が腑に落ちました。重厚、ゆったり、繰り返し無し、のドイツ的な演奏に対して、ネゼ=セガンたちが示したのはスマート、速い、繰り返しあり、の対比。第2楽章ではA 主題よりも中間部B が秀逸で、透き通った響きで弦がこの上ない美しさです。
第2番は第1楽章でそれぞれの楽器の音色が立ち上がるところが巧み。ネゼ=セガンのタクトとヨーロッパ室内管の自発的な響きが素晴らしいです。
第1番と第2番は2022年の演奏で、一方で2023年に演奏された第3番と第4番のほうはちょっと微妙かなと。
特に第3番は私の中では少し違和感があって、筋肉質なネゼ=セガンの指揮が曲風にミスマッチのようで。p (弱音)でも強いですし、ピアニッシモでも強い。フォルテッシモももちろん強い。つまり全体的に強い。第3番の第3楽章の動画がYouTube で配信されていますが、緩徐楽章でもネゼ=セガンの溢れるエネルギーを感じます。
第4番は名盤が多いので、どうしても先入観があって聴いてしまうのですが、カルロス・クライバーとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (1980年)はグイグイと引き込むような名演でしたし、マリス・ヤンソンスが最後の演奏会となったカーネギーホールでのバイエル放送交響楽団との演奏 (2019年)では第1楽章であれほどまでもはかない美しさで表現して印象的でした。それらを一瞬忘れて聴こうと思っても、ネゼ=セガンとヨーロッパ室内管のこの演奏は健康的。「ため息」主題も物哀しくならないのです。牧歌的のような美しさで描かれるこの音楽が変わるのは11:12からのコーダ。第4楽章のコーダにも共通していますが、エネルギーが怒涛のように流れてきます。
まとめ
好調なネゼ=セガンとヨーロッパ室内管によるブラームスの交響曲全集。オーケストラの編成は小規模でもパワーみなぎる演奏です。
オススメ度
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
ヨーロッパ室内管弦楽団
録音:2022年7月(第1番, 2番), 2023年7月(第3番, 4番), バーデン・バーデン祝祭劇場 (ライヴ)
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試聴
Apple Music で試聴可能。ドイツ・グラモフォンの公式YouTubeチャネルでは第2番第3楽章と第3番第3楽章の映像あり
受賞
新譜のため未定。
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