このアルバムの3つのポイント
- カラヤン晩年のベルリンフィルとのブルックナー
- 倍管による分厚い響き
- 映像で見るカラヤンの境地
カラヤンが晩年にソニーに遺した映像作品
今日は本当に久しぶりに指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンの記事を書きます。前回カラヤンの記事を書いたのが2022年7月24日なので、なんと1年7ヶ月ぶりです。クラシック音楽をあれこれ聴くようになったきっかけの一つがカラヤンの録音でもあるのに、次第に他の指揮者に関心が移っていき、むしろ聴き比べの比較対象となってしまったカラヤン。
今日紹介するのは、1985年11月のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのブルックナーの交響曲第9番の演奏会の映像作品。これがなぜ重要かと言うと、晩年のカラヤンはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と1988年11月に交響曲第8番(紹介記事)、そして生涯最後の録音となった1989年4月に第7番のライヴ録音(紹介記事)をしてきたのですが、後期交響曲の第9番については晩年のウィーンフィルとの録音がなかったから。
確かに1975年から81年にベルリンフィルとブルックナーの交響曲全集を録音しています(紹介記事)が、ベルリンフィルの黄金期というべききらびやかな演奏で、第9番についてはもっと枯淡なほうが良いのではと思っていたものでした。
カラヤンはEMI (現ワーナー)レーベル、ドイツ・グラモフォンレーベルと契約していましたが晩年にソニーに映像作品をかなり遺しています。そして2019年7月にソニー・クラシカルからブルーレイディスクとして再発売された「カラヤンの遺産」シリーズにブルックナーの交響曲第9番があるのです。
【ソニー・ミュージック】カラヤンの遺産 ブルックナー:交響曲第9番(“万霊節”メモリアル・コンサート1985)
万霊節とは「カトリックですべての逝去した信者の霊を祀る記念日。 万聖節の翌日すなわち 11月2日。 2日が日曜の場合は3日。 死者の記念日ともいう」との説明があります。
倍管によるスケールと晩年の解釈の変化
カラヤンのブルックナーの9番の映像作品は1978年5月のウィーンフィルとのものがドイツ・グラモフォンから出されていますが、こちらも比較として見ました。1985年のほうを見ると、この7年で別人のように年を召したなぁというのが率直な感想。拍手に迎えられて壇上まで来ますが、指揮台では手すりをつかまっていますし、指揮ぶりもだいぶこじんまりとなってしまいました。特に第1楽章の第1主題(2分の2拍子)は78年のウィーンフィルを指揮したときは目をつぶるスタイルでしたが演奏にはグイグイと推進力があり、ブンブンと手を振り回してまさに勇ましい指揮。それがこの85年のものではだいぶジェントルマンになってしまっていました。
そして注目すべきは「倍管」。通常は木管楽器の人数を倍にすることを意味しますが、Wikipedia にあるようにカラヤンは金管とティンパニを増やすことがありました。
通常はカール・ベームのように木管楽器だけを各4本にするが、カラヤンなどは金管楽器(ホルン、トランペット、トロンボーン)やティンパニ(ブルックナーの交響曲で)も倍にしている。
【Wikipedia】倍管
1978年のウィーンフィルとはティンパニが1人でしたが1985年のベルリンフィルは2人になっていました。Wikipedia のブルックナー交響曲第9番の記事だとティンパニは1で、他にはクラリネットが3、トランペット3、トロンボーンが3などと人数編成が書かれています。一方で今回のカラヤンはクラリネットを4人以上、トランペットを4人以上、トロンボーンを4人以上と増やしています。「以上」と書いてあるのはカラヤンの映像作品はカメラのアングルがオーケストラ全体を移さずに楽器の一部とか指揮者だけを映すようになっているため、実際の人数が把握できないからです。他の方のレビューだとトランペット5、トロンボーン5、第1ヴァイオリンが20などと書いてあったのですが、私はそこまで視認できませんでした。
第1楽章は2分の2拍子で始まりますが、カラヤンは目を開けて指揮しています。壮年期は目をつぶっていましたが、晩年になってのカラヤンの指揮スタイルの変化です。
ただ、壮年期の気迫ある演奏と異なり、提示部の第1主題の頂点でも響きはまろやかに混ざり合っています。カラヤンが探求していたブルックナーのイメージが、身体がやや不自由になったことも影響しているのか、晩年になって変わったことを印象付けています。
そして第2主題に入ると4分の4拍子に代わるのですが、カラヤンは左側の高弦セクションを見ながら指揮も柔らかくなります。驚くのは低弦の響き。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの優雅な響きにリードされがちなこの主題を、カラヤンはしっかり低弦の旋律を引き出しています。ヴィオラのラ ソ# ファ# ソ# ラ ソ# ファ# ソ#やド レ ド シ ド レ ド シが鳴り、 さらにチェロがド シ シ♭ ラ ソ シ レ (低い)レ とつなぎます。115小節目から始まるヴィオラとコントラバスによるユニゾンは聴きどころ。全集やウィーンフィルとの映像を聴き直しましたがそこまで低音を出してはいなかったので、晩年のカラヤンの解釈の変化と捉えられるでしょう。
第2楽章は勢いに任せるのではなく重厚な響きで聴かせてくれます。しかし何と言っても最高潮になるのは第3楽章。ブルックナー自身が「生への別れ」と称したコラールは極上の響きで堪能させてくれます。
最後の一音までカラヤンの美学を感じる演奏で、指揮棒で円を描くようにした後、手のひらをぎゅっと閉めて休符を表し、長い長いブルックナーの旅路を終えます。
まとめ
カラヤンが晩年に遺した貴重なブルックナーの交響曲第9番。映像で見ることでカラヤンの指揮スタイルの変化、倍音へのこだわりを感じる演奏会でした。
オススメ度
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1985年11月24日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ)
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試聴
特に無し。
受賞
特に無し。
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