このアルバムの3つのポイント
- ポリーニとアシュケナージの名盤に挑んだ21世紀のショパン
- ペライアの卓越した技術と表現力
- 米国グラミー賞と英国グラモフォン賞のW受賞
ポリーニ、アシュケナージ……ショパン・エチュード全集の決定盤
ショパンのエチュード(練習曲)と言えば、単なるテクニックのための練習曲ではなく、表現力も試される難曲中の難曲。
Op.10の12曲、Op.25の12曲がありますが、Op.10の第1番は右手をダイナミックに動かして分散和音を弾き、初心者が弾くと指が攣りそうになります。
第12番「革命」は左手のための練習曲で、右利きの方には少し不慣れな左手をあれほどダイナミックに動かす難曲ですし、第3番では「別れの曲」では詩情が試されます。
エチュード全集は、世の中の評価としては、イタリア出身のピアニスト、マウリツィオ・ポリーニの1972年の録音(FC2ブログ記事)と、旧ソ連出身のピアニスト、ヴラディーミル・アシュケナージの1971〜72年の録音(FC2ブログ記事)が決定盤としてあまりに有名。著名なピアニストでもエチュード全集に取り組むピアニストはそれほどいません。
ただ、この2つのアルバムだけで満足して良いのでしょうか。
アメリカ出身のピアニスト、マレイ・ペライアが21世紀に、第3の答えを出してくれました。
2001年にエチュード24曲を録音したペライア
マレイ・ペライアはOp.10と25の全24曲をロンドンのAIRスタジオで録音しました。
ソニー・クラシックスの解説によると、ペライアは晩年のヴラディーミル・ホロヴィッツと親交を深めてからヴィルトゥオーソ・ピアニストとしての方向を進むようになったとのことですが、これまでのペライアはどちらかというと安定した技術でふわっと自然体で演奏するところが特徴的でした。
このショパン・エチュードでも、決して技術が前面に出ているという印象は受けません。ただ、申し分ない技巧の高さです。
Op.10-1は素早いテンポで安定しています。キラキラと輝くようにエチュードの始まりをきらびやかに宣言しているようです。
続くOp.10-2では、鬼火のように光がゆらゆらと彷徨うような印象。細かい打鍵でフレージングも実に滑らかです。
そしてOp.10-3の「別れの曲」。ここでぐっとテンポを落とし、たっぷりと旋律を奏でていきます。慈愛に満ちています。
Op.10-4は対照的に、とても速いテンポ。アジタートで心を掻き立てます。私はこの曲はポリーニの1972年の録音が好きですが、このペライアの録音も素晴らしいです。演奏時間は2分2秒。奇しくもポリーニ盤と同じ演奏時間です。
少し飛んで、Op.10-12「革命」は唯一不満が残る演奏です。冒頭からインパクトが今ひとつで、もう少しエネルギッシュな演奏のほうが好みでした。
そしてOp.25-1「エオリアン・ハープ」。1音1音が細かく溶け合って、さざ波のように揺れます。メロディラインが浮き立つように美しく現れています。
Op.25-10のロ短調のエチュードは、力強くはありますが、ポリーニ盤を聴いたときのような圧倒感はあまり感じません。確かにうまいのですが、ペライアはパワー型のピアニストとは違うようです。
Op.25-11の「木枯らし」は、ゾクゾクという感じはしませんが、中庸の力で弾き込まれていきます。内声がくっきりと出ているのは嬉しいです。
Op.25-12の「大洋」は冒頭から迫力に欠ける気もしますが、安定した打鍵で、一定のテンポで弾き切っています。演奏時間は2分37秒で、こちらもポリーニ盤の2分32秒とほぼ同じです。
米国グラミー賞と英国グラモフォン賞のW受賞
ペライアのこのエチュード全集のアルバムは、米国グラミー賞と英国グラモフォン賞のW受賞を達成しました。2ヶ国以上の音楽評論家のお墨付きをもらって、21世紀のショパン・エチュード集の名盤にはこのペライア盤が含まれたと見なして良いでしょう。
まとめ
マレイ・ペライアが21世紀初めに一気に録音した24曲のショパンのエチュード。マウリツィオ・ポリーニやヴラディーミル・アシュケナージの名盤とともに、このペライア盤もエチュードを語る上で外せない1枚でしょう。
オススメ度
ピアノ:マレイ・ペライア
録音:2001年6月28-7月4日, エアースタジオ
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試聴
iTunesでSony Music Shopで試聴可能。
受賞
2002年の米国グラミー賞「BEST INSTRUMENTAL SOLOIST PERFORMANCE (WITHOUT ORCHESTRA)」と、2003年の英国グラモフォン賞の器楽部門と受賞。
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