このアルバムの3つのポイント
- 2005年のショパン・コンクール完全覇者のラファウ・ブレハッチによるポロネーズ集
- ヴィルトゥオーソを感じさせる「英雄」ポロネーズ
- 味わい深い「幻想」ポロネーズ
ショパン・コンクール完全覇者によるポロネーズ集
ポーランド出身のピアニスト、ラファウ・ブレハッチは2005年のショパン国際コンクールで優勝し、ポロネーズ賞やマズルカ賞などの副賞を全て受賞し、完全覇者となりました。
ドイツ・グラモフォンと契約し、最初にリリースしたのがショパンの前奏曲全集。「さり気なく、すごい」がレコード・レーベルのキャッチコピーでしたが、若いピアニストとは思えないぐらいの充実した演奏を聴かせてくれました。
2013年1月に、ブレハッチは今度はショパンのポロネーズ集を録音しています。収録されているのは、Op.26の2曲(第1番、第2番)、Op.40の2曲(第3番「軍隊ポロネーズ」、第4番)、Op.44(第5番)、Op.53(「英雄」ポロネーズ)、そしてOp.61(「幻想」ポロネーズ)の7曲です。
速めのテンポで乱れ打ち
このポロネーズ集は総じて速めのテンポ設定が取られています。
ブレハッチはベートーヴェンやモーツァルトのピアノソナタのアルバムや、バッハのイタリア協奏曲のアルバムでも、基本テンポが速いピアニストですが、このポロネーズでも速いなぁと思います。ただ、「幻想」ポロネーズは良い感じにゆったりとしています。
2つのポロネーズ Op.26
Op.26-1はアルバムの出だしを飾る演奏で、速いテンポが特徴。最初は「速すぎる」と思っていたのですが、聴いているうちにこのテンポでも違和感がないように思えてきます。ブレハッチの演奏に少しも無理がないのです。それだけ確かな打鍵と音楽的に筋の通った解釈をしているからでしょう。ポロネーズの独特のリズムもはっきり強調されて、本場ポーランドの生粋のポロネーズが楽しめます。
一方でOp.26-2は暗くて不気味な曲ですが、くすぶるような雰囲気がブレハッチの演奏によく表れています。ここではテンポ・ルバートを利かせ、一気に弾くフレーズでは連打するかのように非常に速い打鍵になっています。それでいて音楽が崩れることがなく、やはりブレハッチのショパンは詩的だと感じます。
2つのポロネーズ Op.40
2つのポロネーズOp.40で、軍隊ポロネーズと呼ばれるOp.40-1ではブレハッチは力強く、英雄的な演奏に仕上げています。速いパッセージではテンポをより速めることでヴィルトォーソぶりを見せつつ、打鍵はとても力強い。繊細なイメージの強いブレハッチがこれほど力強く弾くのは意外な気がしますが、軍隊ポロネーズによく合っています。
そしてOp.40-2では暗く不気味な感じをよく引き出しています。テンポはそれほど動かさないために、不気味さがより増しているのです。
ポロネーズ第5番 Op.44
ショパンのポロネーズの中で最もぞくぞくするのがこの嬰へ短調の第5番Op.44でしょう。序奏、中間部のマズルカ、後奏の三部構成になっていて、激動の渦のようなドラマチックな曲で、技術的にも高度ですし、演奏時間も長く、ピアニストの力量が試される曲でもあります。
このブレハッチの演奏は劇的です。とことん暗黒で、容赦がありません。対照的に、中間部のマズルカは穏やかで愛おしさすら感じます。
英雄ポロネーズ Op.53
ブレハッチが英雄ポロネーズを録音したのはこれで3回目。1回目はショパンコンクール前の2005年4月の録音。さらに2005年ショパンコンクール本番でのライヴ録音です。
ブレハッチの2007年の来日リサイタルを私も聴きに行ったのですが、そこで弾いた英雄ポロネーズはテンポを速くして、珍しくバランスを崩してミスタッチが多かったです。
今回の2013年の録音は来日公演でのテンポと同じくらいの速さですが、完成度がかなり高まっています。タッチも力強く、圧倒的な演奏に仕上がっているのです。これには驚きました。ブレハッチはどちらかというとショパンの繊細さを捉えるところに長けていると思っていたのですが、この演奏を聴くとヴィルトゥオーソ的な演奏もできるのだなと感心してしまいます。
圧倒的だけではなく、弱音の部分のフレーズにもブレハッチの良さが出ています。特に開始4分から5分のところのフレーズで、細かい音、小さい音まで注意深く弾かれ、カンタービレで旋律が美しく歌われていますし、ラストは素速い打鍵で圧倒的です。
幻想ポロネーズ Op.62
2006年の来日リサイタルで初めて生のブレハッチを聴いたときに、演奏されたのが幻想ポロネーズでした。とてもとても素晴らしくて、水のように透き通った音色で、深みのある演奏でした。ブレハッチが幻想ポロネーズを録音したら絶対聴こうと思っていたのですが、それがようやく叶いました。
他のポロネーズが軒並み速いテンポを取っているのに対し、この曲ではゆっくりめです。序奏はたっぷりと間合いを取っており、穏やかにポロネーズが流れていきます。2006年のリサイタルで聴いたのと変わらないブレハッチのアプローチで、思わずホっとしてしまいます。
後半のテンポが上がるフレーズでは速い打鍵で進みますが、圧倒的な演奏でもブレハッチらしい気品は保たれていて、音は濁らずに重なっていきます。
まとめ
ショパン・コンクールの完全覇者が送り出した、ポロネーズ集。速めのテンポの中でも詩情を感じさせる、矛盾させる2面を融合させた演奏でしょう。
オススメ度
ピアノ:ラファウ・ブレハッチ
録音:2013年1月, フリードリッヒ・エバート・ホール(ハンブルク)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
2013年4月のドイツ批評家賞を受賞。
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