このアルバムの3つのポイント

ショパン・リサイタル マウリツィオ・ポリーニ(1968年)
ショパン・リサイタル マウリツィオ・ポリーニ(1968年)
  • マウリツィオ・ポリーニの再デビュー盤
  • オール・ショパンのレコーディング
  • 漂う緊迫感

マウリツィオ・ポリーニは18歳で臨んだ1960年のショパン国際コンクールで優勝して、審査員長を務めたアルトゥール・ルービンシュタインから「技術的には、我々審査員の誰よりも上手い」という賛辞をもらい、一躍全世界から注目を浴びるピアニストとなったのですが、その直後の1960年4月20-21日にショパンのピアノ協奏曲第1番の録音をおこなってから、一度表舞台から消えました。

「ピアノ以外にも学ぶことが多くある」と言って、建築などの音楽以外の勉強をしたり、クラウディオ・アバドと親交を深めて指揮を学んだり、ピアノについてもアルトォーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに師事して研鑽を積みました。そしてドイツ・グラモフォンで1971年に録音された「ペトルーシュカからの3楽章」とプロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番でデビューを飾ることになるのですが、実は1968年秋のロンドン・リサイタルからコンサート活動を再開していたことが分かっています。

今回紹介するアルバムは、1968年6月と7月にフランスのパリで録音されたもので、ポロネーズ第5番、第6番「英雄」、ノクターン第4番、第5番、第7番、第8番、そしてバラード第1番というオール・ショパン・プログラムです。日本では1971年3月にリリースされたようです。

私はまだEMIレーベル時代の2004年にリリースされたTOCE-13039でこの録音を聴いていますが現在では廃盤。今入手できるのは2016年にワーナー・クラシックスからリリースされているWPCS-13543ですが、こちらは1960年のショパンのピアノ協奏曲第1番も収録されていますが、収録時間の関係で1968年のレコーディングからポロネーズ第5番だけが欠落しています。このアルバムで最も素晴らしい出来がこの第5番だけに、実に惜しいです。

冒頭の嬰ヘ短調のポロネーズ第5番からハッとさせられます。ミケランジェリに師事したポリーニの演奏の特徴がよく顕れていますが、全ての和音が均等に弾かれる打鍵で、いきなり暗黒の世界に引きずり込まれる感じです。

バラード第1番はこちらの特集記事で既に紹介していますが、ものすごい集中力で力強く演奏され、雄大なショパン像を描いています。ただ、開始2分13秒あたりで指が転んでいるので、70年代のポリーニの完璧さまであと一歩という感じです。

Op.15とOp.27の各2曲ずつの4つのノクターンも渋い選曲で、研ぎ澄まされた集中力です。ノクターンの録音は2005年の全集(FC2ブログ記事)で全て演奏されましたが、それまでは無かったのでまだ26歳という若さのポリーニの演奏を聴けるのは非常に貴重。夜というか闇といった表現が似合うダークな演奏です。ちなみにノクターン第4番Op.15-1では1分35秒のところで「イッ」という唸り声が聞こえますが、ポリーニの声でしょうか。

そして最後の曲は「英雄」ポロネーズ。この曲をこれほど技巧的に弾いた演奏は珍しく、はっと目が覚めるような演奏でです。特にすごいのが開始4分後あたり。左手が左に回転する打鍵の動きをして、右手でメロディを奏でるのですが、途中で左手が右回りに切り替わり、長いクレッシェンドでフォルテに向かいます。このクレッシェンドが徐々に徐々に強くなっていくのですが、コントロール加減が絶妙です。素人が弾くと左手が吊ってしまいそうになる難曲ですが、ポリーニはものともせずに弾いています。

マウリツィオ・ポリーニが表舞台から消えて研鑽を積んでから再デビューした頃のショパン録音。後年の活躍を彷彿とさせる衝撃的なショパンです。

オススメ度

評価 :4/5。

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:1968年6月17-21日, 7月1-3日, サル・ワグラム, パリ

iTunesで試聴可能。

フランスのACCディスク大賞受賞。

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