このアルバムの3つのポイント
- マーラーを得意としたテンシュテットの指揮
- シカゴ響への唯一の客演
- あぶり出す光と影
マーラーを得意としたテンシュテット
マーラーを得意としたドイツ出身の指揮者クラウス・テンシュテットは、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との交響曲全集もありますが、単発の録音も何種類かあります。
今回紹介するのは、シカゴ交響楽団との唯一の客演となった1990年5〜6月演奏会のライヴ録音です。
実はテンシュテットについては名前は知っていましたが、実際に聴いたことはなく、今回聴くことになったのもふとしたきっかけだったのです。
あと数日で閉店する古本屋で閉店セールを実施していて、最後に何か貢献をしようと思ってクラシック音楽のCDコーナーを見ていたんです。するとこのテンシュテットのCDを見付けた、とわけで、しかもオーケストラがシカゴ響。ゲオルグ・ショルティやカルロ・マリア・ジュリーニの時代の演奏からこのオケに魅了され、今もリッカルド・ムーティとの『カヴァレリア・ルスティカーナ』のライヴ録音も聴いています。
テンシュテット、シカゴ響との唯一の客演
シカゴ響の「巨人」の録音といえば、米国グラミー賞を受賞した1971年録音の首席客演指揮者ジュリーニとの録音や、音楽監督のサー・ゲオルグ・ショルティとのも録音も名盤です。クラウディオ・アバドや首席指揮者ベルナルト・ハイティンクが2008年にライヴ録音したものもありますね。米国のオーケストラでマーラーを聴くならシカゴ響が真っ先に思い浮かびます。
そんなシカゴ響にテンシュテットが唯一客演したのがこの1990年の春。そのライヴ録音が今回紹介するものですが、今まで聴いてきた『巨人』とは違う魅力を引き出しています。
テンポはゆったりとしているのですが、第1楽章の冒頭から光を放っています。林を散策するときに差し込むような陽の光のイメージ。音楽の流れは柔らかく緻密で、個々の旋律がくっきりと描かれていきます。第1楽章終盤のパワフルな金管はシカゴ響らしいですが、しっかりと手綱は抑えられています。第2楽章のスケルツォでは低弦の旋律がはっきりと現れ、不気味ながらも活発でとらえどころのないアンニュイさ。それでいて中間部はこれまたゆったりと牧歌的な旋律が美しく歌われていきます。
第3楽章は少しテンポを上げて静かなリズムにオーボエの旋律が印象深く奏でられます。ただ、第4楽章はややテンポを落とし、マーラーの混沌とした世界を丁寧に描いていきます。パワフルが持ち味のシカゴ響ですが、テンシュテットはこの最終楽章をカタストロフィとして表現するのではなく、室内楽のように緻密に、見落としがちな旋律をしっかりと引き出しています。やっぱりシカゴ響だなと思うのは、トランペットがきらきらと輝いているところですね。コーダではゆっくりと山頂に上り詰めたかのようにクライマックスを築き、一気呵成になだれ込みます。終わるやいなや、観客からのブラボーと割れんばかりの拍手。
まとめ
マーラーを得意としたテンシュテットが唯一の客演だったのがもったいないぐらいのシカゴ響との名演。古本屋の閉店セールで手にした素敵な出会いでした。
オススメ度
指揮:クラウス・テンシュテット
シカゴ交響楽団
録音:1990年5月31日-6月4日, シカゴ・オーケストラ・ホール(ライヴ)
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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