このアルバムの3つのポイント

ベートーヴェン交響曲全集 サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1986-89年)
ベートーヴェン交響曲全集 サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1986-89年)
  • ショルティ&シカゴ響の2回目のベートーヴェン交響曲全集
  • しなやかさ、深み、柔らかさが増した演奏
  • 第九は米グラミー賞受賞

今日は久しぶりにショルティの記事を。

20世紀を代表する指揮者の一人、サー・ゲオルグ・ショルティは、幅広いレパートリーを持っていましたが、ベートーヴェンについても交響曲全集を2回、当時音楽監督だったシカゴ交響楽団と完成させています。

こちらの記事で既に紹介しましたが、ヴァーグナーの『ニーベルングの指環』のスタジオ録音を開始した合間に1958年と59年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と火花を散らすような交響曲第3番「英雄」、第5番「運命」、第7番を録音しています。

少し間が空いてから1972年から74年に満を持してシカゴ響と始めた1回目の交響曲全集。繰り返しの指示や強弱など楽譜に忠実な演奏で、シカゴ響を鳴らしきっています。この全集は1975年の米国グラミー賞の「クラシカル・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。

筋肉質とかマッシブと評される1回目の全集は、シカゴ響のパワフルさと、レコーディング技術でも空気圧を感じるような音を意識していました。1972年の第九録音は雷が落ちるような激しさがあり、私自身もお気に入りの演奏です。指揮者のキャリア初期はオペラを指揮して頭角を表したショルティが、ドラマティックな表現を交響曲の中に持ち込んだ、そんな印象でした。

今回紹介するのはショルティがシカゴ響と1986年から89年に掛けて録音した2回目の交響曲全集です。こちらも第九のアルバムが米国グラミー賞の最優秀オーケストラ・パフォーマンスを受賞しました。

国内盤で分売されて再リリースが何回かされていますが、全集がCD5枚組としてタワーレコード独自の企画「ヴィンテージ・コレクション」で2018年12月に出ています。私もこちらで聴いています。

よりしなやかに、抑えを効かせて

1回目の全集と違って、演奏はよりしなやかになっています。この12年間のうちにショルティが円熟して少し角が取れて丸くなってきたというのもありますし、デジタル録音なので音声がクリアに聴こえるということもあるでしょう。楽譜に忠実な解釈は2回目の全集でも共通していますが、旧盤でマッシブで劇的な表現が特徴だったのに対し、新盤は滑らかに音がつながれていきます。

第九は新盤だとグラミー賞を取っていますが、私は旧盤のほうが好みですね。第1楽章でのあの緊張感ある演奏は他に代えられないですし、第4楽章のプレストでの圧巻はすさまじいものでした。それに比べると1986年の新盤では、第1楽章はゆったりとしたテンポで悠然とし、第2楽章でも滑らかに弦のトレモロが演奏され、楽器の掛け合いがハツラツとしています。第3楽章の美しさはより増しています。第4楽章では余裕があるテンポで、音楽が自然に引き出されていくようです。

旧盤より面白いと思ったのは第1番、第2番、第4番の小規模な交響曲。フレージングが本当に滑らかになったと感じます。第3番「英雄」や第6番「田園」、第8番ではしなやかさや楽器の明るさが増したようです。第5番「運命」と第7番は剛体のような硬さがあった旧盤から柔軟さが増しています。

旧盤では炸裂していたシカゴ響のパワフルな金管セクションも、この新盤の全集では抑えが効いています。シカゴ響らしさを感じるのは旧盤、よりモダンになったのが新盤、という違いでしょうか。

サー・ゲオルグ・ショルティとシカゴ交響楽団の2回目のベートーヴェンの交響曲全集。よりしなやかに変わっていたショルティとシカゴ響の変化を感じる全集です。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
ソプラノ:ジェシー・ノーマン
アルト:ラインヒルト・ルンケル
テノール:ロベルト・シュンク
バス:ハンス・ゾーティン
シカゴ交響合唱団(合唱指揮:マーガレット・ヒリス)
録音:1986年9-10月(第9番), 10月(第5番), シカゴ・メディナ・テンプル
1987年9月(第4番) 1988年5月(レオノーレ序曲第3番, 第6番),
1989年5月(第3番, 第7番), 10月(第8番), 1989年11月(第1番, 第2番),
シカゴ・オーケストラ・ホール

iTunesで試聴可能。

1988年の米国グラミー賞「最優秀オーケストラ・パフォーマンス」を受賞。「最優秀クラシカル・アルバム」と「最優秀技術賞アルバム」にノミネート。

Tags

コメント数:1

  1. 2回目の全集の第九は最近、Apple Music で空間オーディオ(Dolby Atmos)で聞くことができるようになっています。自分はもっぱらヘッドホンでのリスニングなので、録音がイマイチだとどうしてもそれが気になってしまうのですが、この第九は演奏のすばらしさに加えて、録音や臨場感も文句なしで、至福の時間が過ごせました。第三楽章のテンポもこのくらいゆったりとしたほうが天国的な美しさに浸れるので好きです。他の交響曲も2回目の全集のものを聴いてみようと思います。

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (16) 1978年 (19) 1979年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (21) アンドリス・ネルソンス (22) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (85) ウィーン楽友協会・大ホール (59) エジソン賞 (19) オススメ度2 (14) オススメ度3 (80) オススメ度4 (120) オススメ度5 (155) カルロ・マリア・ジュリーニ (28) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (15) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (37) サー・ゲオルグ・ショルティ (55) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (53) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (33) ベルナルト・ハイティンク (38) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (67) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (43) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (18) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (45) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (28)
Categories