
ショルティのマーラー交響曲全集の旧録のリマスターが完結
今回紹介するのは、名指揮者ゲオルグ・ショルティ (1912-1997年)によるマーラーの交響曲全集の旧録音。
ショルティは1961年から1972年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (今のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)、ロンドン交響楽団、シカゴ交響楽団を振り分けてマーラーの交響曲全集を完成させています。これを旧録音と言います。1980年代になってシカゴ響と第1〜4、9番を録音してこのオケだけで交響曲全集を完成。これが新録音です。
タワーレコードが独自の企画盤でショルティの旧録音を最新リマスターしていて、2017年に10月にシカゴ響との第5番〜7番、そして同年11月に第8番を復刻。さらに2025年11月にロンドン響との第1〜3番 (こちらの記事で紹介しましたが聴いたら電撃が走るほどの名盤)、そして12月にコンセルトヘボウ管との第4番、ロンドン響との第9番、シカゴ響との歌曲集『子どもの不思議な角笛』の録音をリマスター。これでショルティのマーラー交響曲全集旧録音はリマスターが完結しました。
かつて「役人が給料欲しさに演奏している」と言われたコンセルトヘボウ管との第4番
マーラーの交響曲全集は1961年2月のコンセルトヘボウ管との第4番のセッション録音から開始しました。アルバムの解説によると、オランダのフィリップス・レーベルと専属契約していたコンセルトヘボウ管はデッカとの録音が久しぶりで8年ぶり。そしてこの後はデッカによるコンセルトヘボウ管の録音は1980年まで途絶えたということ。デッカ専属のアーティストをフィリップスに貸し出した見返りに1961年の録音が実現できたと考えられていて、4日分のセッション録音の枠でデッカは伝説的なエンジニア、ケネス・ウィルキンソンが担当して、ショルティとのマーラー交響曲第4番、そして指揮者アナトール・フィストゥラーリとのチャイコフスキー『白鳥の湖』抜粋がレコーディングされています。
それ以降、フィリップスは専属指揮者でコンセルトヘボウ管の首席指揮者だったベルナルト・ハイティンクとマーラーの交響曲全集を進めたので、ショルティ&コンセルトヘボウ管によるマーラーは第4番の1曲のみ。第2楽章のヴァイオリン独奏はスティーヴン・スターリク、第4楽章のソプラノはシルヴィア・スタールマン。ただ、ショルティのこの録音には音楽評論家の吉田 秀和氏が辛口の評論をしています。
ところが、《第四》の番になったら、それまでに比べ、一段とおちるのに気がついた。あの―ほとんど―初めから終わりまで、甘美で夢のような旋律で満たされている音楽が無機的と呼びたいようないかにも味気ない鳴り方しかしない。
吉田 秀和, ショルティのマーラーの交響曲
<中略>
私はコンセルトヘボウ管弦楽団がロンドン交響楽団より下の楽団とは思わない。しかし、ここでみる限り、まるで役人が集まって、ただもう月給ほしさに演奏しているような自発性の乏しい演奏になっている。
いや、このリマスターされた録音を聴くとそんな感想には決してならないですね。オリエンタルな香りがするこの作品を、マーラー演奏の文化が定着しているコンセルトヘボウ管の豊かな響きとややシャープな切り口で語るショルティのコンビで楽しめます。第2楽章でのヴァイオリン独奏とホルンの掛け合い、それにトランペットが加わるのを聴くと自発性が無いなんてとても感じないです。むしろ生き生きと、水が弾けるような勢いがあります。
再録音との解釈の違いが際立つロンドン響との第9番
第9番は旧録 (1967年)と再録 (1982年、こちらの記事で紹介)でショルティの解釈が大きく異なる作品。私はカルロ・マリア・ジュリーニの影響だと考えています。ジュリーニはシカゴ響と第9番を録音し (197X年)、マーラーの作品から毒を抜いて歌謡性の極みを描きました。このアルバムは米国グラミー賞、英国グラモフォン賞、日本のレコード・アカデミー賞などを受賞し絶賛されたもの。それを聴いたかどうかは真偽は定かではないですが、1983年のショルティの再録ではテンポがゆったりとして旋律を引き出していました。こちらもグラミー賞を受賞しています。
翻ってロンドン響との第9番。第1楽章なんかは走り書きのように進むショルティとオケ。ただマスターテープの状態が良くないのか、2025リマスターでも音が割れるところがあります。ショルティのボルテージの高さが収まりきれていません。ショルティのマーラーの旧録の中でもこの第9番だけは音質に差を感じます。嵐のように2楽章、3楽章と続き、第4楽章でようやく「死」の世界が見えてきました。うごめくような美しさの中に陰る儚さ。ファゴットのソロのしんみりとした後に弦のトゥッティで襲いかかるような力強さはまさに壮年期のショルティ。
私は1982年の再録のほうを推しますが、それにはない激流のような力強さがこの旧録にはあります。
うまさが際立つ『角笛』
歌曲『子どもの不思議な角笛』は音楽監督を務めたシカゴ響との録音で、やはりうまさが際立ちます。イヴォンヌ・ミントンの芯のある歌声も良いですね。
オススメ度
ソプラノ:シルヴィア・スタールマン (第4番)
メッゾ・ソプラノ:イヴォンヌ・ミントン (歌曲)
指揮:ゲオルグ・ショルティ
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (第4番)
ロンドン交響楽団 (第9番)
シカゴ交響楽団 (歌曲)
録音:1961年2月, アムステルダム・コンセルトヘボウ (第4番), 1967年4月&5月, ロンドン・キングズウェイ・ホール (第9番), 1970年4月, シカゴ・メディナ・テンプル (歌曲)
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試聴
Apple Music(第4番), Apple Music(第9番) でリマスター前の音源を試聴可能。
受賞
特に無し。







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