このアルバムの3つのポイント

マーラー交響曲第9番 サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1982年)
マーラー交響曲第9番 サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1982年)
  • ショルティの15年ぶりのマーラー第9番の再録音
  • よりゆったりとしてバランスの取れた快演
  • 米国グラミー賞で3冠を受賞

グスタフ・マーラーの作品を得意とした指揮者サー・ゲオルグ・ショルティですが、第9番までの交響曲全集をロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ロンドン交響楽団、シカゴ交響楽団を振り分けて一度完成させ、その後ロンドン響、コンセルトヘボウ管と録音した交響曲をシカゴ響と録音しなおし、シカゴ響だけの全集を完成させています。

第9番についてはこちらの記事で紹介した1967年の4月から5月のロンドン交響楽団とのセッション録音があります。ショルティらしくやや速めのテンポで押し切った非常にボルテージの高い演奏でした。そのときは4楽章でトータル79分53秒でCD1枚に収まっていました。このシカゴ響との再録音では演奏時間に大きな違いがあり、トータルが85分超。第1楽章では3分以上長くなり、そして第2楽章と第4楽章でも1〜2分長くなっています。その一方で、第3楽章のは13分09秒が12分24秒と逆にやや速くなっていて、前後の緩徐楽章をゆっくりにしたためにメリハリをつけるためにロンドーブルレスケを敢えて速くしたことが伺えます。

曲目ロンドン響(1967年4月-5月)シカゴ響(1982年5月)[参考] ジュリーニ/シカゴ響(1976年4月)
第1楽章27:0530:1431:52
第2楽章16:3817:4817:12
第3楽章13:0912:2413:57
第4楽章22:5524:3825:28
ゲオルグ・ショルティのマーラー交響曲第9番録音の演奏時間の違い

シカゴ響のマーラーの交響曲第9番と言えば、かつて首席客演指揮者を務めたこともあるカルロ・マリア・ジュリーニとの1976年4月のセッション録音があり、こちらの記事で紹介しましたが、カンタービレを効かせた演奏で、各国のレコード賞を受賞した名盤です。ジュリーニはややゆったりとしたテンポで旋律を歌うように引き出すのが特徴ですが、ショルティのこの再録音での演奏時間の違いを見ると、第3楽章以外はジュリーニのこの録音から影響を受けているように思えます。

こちらの記事で紹介したようにレナード・バーンスタインが1979年10月のベルリンフィルとの演奏会で第9番を指揮していますが、カラヤンがバーンスタインから影響を受けてその直後の第9番の1回目の録音(79年11月〜80年2月、9月)に臨んだとも言われているので、同時代の指揮者同士のインスピレーションはあったと思います。

また、奇しくも同じ1982年には9月にショルティとライバル関係にあったヘルベルト・フォン・カラヤンがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してマーラーの交響曲第9番をライヴ録音しています(紹介記事はこちら)。カラヤンにとっても2回目の録音になり、こちらのアルバムは1984年度の日本のレコード・アカデミー賞「交響曲部門」と1984年の英国グラモフォン賞「オーケストラ部門」及び「レコード・オブ・ザ・イヤー」を受賞しています。

一方でショルティとシカゴ響のこの第9番のアルバムは1984年の米国グラミー賞の「最優秀オーケストラ・パフォーマンス」及び「最優秀クラシカル・アルバム」を受賞し、さらに担当したDecca のエンジニアのジェームズ・ロック(James Lock) が「最優秀アルバム技術賞」を取って三冠を達成。

カラヤン&ベルリンとショルティ&シカゴの同じ曲のレコーディングで評論家が二分した年でした。

第1楽章の始まりから旧録音と違います。ゆったりとしたテンポでチェロ、ハープがささやくように奏でる中、ホルンがゲシュトップフト (gestopft、ベルの中に手を入れて柔らかい音色を奏でる奏法)で強くアクセントを効かせて登場しますが、シカゴ響だけにゲシュトップフトでも音色がはっきりと際立っています。この冒頭を聴いただけで「おや?」と思いました。キビキビとしたマッシブな演奏を特徴とするショルティがかなり我慢をしてゆったりとテンポで演奏させているように感じられます。やはりジュリーニの影響でしょうか。いつもなら引き締まったシカゴ響のシャープな音色も、少し柔らかみを感じます。

ショルティのことだから怒涛の渦のようにダイナミックな演奏にしていくのかと予想しつつも、同じようなゆったりとしたテンポで進んでいきます。性急すぎて間が短いといったロンドン響との旧録の欠点を克服したかのように、別人のような演奏です。キャリアの初期でも晩年でも演奏スタイルにそれほど大きな違いが無いのがショルティですが、このマーラーの第9番についてはよほど研究したのでしょうか、驚くほど丹念に演奏していきます。もちろんシカゴ響だけに鳴らすところではしっかりと鳴らしきっています。

第2楽章は「緩やかなレントラー風のテンポで、いくぶん歩くように、そして、きわめて粗野に」という指示ですが、ここでもショルティは抑えが効いたリズムで速すぎず遅すぎず絶妙なテンポ。第1楽章と第4楽章に注目が行きがちなこの交響曲で、第2楽章を聴いていて面白いと思ったのは初めてです。

第3楽章のロンド=ブルレスケはようやくショルティらしさが出てきました。引き締まったマッシブなハーモニーでテンポも速めで実にキビキビとしています。

そして注目の第4楽章。この曲に漂う死のテーマに関わらず、ロンドン響との旧録音では健康的過ぎたハーモニーだったショルティですが、このシカゴ響との演奏ではシンフォニックなところは相変わらずですが、シカゴ響の官能的なヴァイオリンが切なさを際立たせます。ヴァーグナーの「愛の死」から引用したと思われる回音音型(ミ ファミレ♯ミ)が随所で演奏されていることに気付きました。

ショルティの2回目にしてシカゴ響とのマーラー交響曲第9番の録音。同時代の指揮者の演奏を研究したと思われ、自身の旧録音の欠点を克服した別人のような演奏です。様々な演奏家の演奏を聴き比べてから聴くと「なるほど」と思うところが満載の演奏でした。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1982年5月, シカゴ・オーケストラ・ホール

iTunesで試聴可能。

1984年の米国グラミー賞の「最優秀オーケストラ・パフォーマンス」及び「最優秀クラシカル・アルバム」を受賞。また技術部門でもDecca のエンジニアJames Lock が「最優秀アルバム技術賞」を受賞。

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コメント数:1

  1. 名盤が多い名曲ですが、これは特別な演奏です。第2楽章は、かなり遅めで不思議な緊張感があります。第3楽章はシカゴ響の本領発揮というところですが、良い意味で抑制が効いているようでした。第4楽章では弦楽器の重厚な響きに身を委ねて音の振動を体で感じることが出来たら、と強く思いました。今後もこの演奏は何度も聴き直すでしょう。

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