このアルバムの3つのポイント
- ベルリンフィルの楽団長の望みで客演したバルビローリ
- オーケストラが感動してレコーディングが実現されたベルリンフィル初のマーラーの交響曲第9番
- 理想的な歌わせ方
レコードショップで出会ったバルビローリ盤
1つ前の記事でサー・サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による1993年のマーラー交響曲第9番の録音を紹介しましたが、またもやこの曲を紹介したいと思います。
Twitterでもつぶやきましたが、先週末に久しぶりタワーレコードの店舗に行ってきました。最近はCDやDVDもオンラインでしか買わないので、店舗に行ったのは6年ぶり。タワーレコード渋谷店はビル丸々タワーレコードが入っているのですが、私の記憶では7階のフロア全てがクラシックだったのですが、現在はジャズやソウルミュージックなど共有し、フロアの半分ほどになっていました。時代の流れだなぁと思いつつも、私自身も店舗に行っていないから責任があるよなぁと、店舗に貢献しようと普段聴かない演奏家のCDを探すことに。
店頭ポップを見ながら「この指揮者聴いたことがないけどこの作品だとこれが一押しなんだな」とか「これは聴いたことがあるけどやっぱり良いよね」とか、しみじみ思いながらも選んだのがイギリス出身の名指揮者、サー・ジョン・バルビローリによるマーラーの交響曲第9番。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮シカゴ交響楽団の録音(こちらの記事で紹介)のポップで、詳細な文言は忘れましたが、バルビローリ&ベルリンの名演とジュリーニ&シカゴの奇跡が並び評されていました。
いぶし銀の指揮者バルビローリ
バルビローリはイギリス出身で1899年生まれで1970年没。キャリアも結構長いのですが、そういえば、名前はたまに聞くけど聴いたことがなかったのです。
以前ルドルフ・ケンペとウィーンフィルによる『ローエングリン』の録音を紹介した際に、レコード芸術2021年10月号で「いぶし銀」の指揮者特集をしていたことに触れました。イギリスのいぶし銀指揮者の中にバルビローリも載っていたのですが、「チェリストとしてキャリアを始めたことからもわかるように、濃厚な弦楽器の歌わせ方に彼の特徴がある。」との説明が。
今紹介するのはバルビローリが1964年1月にベルリンフィルとセッション録音したマーラーの交響曲第9番で、ベルリンフィルにとって初のこの曲の録音となりました。
幸いにも2020年にリマスターされた音源から廉価版のCD BOXとしてワーナーから2021年8月にリリースされたものがあります。
吉田 秀和 氏も紹介
音楽評論家の吉田 秀和さんの文章でマーラーに関する作品を集めた「決定版マーラー(河出文庫)」でも、「表現主義的ネオ・バロック 交響曲第九番」というタイトルでこのバルビローリ盤が紹介されています。
バルビローリの《第九》がベルリンでセンセーショナルな成功を収めた、というのは、何年も前、新聞で読んだ話である。
(中略)
1966年に、ベルリンからは (中略) フィルハーモニーも来た。その折も、私は、フィルハーモニーの楽団長シュトレーゼマンと半日を楽しく過ごしたのだが、私は、このレコードにひどく感心していたので、彼に聞いてみた。シュトレーゼマンは、バルビローリを登用したのは自分だといって、ひどくうれしそうだった。
(中略)
マーラーの《九番》で、これほどまでの名演をしようとは、私も正直のところ知らなかった。
(中略)
このレコードは、実演があまり評判が良く、また楽員たちも、熱心に希望したので、実現したのだそうだが、そういった自発的な喜びは、このレコードを聴いても、感じられる。
吉田秀和「表現主義的ネオ・バロック 交響曲第九番」
ベルリンフィルの楽団長自らバルビローリをベルリンフィルの指揮台に打診し、そしてオーケストラの期待以上の名演をおこなった交響曲第9番。さらに演奏会だけではなくレコーディングも、ということで録音されたのがこのバルビローリ盤というわけです。
ワーナーレーベルの解説によると、1963年1月の演奏会でマーラーの第9番を演奏したバルビローリとベルリンフィルは、20分間もの拍手を受けるほどの大好評で、ベルリンフィルの奏者たち自身の希望によって翌年にレコーディングされた、という旨が書いてあります。
60年代での自然体の境地
この第9番を聴いて驚いたのは、これが1964年の録音だということ。私が愛聴しているのは2016年のマリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団、2011年のベルナルト・ハイティンク指揮バイエルン放送響、1982年のヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンフィル、1976年のジュリーニ指揮シカゴ響などですが、この数十年ぐらいで名演が増えてきた印象があります。なのにこのバルビローリ盤は1964年。レナード・バーンスタイン、ゲオルグ・ショルティ、ラファエル・クーベリックなどがマーラーを積極的に取り上げて今日のブームの礎を作っていた時代に、バルビローリは既に達観したような演奏をおこなっています。
全体を通して自然体という表現が似合うと思います。旋律を十二分に引き出していますが、単に甘い音楽にはせずにマーラーの複雑な気持ちが織り混ざっています。ベルリンフィルが自発的に演奏しているのは録音からもよく表れていて、同時代のカール・ベームとのカチッとした演奏や、カラヤンとの研ぎ澄まされた録音に耳慣れていると、ベルリンフィルがこんなにも柔らかい音色を出せるんだなぁということにただ驚いています。
第4楽章がやはり素晴らしいと思います。温かくて優しい旋律に引き込まれてしまいます。
まとめ
いぶし銀の指揮者バルビローリがベルリンフィルからの要望によって実現した客演。これほどまでに素晴らしい演奏になると思わなかったと楽団長自ら語るほどの素晴らしいマーラーの交響曲第9番の演奏です。
オススメ度
指揮:サー・ジョン・バルビローリ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1964年1月10-11, 14 & 18日, ベルリン・イエス・キリスト教会
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
確かに自然体で気持ちの良い演奏でした。自分がまだ生まれていないころの録音が、このように良い音で聴けるということも驚きです。多くの人が価値を認めているからこそ、最新の技術と情熱を注いで復刻しているのでしょうね。24bit/192kHz のハイレゾロスレスで配信されています。