このアルバムの3つのポイント
- カルロス・クライバーによるシューベルトの交響曲2曲
- ゾクゾクする「未完成」と躍動感のある第3番
- 新校訂版による演奏
カルロス・クライバーのシューベルト
偉大な指揮者の一人で今なお根強い人気を誇るのがカルロス・クライバー (1930-2004年)。レパートリーはかなり限られていて、レコーディング嫌いや演奏のキャンセル魔でもあり、活動時期の長さの割には録音は少なめです。ただ、遺された録音は全て名盤の誉れ高いです。
シューベルトについては交響曲第3番ニ長調D200と第7番ロ短調「未完成」D759を録音したのみ。第8番ハ長調「ザ・グレート」D944を演奏して欲しいという周囲の期待もありましたが、「父エーリヒ (エーリヒ・クライバー)やフルトヴェングラー (ヴィルヘルム・フルトヴェングラー)以上にうまくやることは無理だ」とのことで拒絶していたそうです。(河出書房新社のカルロス・クライバー 孤高不滅の指揮者より)
確かに1951年のフルトヴェングラーの「ザ・グレート」のレコーディングをこちらの記事で紹介していますが、牛のようにゆっくりとしたテンポで入り、長いクレッシェンドで熱量が帯びていき、カオスのように渦を作っていくあの演奏を聴くと、あれ以上の演奏ができるのかと思ってしまいますね。
今回紹介するクライバーのシューベルトの交響曲2曲はどちらも1978年9月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とセッション録音したもの。
シューベルトが18歳で作曲した交響曲「第3番」
交響曲第3番ニ長調D200はシューベルトが18歳のときに作曲されました。この1815年は豊作の年で、1年の間でオペラ3曲、交響曲2曲、ピアノ曲約40曲、リート138曲(『野ばら』D257と『魔王』D328)を作曲したと言われています。
シューベルトの交響曲は第7番ロ短調「未完成」D759と第8番ハ長調「ザ・グレート」D944が双璧を成す人気で演奏回数も非常に多く、続いてシューベルトが19歳で作曲した標題のとおり悲劇的な第4番ハ短調「悲劇的」D417や、牧歌的な第5番変ロ長調D485が演奏されますが、第3番以前は交響曲全集でもない限りやや少なめ。それなのに、限られたレパートリーだったクライバーが敢えて第3番を取り上げたというのはとても興味深いです。
ユニバーサルミュージックのこのクライバーのCDの紹介では「レアな作品の隠れた魅力を明らかにした」とあります。確かにこの録音を聴いてから、シューベルトの交響曲第3番を聴くと「あのクライバーが演奏した曲か」という印象を抱きます。
新校訂版を使用した楽譜
こちらの記事で紹介したムック本「カルロス・クライバー 孤高不滅の指揮者」。多くの方がクライバーについて語ってきましたが、音楽評論家によるクライバーの正規レコーディング全てのレビューが載っているこのムック本はかなり参考になります。クライバーを聴く上で必須のアイテムと言っても過言ではないでしょう。
シューベルトのアルバムについては「慣用譜を排したパイオニア的名演」とあり、これまで慣用的に使われていたシューベルトの楽譜ではなく、1970年代に発表された新校訂版に基づく楽譜をクライバーがいち早く使用したと書いてあります。
シューベルトの譜面でこれまで「デクレッシェンド (だんだん弱くの意味。長い「>」の記号)」と解釈されていた指示記号の一部が、新校訂版では「アクセント (そこだけ強くの意味。「>」の記号)」であると正されたそうです。
旧校訂版を使ったカール・ベームとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が録音した第3番(1971年)では、音楽が消えるように減衰していくフレーズが、クライバーとウィーンフィルの演奏だとハツラツとしたように感じたのですが、それも新校訂版の影響だったと言えるでしょう。
第3番は4楽章から構成される交響曲ですが、クライバーは速めのテンポを取っています。ベームは第1楽章の重々しい序奏を非常にゆっくりと演奏させていましたが、クライバーはそこまで引きずりません。そして1分47秒あたりから始まるAllegro con brio の主部に切り替わるとまさにクライバーの世界。グイグイと引き込まれていきます。そして中間部では官能的な甘さもあります。繰り返し記号を守って再び主部へ。この曲は弦のトレモロが多いのですが、クライバーが指揮するとトレモロがゾクゾクとするので、すごいですね。第2楽章での牧歌的なフレーズや第3楽章のキビキビとした曲想もクライバーの統率力に驚かされますが、極めつけは第4楽章でしょう。Presto vivace の指示どおりテンポも速くイキイキとしていますが、グイグイとクライバーの世界に引き込まれます。青年時代のシューベルトの初期の交響曲をここまでドラマティックに演奏したのはなかなか出会えないです。さすがクライバー。
ゾクゾクと穏やかさの「未完成」
アルバムに「未完成」D759が入っていると、そちらがメインになりがちですが、「未完成」は名演も多いです。一方でこのアルバムでは曲の珍しさもあり、第3番D200に驚かされました。ただ、クライバーとウィーンフィルの「未完成」も良いですね。トレモロで不安を駆り立てる第1楽章と、天上の世界のような穏やかさがある第2楽章。クライバーの違った魅力が楽しめる交響曲。
オーケストラがウィーンフィルというのもプラスに働いています。弦の美しさや木管・金管の柔らかさ、そして雅な気品。世界には名門オーケストラが数多くありますが、ブルックナーやシューベルトについてはウィーンフィルの演奏は別格だと思います。
まとめ
クライバーによるシューベルトの交響曲2つ。ゾクゾクさせたり驚くほど穏やかだったりと、気付いたらクライバーの世界にグイグイと引き込まれている、そんな名演です。
オススメ度
指揮:カルロス・クライバー
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1978年9月11-15日, ウィーン楽友協会・大ホール
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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