このアルバムの3つのポイント

モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 フリードリヒ・グルダ/クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1974年)
モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 フリードリヒ・グルダ/クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1974年)
  • 鬼才グルダとアバド&ウィーンフィルのモーツァルト
  • フンメルとベートーヴェンのカデンツァをミックス
  • 百田尚樹氏もピアノは推薦

オーストリアのウィーン出身のフリードリヒ・グルダ(1930ー2000年)は、クラシック音楽のみならず、ジャズの音楽家としても活動しました。クラシックについてはモーツァルトやベートーヴェンを得意としました。音楽評論家の吉田秀和氏が好んだピアニストの一人です。

グルダはモーツァルトのピアノ協奏曲の第20番ニ短調K466第21番ハ長調K467を1974年9月にクラウディオ・アバド指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とセッション録音しています。さらに翌年の1975年5月には第25番K503と第27番K595も録音しています。

今日紹介するのは第20番。

「永遠の0」や「海賊とよばれた男」などの作品を書いている作家の百田尚樹さんはクラシック音楽ファンとしても有名。オススメのクラシック音楽の作品と演奏を紹介する『至高の音楽』というエッセイ本を出しているほどです。

モーツァルトのピアノ協奏曲第20番K466も紹介されていて、一流のピアニストが弾く演奏なら不満はないと断りつつも、オススメの演奏として最初に紹介したのがフリードリヒ・グルダのもの。このように評しています。

まずはフリードリヒ・グルダ(ピアノ)とクラウディオ・アバド指揮ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。グルダのピアノ演奏はベートーヴェン的な力強さを持った雄渾なもので、それでいて優美なたたずまいも失われていない。ただしバックのオーケストラはやや平凡。

百田尚樹『至高の音楽』、『第23曲モーツァルトピアノ協奏曲第20番:「職人」が自分のために作った曲』より

ただし、グルダのピアノに賛辞を贈りつつも、アバド&ウィーンフィルには「オーケストラは平凡」とやや辛口です。

ベートーヴェンとフンメルのカデンツァを使用

ピアノ協奏曲第20番は第1楽章の365小節と第3楽章の345小節にカデンツァ (ピアノ独奏)が入ります。モーツァルト自身がカデンツァを楽譜として残さなかったため、別の作曲家によるものを使うのが慣例となっていて、最も多いのはベートーヴェン作曲によるもの (WoO 58の「2つのカデンツァ」)。

ただ、グルダは第1楽章はベートーヴェンのもの(第一カデンツァ)を使用していますが、第3楽章はカデンツァは2つ弾いています。1つ目がヨハン・ネポムク・フンメルによるもの。アルバムの第3楽章のトラックの5分18秒あたりから始まります。ベートーヴェンと同時期の作曲家フンメルによる第3楽章のためのカデンツァは、マグマがこみ上げるような力強さと流れるような派手さがあります。そして5分53秒あたりからが2つ目のカデンツァが始まり、これがベートーヴェンの第二カデンツァです。ここでもグルダのピアノは力強く、最後は叩きつけるようにフィニッシュし、オーケストラにつなぎます。

グルダのピアノは力強さだけではなく、第1楽章の弱音や第2楽章で魅せる気品や即興性が特徴。コロコロと転がるような滑らかなフレージングでモーツァルトの旋律が演奏されていきます。

オーケストラは平凡か?

百田尚樹氏はオーケストラはやや平凡と書いていますが、冒頭を聴くとその意味が分かってきます。モーツァルトの楽譜はアレグロとかの速度記号と、強く (f)や弱く (p)などの強弱記号、そしてスタッカートやスラーなどはありますが、それ以上の詳細な指示は書いていません。そこをどう味付けするかが演奏家の解釈に委ねられるところが多いのですが、この第20番のアバドとウィーンフィルは少し淡白なのです。やや単調とも言える演奏で、単にpの指示を守ってオーケストラ全体的に弱く始めています。

次の記事で紹介したいですが、2013年3月のマルタ・アルゲリッチモーツァルト管弦楽団とのライヴ録音ではpの中でも高弦と低弦をやや強調してまるで会話しているかのような精巧なテクスチャで演奏し、スコアの解釈も深いです。同じアバドでオーケストラを聴くならやはり晩年のほうが素晴らしいと感じました。

同時期の70年代中盤にアバドが指揮したピアノ協奏曲では、1977年2月のシカゴ交響楽団を指揮してマウリツィオ・ポリーニとのバルトークのピアノ協奏曲集は、知性と獰猛さ、そしてポリーニの完璧なピアノが相まって見事な演奏でしたし、同じウィーンフィルでも1976年5月にセッション録音でポリーニと録音したブラームスのピアノ協奏曲第2番は映像としてもリリースされていますが、アバドの振りが大きく情熱的な指揮にウィーンフィルが呼応していました。

どうもこのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番ではグルダやウィーンフィルに比べて、アバドの個性が弱いかなと感じました。第3楽章ではようやくアバドらしさが出て少し気迫を感じますが。

ただ、アバドがグルダのピアノに合わせて自分の個性を抑えたとも考えられます。すると「敢えて平凡にした」という解釈もできますね。

グルダの雄大さや気品さがあるピアノを堪能できるモーツァルトのピアノ協奏曲の傑作。

オススメ度

評価 :4/5。

ピアノ:フリードリヒ・グルダ
指揮:クラウディオ・アバド
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1974年9月, ウィーン楽友協会・大ホール(ムジークフェラインザール)

ドイツ・グラモフォン公式カタログiTunesで試聴可能。

特に無し。

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