このアルバムの3つのポイント
- 『椿姫』の記念碑的演奏
- 映像だからこそ感じるアンジェラ・ゲオルギューの圧倒的な存在感
- キビギビとしたリズム、躍動感
ロイヤル・オペラ・ハウス管かコヴェント・ガーデン管か
イギリス、ロンドンのコヴェント・ガーデンにあるロイヤル・オペラ・ハウス。王立歌劇場とも言われ、そのオペラ・ハウス専属のオーケストラは、英語での名称は、Orchestra of the Royal Opera House, Covent Garden。ただ、日本では「コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団」と黒点が多い名称で呼ばれたり、「コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団」と呼ばれたりします。
デッカなどのレコードレーベルが前者の名前を使っている一方で、タワーレコードやナクソスなどのレコード販売会社が後者を使っていたりするので、正直ややこしいです。
名前が長いので省略すると「ロイヤル・オペラ・ハウス管」か「コヴェント・ガーデン管」あたりになるのですが、どちらかに統一しているわけではないので、人によって呼び方が変わります。私の見解としては、「ロイヤル・オペラ・ハウス」ではどの国か分からないので、「コヴェント・ガーデン管」か「コヴェント・ガーデン」を使うようにしています。
1994年のロイヤル・オペラ・ハウスでの『椿姫』
今回紹介するヴェルディのオペラ「椿姫」の演奏は1994年12月のロイヤル・オペラ・ハウスでのライヴ録音で、以前この歌劇場の音楽監督を務めていたこともあるサー・ゲオルグ・ショルティが指揮したもの。
デッカレーベルからCDとDVDの両方がリリースされていて、私は2008年にリリースされたDVD (型番はUCBD-9003)で観ました。
「おうちでオペラ、バレエを」というキャンペーンで2020年9月に再発売されたDVDでもこの「椿姫」(型番UCBD-9079)も含まれていますので、新しく買う場合は新盤のほうが良いでしょう。
「椿姫」に慎重だったショルティ
型番UCBD-9003のDVDでは、1995年の初期リリース時に諸石幸生氏が書かれた解説が再掲載されています。諸石氏はロンドンでこの「椿姫」の関係者によるパーティでのコメントを記載していますが、ゲオルグ・ショルティの言葉によると、その3、4年前にコヴェント・ガーデンから「椿姫」の演奏を打診されたときに、かなり慎重だったそうです。確かに「椿姫」は集客が見込めますが、誰がヴィオレッタに相応しいか、そして誰がアルフレードに適しているのか、演出はどうするかなどが気になってすぐに実現することにはなかったとのこと。
その「椿姫」が実現されることになった理由は、ソプラノ歌手のアンジェラ・ゲオルギューの存在でした。
新星アンジェラ・ゲオルギュー
アンジェラ・ゲオルギューは1965年ルーマニア生まれ。1990年にクルージュ国立歌劇場でプッチーニの「ラ・ボエーム」でミミ役でデビューしたばかりの新星でした。
1992年にコヴェント・ガーデンがショルティ指揮でプッチーニの「ラ・ボエーム」を演奏する際、アンジェラをオーディションする機会があり、そこで「抜きん出た魔法のような歌声で私を魅了してしまった。」と感じ、ミミ役に決定し、「ラ・ボエーム」本番でも成功を収めました。
素晴らしい歌手とは認めていたものの、ミミ役と「椿姫」のヴィオレッタ役では求められる役割が違うとショルティは迷っていたそうです。そんな折、アンジェラは自らショルティの自宅に赴いて、「椿姫」のアリアを披露し、ショルティの迷いを吹き払ったそうです。ヴィオレッタ役を新しい歌手に任せることにリスクはあったが、それ以上にアンジェラの才能をもっと世に広めたいとショルティは考えたとのこと。
この「椿姫」でのアンジェラは、本当に輝いています。
歌声ももちろんすごいのですが、オペラを演じるには役柄の適性や演技力も必要。アンジェラには天賦の才能を感じます。
私も最近はオペラをCDではなくDVDかBlu-rayで観るようにしているのだが、歌声は良いのですが役に全然合っていない(演技がイマイチ)とか、演出がいけていないとか、オペラで満足する上演に出会うのは難しいんだなと痛感します。
ただ、このアンジェラはデビュー間もない歌手とは思えないほどのすごさと魅力があるのです。
解説を書いた諸石氏も、このように絶賛しています。
それにしてもゲオルギューは美しい。まるで最高のラヴ・ロマンスのスクリーンを観ているような錯覚におそわれるほどであり、およそかくも清楚にして可憐、しかも華やかさを併せもつスターがオペラ界に登場しようとは予想もできなかったことである。
諸石幸生, 1995年
第1幕の第6曲の「花から花へ」では、快楽に溺れるヴィオレッタの心情が吐露されるのですが、アンジェラのソロが妖艶でとても良いです。歌だけはなく、映像でも入り込んでしまうオペラで、第1幕が終わると聴衆から盛大な拍手が贈られます。
ショルティ自らがBBCとデッカに映像収録を要望
これも解説に記載されている話ですが、ショルティはピアノ・リハーサルが終わった段階で、この「椿姫」が歴史的公演になると信じ、映像収録と録音をすべきと考え、本番の8日ほど前に自らBBC(放送局)の幹部に電話をして、ドレス・リハーサルを見て欲しいと要望したそうです。
デッカにも連絡して、録音できないか掛け合ったそうですが、当初、デッカはスタッフが各地に出てしまっていたし、機材も無いとのことで難色を示したそうです。しかし、ドレス・リハーサルに来たBBCとデッカの方たちは涙し、その場でテレビ中継と録音が決定されたとのこと。
BBCでは1994年12月8日にテレビ中継され、これがセンセーションを巻き起こしてアンジェラ・ゲオルギューを世界的スターへと押し上げました。Wikipediaにも以下の記載があります。
In 1994, she debuted as Violetta in a new production of La traviata conducted by Georg Solti at the Royal Opera House. The sensation prompted BBC Two to clear its regular schedule on 8 December to broadcast the live performance, which led her to international stardom.
アンジェラ・ゲオルギューのWikipedia (英語)
映像を見るとショルティの緊迫感の謎が解ける
ショルティは膨大なレコーディング数を誇る割には、映像作品はあまり残してきませんでした。
彼特有の引き締まったハーモニーや、ドラマティックな演奏をどのようにオーケストラから引き出しているのかが映像が無いと分からなかったのですが、この映像を見ると、その理由がよく分かりました。
指揮の動きは大きめで拍がはっきりとしています。エルボーのように肘を横に動かして厳格なリズムを生み出していました。
これがショルティの指揮なんだなぁと映像で見れてとても嬉しいです。
カーテンコールで伺える関係性
上演が終わった後、カーテンコールでは盛大な拍手で迎えられます。
特にアンジェラ・ゲオルギューへの賛辞が大きいのですが、アンジェラは舞台袖から登場しようとするショルティを見付けると、自ら近付いていき、ハグをします。デビュー間もない自身にチャンスを与えてくれたショルティに厚い信頼を寄せていることが伺えます。
まとめ
アンジェラ・ゲオルギューが世界的スターを押し上げた伝説的な「椿姫」。音源だけのCDもリリースされていますが、映像で観るとより情報量が多くて良いです。映像と録音を高音質で収録してくれたBBCとデッカに感謝したいぐらいです。
オススメ度
演出:リチャード・エア
ヴィオレッタ役(ソプラノ):アンジェラ・ゲオルギュー
アルフレード・ジェルモン役(テノール):フランク・ロバード
ジョルジョ・ジェルモン役(バリトン):レオ・ヌッチ
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団(コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団)
コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス合唱団
演奏:1994年12月, コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス(ライヴ)
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【タワレコ】ヴェルディ:歌劇≪椿姫≫全曲<限定盤>試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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