このアルバムの3つのポイント
- 指揮者としての活動を広げた直後のアシュケナージ
- 息の合ったフィルハーモニア管と
- えぐるような悲痛さと温もり
指揮者転向後のロシア・レパートリー
旧ソ連出身のピアニスト、ヴラディーミル・アシュケナージ (1937年生まれ)は1970年代に入って指揮者としての活動も開始し、1974年にはロンドン交響楽団とプロコフィエフの交響的スケッチ「秋」や、交響曲第1番「古典的」を録音して、これが指揮者としてのレコーディングの最初でした。
プロコフィエフの他にもラフマニノフなどロシアのレパートリーに重点を置いていましたが、ピアニストとしての二足わらじをおこなうアシュケナージにとってピアノ協奏曲でピアノ独奏と指揮を兼任する弾き振りは重要なレパートリー。1975年5月には来日してNHK交響楽団を弾き振りしてモーツァルトのピアノ協奏曲第21番と22番を演奏しています。1976年5月にロンドン響とシューマンのピアノ小協奏曲を録音し、また、同じくイギリスのフィルハーモニア管弦楽団を弾き振りしてモーツァルトのピアノ協奏曲全集を録音したのもこの時期から。さらに1982年にはムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』のピアノ原曲版を6月に録音し、ラヴェル編曲の管弦楽曲版をフィルハーモニア管と9月に録音しています (紹介記事)。
今回紹介するのは1978年12月にそのフィルハーモニア管とロンドンで録音されたチャイコフスキーの交響曲第5番ホ短調。
えぐるような悲痛さで
チャイコフスキーの第5番は第1楽章の序奏で現れる運命のテーマが全体を支配しています。作曲時のスケッチには「一楽章は運命への絶対服従……疑念、嘆き」と書かれていました。その序奏部のクラリネットによる運命のテーマを物憂げに奏で、低弦のpesante (重々しく)でさらに影を落としています。小さなクレッシェンドとデクレッシェンドが続き、まるでため息をつくかのようにためらいがちな旋律。浮かんでは消えて、音楽的な流れは途切れるのですがそれによりその後の提示部の第1主題の悲劇を予感させます。抗えない運命をアシュケナージとフィルハーモニア管はえぐり出すような鋭さで描いているのです。明るい第2主題ではキビキビとして小気味いいテンポで進みますが、運命のテーマが容赦なく押し寄せてきます。威風堂々とした行進曲のようなコーダから、ラストでは第1主題が再び現れ、低弦とファゴットによる和音が暗い影を落として消えるように幕を下ろします。
第2楽章は穏やかで心安らぐ音楽。アシュケナージとフィルハーモニア管はカラフルな色彩を使って第1楽章の暗さとの対比を際立たせています。第3楽章はValse (ワルツ)の楽章で、バレエ音楽で有名なチャイコフスキーらしい曲。アシュケナージとフィルハーモニア管はキビキビとしたテンポで進みますが、人の温もりを感じます。
そして雄大な第4楽章は序奏部から毅然としていて、提示部では歯切れが良いです。コーダは希望を感じさせるように力強く閉じます。
まとめ
指揮者としての活動を始めて間もないアシュケナージによる入魂のチャイコフスキー。えぐるような悲痛さが強烈です。
このアルバムの3つのポイント
オススメ度
指揮:ヴラディーミル・アシュケナージ
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1977年12月, キングズウェイ・ホール
スポンサーリンク
廃盤のため無し
試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?