このアルバムの3つのポイント
- セルとクリーヴランド管の唯一のドヴォ7の録音
- 気品と高潔さ
- 名曲名盤500+100でも第1位
セル唯一のドヴォ7の録音
2024年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演は、アンドリス・ネルソンスが指揮を務める予定で、私も去年に続いて聴きに行きます。6月の記事に書きましたが、聴く予定のプログラムにドヴォルザークの交響曲第7番があるので、その予習にポケットスコアを買ってApple Music で第7番のレコーディングを片っ端から聴きました。
その中にはかつて良いと思っていたカルロ・マリア・ジュリーニとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の録音もありますし、最新のグスターボ・ドゥダメルとロサンゼルス・フィルハーモニックの配信限定でなぜかCD では出回っていないアルバムもありますし、交響曲全集の代表格であるラファエル・クーベリックとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とイシュトヴァン・ケルテスとロンドン交響楽団、本場のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の録音なども一通り聴いてみたのですが、「これすごいな」と思ったのがジョージ・セルがクリーヴランド管弦楽団と演奏したもの。
Apple Music で繰り返し聴いているうちに、これはちゃんとCD アルバムも買っておこうと思い、タワーレコード×ソニー・クラシカルの独自企画のアルバムを購入。Apple Music で聴くよりも音質が向上していて驚きました。
CD のブックレットにある演奏記録を見ると、セルとクリーヴランド管はドヴォルザークの交響曲第7番を1950年10月12日、14日の定期演奏会、1960年3月17日〜19日の定期演奏会、さらに1967年10月6、7日の定期演奏会、10月8日のレイクウッドでのRun Out (クリーヴランド近郊での演奏会)で演奏したのみ。この録音は1960年の3月18日と19日にレコーディングされたので、ちょうど定期演奏会の期間中のセッション録音。セルが唯一ドヴォ7を録音したものです。
名曲名盤500+100でも不動の第1位
このアルバムは2023年2月発行のONTOMO MOOKの「新時代の名曲名盤500+100」でもドヴォルザークの交響曲第7番の録音のランキングで第1位。
しかも混戦ではなく8人の音楽評論家のうち5人が高評価で4人が最高得点の3点、1人が1点で合計13点を獲得。2位のニコラウス・アーノンクール指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が8点なので引き離しての1位。
「セルの手にかかると、この作品が古典的様式美を備えた格調の高いものに聴こえる。それは明らかにブラームスとの親和性を裏付けするものだろう。その中に織り込まれた民族性も、セルはごく自然に表出している」との総評です。
気品と高潔さ
セルとクリーヴランド管の特徴は気品と高潔さ。鍛え上げたアンサンブルでドヴォルザークの隠れた名曲を輝かしています。
第1楽章。第1主題は引き締まっていながら音楽が流れる寛容さもあります。トラックの0:31〜0:32 あたりの16 小節はmarcato (はっきりと)という指示ですが、セルとクリーヴランド管は爆撃するかのように激しさ。主要主題の厳しいテーマが提示されてから1:20 からの演奏記号B (42小節)からは束の間の安らぎ。そして1:44 から再び主要主題に戻っていきますさ。1:44 あたりの副主題では穏やかになり、これまで硬い音色で演奏されていたヴァイオリンたちもdolce の指示で柔らかくまろやかな音色に変わります。展開部に入ると4:10 からの一糸乱れぬアンサンブルで主要主題がフォルテッシモで現れ、4:37 からオーケストラがお互いの音をよく聴きフォルテッシモから徐々にデクレッシェンド。続いて木管が旋律をリードし、5:35 あたりの179 小節ではクラリネットが浮かぶようです。
この第1楽章は展開部で主要主題が演奏されるので再現部では主要主題が1回だけ登場し副主題に入るのですが、セルとクリーヴランド管はその移り変わりが絶妙。ぜひトラックの6:27 あたりに注目していただきたいのですが、ホルンがフォルテ (f)の後にフォルテピアノ (fp)、デクレッシェンドする箇所でぐっと表情を変え、激しい主要主題から穏やかな副主題へ切り替わる素地を作っています。7:52 からのコーダでは緻密なアンサンブルで突き進み、その中でもチェロとコントラバスによるアクセント記号が引き立っています。
第2楽章は木管の穏やかな主題から始まり、クリーヴランド管の魅力が満載。2:37 からの演奏記号B での第3の楽想ではホルンのソロが輝いていますし、3:19 からのヘ短調の中間部では極上の響き。
第3楽章に変わるとイキイキとしたリズムで躍動感があり、その中でもチェロがうねるように旋律を引き出しているのが特徴。2:32 からのトリオではがらっと雰囲気が変わり、穏やかに。4:39 から音楽が加速していき、強烈なクライマックスを築いてから、5:01 に何事もなかったかのように冒頭のスケルツオ楽章に戻っていくのがすごいです。
第4楽章は圧巻で荒れ狂うような楽想ながらセルとクリーヴランド管は気品と高潔さを保っています。
まとめ
セルとクリーヴランド管の黄金時代の名盤。ドヴォルザークのこの隠れた名曲の魅力をここまで引き出した演奏は他にないのではと思わせる出来です。
オススメ度
指揮:ジョージ・セル
クリーヴランド管弦楽団
録音:1960年3月18日, 19日, セヴェランス・ホール
スポンサーリンク
試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?