ウィーンフィルが2年ぶりに来日、ウェルザー=メスト降板でソヒエフが代役
先日の記事でクラウス・マケラ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団のサントリーホール公演(10月24日)の演奏会を紹介しました。
11月は世界最高峰のオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が来日します。
【サントリーホール】ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2023 大和ハウス Special トゥガン・ソヒエフ指揮 ウィーン・フィル
ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパンは2年ぶりで20回目。コロナ禍でも厳戒態勢で2020年はヴァレリー・ゲルギエフ、2021年はリッカルド・ムーティと来日してきたウィーンフィル。1956年から始まる来日公演も今年で38回目です。
2023年の来日公演では当初はオーストリア出身のフランツ・ウェルザー=メストが指揮を務める予定でしたが、ガンの治療のため10月下旬から年末までの演奏活動を全てキャンセルすることに。
代役はトゥガン・ソヒエフが務めることになりました。日本でもNHK交響楽団を指揮する機会が増えている、北オセチア出身の指揮者です。
15日の横浜公演へ
私は2023年11月15日(水)におこなわれた横浜みなとみらいホールでの演奏会に行ってきました。本当はサントリーホールのほうが近くて良いのですが、チケットの一般購入が始まってすぐに買おうとしたのにサントリーホール公演が取れなかったため、代わりに横浜に行くことにしました。
初めていく横浜みなとみらいホールは、きれいな建物で、近未来的な感じがしました。
大ホールに入ると、調律師の方が念入りにピアノの調律をしています。プログラム前半では世界的なピアニスト、ラン・ランが登場します。
今回聴いた横浜公演は、プログラムEで
- サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番 (ピアノ独奏:ラン・ラン)
- ドヴォルザークの交響曲第8番
でした。Eは今回の来日公演では大阪(11日)と横浜(15日)のみ。
前半はラン・ランに魅了
ニューイヤー・コンサートで見た顔ぶれが目の前で演奏しているのは本当に感無量でした。
プログラム前半はサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番ト短調Op.22。
ラン・ランがドイツ・グラモフォン・レーベルから2024年3月にリリースするアルバムにも収録されています。そのときはアンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との演奏でした。ちなみにネルソンスとゲヴァントハウス管は来週から来日公演を予定していて、私も11/22(水)のサントリーホール公演に行く予定です。その前の20(月)にはキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会もありますが(笑)
高度なテクニックが必要とされるサン=サーンスのピアノ協奏曲ですがラン・ランは余裕綽々で演奏します。ペダルの細かさもすごくて、速い打鍵1音ずつペダルを踏み変えているのです。こんなに正確なペダリングは見たことがありません。超絶技巧はもとより、緩徐楽章での溢れるロマンもラン・ランの魅力でしょう。
客席の女性から花束を受け取ったラン・ランが拍手に応えてアンコールに弾いたのはJ.S.バッハのゴルトベルク変奏曲BWV988から第13変奏。こちらも既にラン・ランはレコーディングしたことがある曲ですが、厳格な型にハマらない自由さで弾きました。
アンコールを弾き終えて舞台袖に戻る前に、ラン・ランは花束を第1ヴァイオリンのカタリーナ・エンゲルブレヒト (Katharina Engelbrecht)に渡してしまいました。あらら。
ドヴォルザークの交響曲第8番
プログラム後半ではオーケストラの奏者も増えて、第1ヴァイオリンのヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク (Wilfried Kazuki Hedenborg)も登場。ニューイヤーコンサートでNHK の番組でゲスト出演していたのですっかり顔なじみですね。
ウィーンフィルが得意とするドヴォルザーク。気品のある美しさはいつもながら素晴らしいですが、ソヒエフは第1楽章の展開部でこの作品に潜む地獄のような激しさを引き出していました。同じ旋律を違う楽器で輪唱のように順に演奏するところでは、音だけでなく各パートの動きも視覚的にも楽しめました。第2楽章ではコンサート・マスターの第1ヴァイオリンのライナー・ホーネックのソロが見事。本当に美しいです。
ただ、オーボエの音色よりも弦が大きくなってしまったようで、オーボエの音色を掻き消さないようにという意味なのか、ソヒエフはオーボエの前で海が割れるように手で表現していました。しかも2回も。この来日公演では演奏会もタイトでプログラムも多彩なので、もしかしたらリハーサルでディテールまで詰める時間がなかったのかもしれませんね。
秀逸なのは第3楽章で、ヴァイオリンの美しさが際立っていました。
第1ヴァイオリンのコンマスの譜面台の譜面が風でめくれてしまい、ソヒエフが右手で指揮を続けながら左手で譜面を抑えていたのが印象的でした。気配りの指揮者ですね。ちなみにソヒエフは指揮棒を使わないで手だけで指揮するスタイルです。
アンコールはウィンナ・ワルツとポルカ
鳴り止まぬ拍手でアンコールを演奏することに。団員が4人ぐらい追加され、演奏されたのはヨハン・シュトラウス2世のワルツ「芸術家の生活」Op.316。ニューイヤーらしい気分で、このときはソヒエフもウィーンフィルの演奏に任せてあまり細かく指揮はしていませんでした。さらに拍手に応えて楽譜をめくった楽団員。もう1個のアンコールは同じくシュトラウスのポルカ・シュネル「雷鳴と稲妻」Op.324です。
ウィンナ・ワルツをウィーンフィルで聴けるのは粋ですね。拍手は鳴り止みませんでしたが、譜面台の楽譜をめくって裏表紙を向けました。これで幕引きです。
ウィーンフィルの団員が舞台袖にはけても、鳴り止まぬ拍手に応えてソヒエフだけが登場。非常に満足そうな笑顔が印象的でした。
ソヒエフに感謝
ウェルザー=メスト降板により、代役を務めたソヒエフ。
そのソヒエフについて楽団長のダニエル・フロシャウアー (Daniel Froschauer)もパンフレットに以下のように書いています。
11月10日(金)から19日(日)までの10日間で7公演(名古屋1、大阪1、横浜1、東京4)、しかも17(金)は青少年プログラムで中高生向けの特別プログラムもサントリーホールでやるという非常にタイトなスケジュール。これを引き受けてくれただけでなく、日程と曲目も変更しなかったので、ソヒエフに最大級の賛辞を贈りたいです。
ピアノ:ラン・ラン
指揮:トゥガン・ソヒエフ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏:2023年11月15日, 横浜みなとみらいホール
コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?