- 2000年のベルリンフィルのヨーロッパコンサート、初のベルリン開催
- ベートーヴェンの初期と後期の作品を並べたプログラム
- 壮年期のアバドによる第九では、颯爽としたテンポとほとばしる情熱
オール・ベートーヴェン・プログラム
毎年5月1日の名物コンサートが、ベルリンフィルのヨーロッパ・コンサート。ヨーロッパ各国に演奏旅行を行い、それぞれの国にゆかりのある作品が演奏される。2000年は10回目の開催で初めてベルリンフィルの本拠地、ベルリン・フィルハーモニーでの開催となった。
本拠地だとあまり特別感が無かったのだろうか、第九を含むプログラムなのに客席にもちらほら空きがあった。
プログラムは前半がベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番Op.19、後半が交響曲第9番「合唱付き」Op.125と、初期と後期の作品を並べた。初期の作品では楽器の数も少ない一方、第九では合唱団も伴う大編成なので、前半のピアノ協奏曲の演奏では後半の歌手、合唱のために空けてあるスペースが際立つようになっていた。
胃がんの手術前のクラウディオ・アバド
なお、ベルリンフィルの首席指揮者を務めていたクラウディオ・アバドはこの年、胃がんが見つかり手術をすることになる。このヨーロッパ・コンサートの後、2001年までコンサートをキャンセルすることになり、手術とリハビリに専念した。復帰後は頬がコケてしまうほど痩せてしまったのだが、その前のこのコンサートでは、アバドの顔つきもふっくらして健康そうだ。
ピアノ協奏曲第2番
前半のピアノ協奏曲第2番はベートーヴェンにとって初めてのピアノ協奏曲。まだハイドンやモーツァルトの影響が感じられる初期の作品だ。アバドは同じ2000年2月にマルタ・アルゲリッチとマーラー室内管とライヴ録音(FC2ブログの記事)したものがあり、そちらを含むディスクは米国グラミー賞を受賞している。
今回のヨーロッパコンサートでのピアノ独奏を務めたのは、ミハイル・プレトニョフ。メロディラインがしっかりと出つつ、硬めのタッチ。同じロシア出身のエミール・ギレリスを思い出した。アバドの指揮ぶりもキビキビとしている。
プレトニョフはこの日に合わせて髪を切ってきたようで、生え際もキレイにまとまっていた。猫背気味でピアノを弾くスタイルは独特だ。
交響曲第9番「合唱付き」
後半は交響曲第9番「合唱付き」。第4楽章まで出番がない歌手陣をいつ壇上に招くかは色々な考えがあるが、私が見た中では合唱団は最初からいて、第3楽章の演奏前にソロ歌手たちを壇上に来てもらうケースが多い気がする。ただ、このコンサートでは第1楽章演奏前から合唱団もソロも皆、壇上に上がっている。座っていられるとはいえ、オーケストラだけで演奏しているときも愛想の良い表情をしていないといけないので大変である。
アバドの指揮はやや速めのテンポで、情熱がこもっている。トゥッティの前にもう少し「溜め」が欲しいところもあるが、情熱ほとばしるこのような演奏は、この当時ならでは。
やはり第9は第4楽章が格別だろう。詩人シラーの「歓喜に寄せて」を交響曲に取り込むという大胆な発想。その中にこのような一節がある。
「そうだ、地上にただ一人だけでも心を分かち合う魂があると言える者も歓呼せよ」
“Ja, wer auch nur eine Seele
Sein nennt auf dem Erdenrund!”
シラー「歓喜に寄せて」
最近、若い方が自らの命を断つショッキングな出来事が続いている。ベートーヴェン自身も31歳のとき、持病の難聴のためにハインリッヒの遺書をしたためて自殺することも考えた。ただ新しい音楽を作るという決意を持ってそれを思い留め、晩年は全く耳が聴こえない状態になっても、こうした「歓喜の歌」を交響曲第9として作曲したのは本当に偉大だなと感じる。
まとめ
本拠地ベルリン・フィルハーモニーでのベートーヴェン・プログラム。アバド壮年期の情熱的な激しい第九だ。
オススメ度
ピアノ:ミハイル・プレトニョフ(Op.19)
ソプラノ:カリタ・マッティラ(Op.125)
メゾソプラノ:ヴィオレッタ・ウルマーナ(Op.125)
テノール:トーマス・モーザー(Op.125)
バス:トーマス・クヴァストホフ(Op.125)
スウェーデン放送合唱団(Op.125)
エリック・エリクソン室内合唱団(Op.125)
指揮:クラウディオ・アバド
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏:2000年5月1日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ)
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【タワレコ】ベートーヴェン: 交響曲全集、ピアノ協奏曲全集、合唱幻想曲、他試聴
EURO ARTSのサイトで動画を試聴可能。
ベルリンフィルのYouTube公式から2000年5月1日の交響曲第9番第4楽章を試聴可能。
受賞
特に無し。
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