このアルバムの3つのポイント
- 21世紀幕開けを告げたベートーヴェン交響曲全集
- 胃がんの手術前の第九、復帰後の聖チェチーリア音楽院でのライヴ
- ほとばしる情熱
クラウディオ・アバドの2種類のベートーヴェン交響曲全集
クラウディオ・アバドは1985年から88年にかけてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して1度目のベートーヴェン交響曲全集を完成しています。ウィーンフィルらしい雅な演奏ですが、「アバドらしさ」があまり感じられなかったので、良い演奏だとは思いますが、アバドのベストかと言われると違う気がします。
また、交響曲第9番は1996年のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのザルツブルク音楽祭での第九のライヴ録音もあります。こちらはソニー・クラシカルからリリースされています。アゴーギクが斬新的で実験的な解釈のような演奏でこちらもオススメはしづらいです。さらに、80歳での2013年ルツェルン祝祭管弦楽団との交響曲第3番「英雄」の演奏(FC2ブログ記事)もあり、こちらはしっとりとした深みのある演奏で、晩年のアバドの境地を感じる演奏でした。
そして2000年から2001年にライヴ録音されたのが、ベルリンフィルとのベートーヴェン交響曲全集。アバドにとって2回目の交響曲全集です。交響曲第9番「合唱付き」だけ2000年5月の演奏で、この直後にアバドは胃がんの手術のために休養に入ってしまいます。復帰後の2001年2月に残る第1番から第8番が演奏されました。
同時期の2002年にサー・サイモン・ラトルがウィーンフィルを指揮してライヴ録音(FC2ブログ記事)したものもあり、21世紀の幕開けを告げる新しいベートーヴェン像として、アバド/ベルリンフィルとラトル/ウィーンフィルの録音が激突しました。私はアバド/ベルリンフィルのほうが好みですが、その少し後にリリースされたリッカルド・シャイー/ゲヴァントハウス管弦楽団(2007-2009年)とマリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団(2007-2012年)のほうがレベルの高い激突だったと思っています。
激しすぎる演奏は好き嫌いが分かれるか
アバドとベルリンフィルの交響曲全集は、一言で言うと情熱的で激しすぎます。ウィーンフィルとの旧録が「ウィーンフィルの演奏」で「アバドらしさ」が無かったのに対して、このベルリンフィルとの再録では「アバドらしさ」が前面に出ています。これこそがベートーヴェンだという方も、うるさすぎて下品だと評する方もいると思います。私も交響曲第3番「英雄」はマッチしていると思いますが、第5番「運命」や第6番「田園」はうるさすぎて苦手です。
2000年のヨーロッパ・コンサートでの第九
以前の記事で紹介しましたが、第9番「合唱付き」は2000年5月1日のライヴ録音で、ベルリンフィルのヨーロッパ・コンサートで初のベルリン開催となった演奏会でのライヴ録音です。こちらはEURO ARTSレーベルから映像作品としてもリリースされています。
まだ少しふくよかなアバドですが、この後の胃がんの手術でげっそりと痩せてしまいます。
演奏はとても情熱的で、アバドらしいほとばしりが感じられます。全曲で63分という演奏で、やや速めのテンポで演奏されていきます。トゥッティの前にもう少し「溜め」が欲しいところもありますが、アバドならではの情熱ほとばしるこのような演奏です。
胃がんの手術から復帰
そして2001年に復帰してから2001年2月にイタリアの聖チェチーリア音楽院でライヴ録音されたのが、交響曲第1番から第8番。下の「試聴」にリンクを貼っているYouTubeの動画を見ていただくと分かるとおり、胃がんの手術の影響でアバドの頬はげっそりと痩けてしまっています。しかし、演奏自体はとても力強くて情熱的です。ベルリンフィルを激しく動かし、圧倒的なクライマックスを生み出しています。一方で、「荒々しい」とか「雑」とも言えるでしょう。ヘルベルト・フォン・カラヤン時代に楷書体のようなスッキリとした演奏をおこなっていたベルリンフィルですが、このアバドとの新時代では行書体のような荒々しさも目立つようになります。
特筆すべきは交響曲第3番「英雄」。力強くて情熱ほとばしる激しい演奏はこの作品に見事にハマっています。第2楽章の葬送行進曲もしんみりとはせず、スマートな流れで美しいです。クライマックスでは特にティンパニーが怒涛のように鳴り、荒々しいです。
交響曲第5番「運命」や第7番も激しい演奏ですが、例えばフルトヴェングラーのときに感じたすごさはあまりありません。ワチャワチャしている感じもします。
交響曲第6番「田園」では第4楽章の嵐を描いた場面で、一気に空気が変わり、ティンパニの細かくて力強い連打が平穏に慣れた耳を目覚めさせてくれます。とても激しいベートーヴェンですが、「田園」にしては刺激が強すぎるとも言えるかもしれません。第8番も牧歌的な演奏とはかけ離れて、熱い魂の音楽といった感じ。激しさがデフォルメされています。
まとめ
クラウディオ・アバドがベルリンフィルを指揮してライヴで録音したベートーヴェンの交響曲全集。胃がんの手術の前後の演奏で、情熱的なアバドらしさは出ていますが、荒々しい演奏とも言えます。
オススメ度
ソプラノ:カリタ・マッティラ(第9番)
メゾソプラノ:ヴィオレッタ・ウルマーナ(第9番)
テノール:トーマス・モーザー(第9番)
バス:トーマス・クヴァストホフ(第9番)
スウェーデン放送合唱団(第9番)
エリック・エリクソン室内合唱団(第9番)
指揮:クラウディオ・アバド
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2000年5月1日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ, 第9番)
2001年2月8日(第7番), 2月9日(第1番, 第3番), 2月11日(第4番, 第8番), 2月12日(第2番, 第5番), 2月14日(第6番), 聖チェチーリア音楽院(ライヴ)
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試聴
iTunesで試聴可能。
また、EURO ARTSのサイトやベルリンフィルの公式YouTubeで各交響曲の抜粋を動画で視聴できます。
受賞
特に無し。2001年の米国グラミー賞の「BEST ORCHESTRAL PERFORMANCE」にノミネートされるも受賞はならず。
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