先日の記事でお伝えしたとおり、2019年11月8日のアメリカ、カーネギー・ホールでの演奏会を最後に、マリス・ヤンソンスは3週間後に亡くなってしまい、ドイツの名門オーケストラ、バイエルン放送交響楽団は首席指揮者不在の状態が1年ほど続いていました。

ヤンソンスのおかげで私もバイエルン放送響の演奏、録音を多く耳にしてきたのですが、ヤンソンスの円熟した音楽作りにバイエルン放送響が透明感ある響きで応える、理想のパートナーだったと今でも思います。

ストラヴィンスキーの3楽章の交響曲を指揮するマリス・ヤンソンス
2018年1月にバイエルン放送響を指揮するマリス・ヤンソンス。(c) Belvedere

そして、ついに次期首席指揮者の発表がありました。バイエルン放送響の公式サイトにリリースされていますが、サー・サイモン・ラトル(Sir Simon Rattle)に決まりました。2021年1月3日に署名し、最初は2023年からの5年間の契約でバイエルン放送響及びバイエルン放送合唱団の首席指揮者を務めます。

バイエルン放送響の1ファンとして、この決定は妥当だなと感じました。ラトルは2018年6月までのベルリンフィルの首席指揮者のポストにいたときも、バイエルン放送響に客演していて、2015年4月には演奏会形式でヴァーグナーの楽劇「ラインの黄金」をライヴ録音、2018年1月にマーラーの「大地の歌」をライヴ録音もしています。ベルリンフィルのポストの忙しい合間を縫ってまでバイエルン放送響に客演して、しかも好評を博している…これはバイエルン放送響としてもラトルにラブコールを送りたくなりますね。

ブラームスの交響曲第1番を演奏するサー・サイモン・ラトル/ベルリンフィル(2008年11月)
2008年11月にベルリンフィルを指揮するサー・サイモン・ラトル。(c) EMI

上記の公式サイトにサイモン・ラトルとバイエルン放送響との出会いについてのエピソードが書かれていますが、初めてバイエルン放送響の生演奏を聴いたのは、1970年10月のイギリス、リヴァプールでの公演で、そのときにはラファエル・クーベリック指揮でベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」が演奏されたそうです。15歳のラトルは、すっかりクーベリックのファンになってしまったそうですが、この演奏会は将来指揮者になりたいと思っていた15歳のサイモン少年に深い印象を残したそうです。

Attending this concert changed my life. Already a Kubelík fan, I was aware of the BRSO through many recordings I had bought. But the orchestra’s visit to Liverpool made a profound impression on a teenager who wished to be a conductor – to experience such a symbiotic relationship between conductor and players, and the unanimity of concept and philosophy was as evident as the sheer pleasure the musicians emanated. This concert became a kind of benchmark for me, a goal towards which musicians should strive.

さて、一方でラトルは2017年9月から祖国イギリスのロンドン交響楽団の音楽監督に就任していますよね。こちらも2020年までだった当初の契約が3年伸びて2023年までとなり、さらにその後には終身桂冠指揮者のポストが与えられるとのことです。

ロンドン交響楽団公式サイトのお知らせ

つまり、2023年のシーズンからバイエルン放送響でも首席指揮者に就きつつ、ロンドン響での音楽監督は2023年の任期まで全うするということですね。そしてロンドン響の後はバイエルン放送響に専念する予定のようです。楽しみですね。

そこで疑問が出てくるのは、なぜ祖国イギリスの名門オーケストラのポジションからドイツの名門オーケストラへと移ってしまうかということ。ラトル自身が答えを言っています。

My reasons for accepting the role of Principal Conductor in Munich are entirely personal, enabling me to better manage the balance of my work and be close enough to home to be present for my children in a meaningful way.

理由は2つあって、仕事のバランスの管理がしやすくなることと、お子さんのために家にいることがしやすくなるということのようですね。詳しくは分からないですが、ラトルは5人のお子さんがいるので、ミュンヘンに行くことで家族との時間がよく取れるようになるのでしょうか。

どうやらガーディアン誌のこの記事で詳細が分かってきました。

Rattle, who lives with his wife, the Czech soprano Magdalena Kožená, in Berlin, said spending more time there and cooking for their children during the past year of coronavirus lockdown had helped to crystallise his desire to work nearer to home.

どうやら、サイモン・ラトルと、妻であり有名なメゾソプラノ歌手であるマグダレーナ・コジェナーの一家はドイツの首都ベルリンに住んでいて、コロナ禍でロックダウンになって自宅で家族とゆっくり過ごす時間が増えたそうで、家族と近いところで働きたいという思いを強くしたようです。それで同じドイツのミュンヘンに本拠地を構えるバイエルン放送響との仕事を増やしたかった、と言う理由もあるんですね。

バイエルン放送交響楽団をあまり知らない方にその魅力が伝わればと思います。1949年設立で、他のヨーロッパの名門オーケストラに比べると歴史が浅いですが、設立間もないときからオイゲン・ヨッフムが初代首席指揮者としてドイツ=オーストリア音楽を多く演奏し、その後はラファエル・クーベリックが就任してオーケストラのレベルを更にアップ。近年では2003年から2019年まで首席指揮者を務めたマリス・ヤンソンスと幅広いレパートリーで一流の演奏をおこなってきました。

バイエルン放送響の個々の録音、演奏の魅力については下記のリンクから記事をご覧いただければと思います。

音楽の羅針盤の全ての「バイエルン放送響」の記事を読む

FC2ブログの音楽の羅針盤での全ての「バイエルン放送響」の記事を読む

※2021/03/30更新

そして、本日ロンドン交響楽団より発表があり、サー・サイモン・ラトルの後任としてロンドン響の首席指揮者に就任するのはサー・アントニオ・パッパーノに決まりました。詳細については下記の記事をご覧ください。

ロンドン交響楽団の次期首席指揮者はアントニオ・パッパーノ

2024年9月にパッパーノが首席指揮者に就任する予定とのことです。

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