このアルバムの3つのポイント
- ケンプ、ステレオ録音でのベートーヴェン・ピアノソナタ全集
- 染み入るピアノ
- 高貴な美しさ
ケンプのベートーヴェン・ピアノソナタ全集
前回は1967年のヴラディーミル・アシュケナージのハンマークラヴィーアの録音を紹介したばかりですが、今回もベートーヴェンのピアノ・ソナタの記事を。
ドイツの名ピアニスト、ヴィルヘルム・ケンプ (1895年-1991年)。意外にもこのサイトで紹介するのは初めてなのですが、実はかなり聴き込んできました。
同じヴィルヘルムという名前のヴィルヘルム・バックハウス (1884年-1969年)と並んでベートーヴェンを得意としていましたが、ケンプは4回ピアノソナタ全集を完成させています。1925年〜43年のモノラル録音(ドイツ・グラモフォン、以下「DG」)、1950年〜56年のモノラル・ライヴ録音(Membran レーベル)、1951年〜60年のモノラル録音(DG)、そして1964年〜65年のステレオ録音です。
Apple Music で聴いたのが1964年〜65年のステレオ録音でしたが、やっぱり良いなと思ってCD でも買うことにしました。私は2015年7月にリリースされたタワーレコード限定のCD 8枚組を買いましたが、2019年にDGからCD8枚とBlu-ray Audio で24bit/96kHzで新規リマスタリングリリースされたほうも気になっています。
心に染みるピアニズムと高貴さ
ケンプが60年代にソナタ全集を録音したときは70歳になる手前。モノラル録音のときはテンポが速かったようですが、ここに聴く32曲はどれもゆったりとして悠然としています。そしてどれも心に染みるピアノの音色と、高貴さが特徴。
32曲の録音が1年間という短期間で完了したのも、演奏スタイルが同じまま32曲のピアノソナタの違いを楽しむには良いです。全集を完成させるのに10年、20年、さらには35年と掛けてしまうと、演奏家の変化もあるので32曲を続けて聴くと全く違う演奏に聴こえます。
ベートーヴェンの初期の作品で「ハイドンからは何も学ぶところはなかった」と語ったとされる師だったハイドンに捧げた3つのピアノソナタOp.2の第1番から第3番。スタッカートが飛躍するような若さを表していますが、ケンプの手にかかると実にしっとりと奥深い。初期の作品とは思えないまろやかさがあります。
第8番「悲愴」は第1楽章の提示部のリピートが省略されています。バックハウスの録音もそうでしたが、ドイツのこの時代の慣習なのかな。私自身はこの提示部を繰り返して疾走する悲劇を盛り上げてからGrave の序奏に似た重たい運命のようなものを背負う、という流れが好きなのですが。ケンプは「熱情」ソナタの第3楽章のリピートは守っているのに。この録音では悲愴第1楽章がリピート無しで7分20秒。提示部の部分が1分50秒ぐらいなのでリピートをもししていたら9分以上掛かる計算。その一方で続く第2楽章と第3楽章はそれぞれ4分56秒、4分38秒で終わるので、曲全体としてのバランスを考えたのかもしれません。第14番「月光」の第3楽章の提示部のリピートは省略しているので、終楽章だから繰り返すというわけではないようです。
第23番「熱情」では第1楽章でしっかりと聴こえる旋律と、第3楽章のフェルマータでの休符の長さが絶妙。大粒の音色で。再現部末尾にあるリピートも守っています。コーダではPresto の指示を敢えて鵜呑みにせず、テンポはゆったりと悠然と構えたまま。最後はテンポをさらに上げて激しく圧巻のクライマックスを迎えるところなのですが、ケンプは速さを追い求めず、達観したかのような演奏。
後期の第28番以降も孤高の美しさがあり、良いですね。第29番「ハンマークラヴィーア」では第4楽章のフーガで堂々としたテンポで旋律を引き出していて、J.S.バッハを得意としたケンプならではと思いました。
まとめ
今なお愛聴されているケンプのベートーヴェン・ピアノソナタ全集の集大成。
オススメ度
ピアノ:ヴィルヘルム・ケンプ
録音:1964年1月26日(第31番, 32番), 27, 28日(第29番, 30番), 9月15-18日(第16番-18番, 21番-23番, 25番, 26番, 28番), 11月9日(第1番, 12番, 19番, 20番), 10日(第2番, 3番), 11日(第5-7番), 12, 13日(第4番, 9番, 10番), 1965年1月11, 12日(第8番, 14番, 15番, 24番), 14, 15日(第11番, 13番, 27番), ベートーヴェン・ザール
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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