スウィトナーによるブルックナー
約2ヶ月ぶり、久しぶりの投稿です。
年明けからショッキングなことが起こり、しばらくクラシック音楽すらまともに聴いていない日々を過ごしていました。以前落ち込んだときはマーラーの交響曲第6番を聴いて悲劇に浸っていれば治ったものなのですが、今回のはそういう類のものではなかったです。
まだ立ち直りつつある途中ですが、少しずつクラシック音楽も聴ける状態に戻ってきたので、久しぶりに音楽を紹介したいと思います。
今日紹介するのは、オーストリア出身のオトマール・スウィトナー (1922-2010年) によるブルックナーの交響曲第1番。スウィトナーはシュターツカペレ・ドレスデンの音楽総監督兼首席指揮者 (1960-64年)、シュターツカペレ・ベルリン (SKB)の音楽総監督 (1964-1990年)を務め東ドイツを代表する指揮者でした。スウィトナーはこちらの記事でSKB との第九を書いていますが、あまり紹介しきれていないのですよね。
晩年にはSKB とブルックナーの交響曲全集を録音しようとしていましたが、1990年の病により事実上の引退となったため叶わぬ夢となり、第8番 (1986年8月)、交響曲第1番 (1987年5月)、第4番 (1988年10月)、第7番 (1989年1月)、第5番 (1990年1月) の5曲が遺されました。第3番のような人気曲や第9番のような後期の大傑作よりも前に第1番を録音しているのは意外ですが、こちらは1987年5月にベルリン・イエス・キリスト教会でセッション録音されたもの。

『おてんば娘』を素朴に
交響曲第1番はブルックナーの晩年に改訂されたウィーン稿もありますが、スウィトナーは初期の作曲であるリンツ稿を使用しています。ブルックナーが親しみを込めて『おてんば娘』と呼んだこの作品が、リンツ稿ではまだこなれていない素朴さが特徴的。
SKB はダニエル・バレンボイム、クリスティアン・ティーレマンと継承され現在は重厚なサウンドが持ち味になっていますが、スウィトナー時代のSKB には透明感を感じる響きがあります。中庸とされるスウィトナーですが、ブルックナーでも主旋律を支える副旋律の存在を出しています。
第1楽章冒頭では低音の弦によるリズミカルな進行が、第1ヴァイオリンとホルンによる第1主題が始まっても陰に隠れず規則的に刻まれ、陰影を生み出しています。熱を帯びて18 小節(トラック1の0:34)でフォルテッシモの頂点に達すると、スウィトナーとSKB は絵の具をぶちまけたかのような荒々しさを出してこの素朴な音楽と正面から向き合っています。第2主題では後のブルックナーのアダージョ楽章を彷彿とさせる美しさが花開きますが、まだあどけなさを感じさせてくれます。
94 小節 (トラック1の3:23 あたり)から始まるフォルテッシモ頂点ではテンポをぐっと落としてトロンボーンによる強烈なコラール。第2楽章の陰や、第3楽章の丁寧すぎるぐらいのスケルツォ、そして第4楽章の溢れるような熱気を聴き進むと、『おてんば娘』の素朴さをストレートに表現しきったスウィトナーの手腕が光る演奏です。
オススメ度
指揮:オトマール・スウィトナー
シュターツカペレ・ベルリン
録音:1987年5月12-15日, ベルリン・イエス・キリスト教会
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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