このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第7番 カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1986年)
ブルックナー交響曲第7番 カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1986年)
  • ジュリーニとウィーンフィルによるブルックナーの後期交響曲録音の第二弾
  • ウィーンフィルの柔らかな響きによる歌心と慈愛
  • 壮大な構築美

1つ前の記事で新年にも関わらずチャイコフスキーの交響曲「悲愴」という暗い曲を紹介してしまいましたが、今日は再び長調の明るい作品を紹介したいと思います。

イタリア出身の名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニは必ずしもブルックナー指揮者だったわけではありませんが、ゆったりとしたテンポで慈愛に満ちた歌うような旋律の引き出し方としっかりとした構造を持たせた演奏にブルックナーはピタリとハマり、1980年代にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音した第8番(1984年)、第7番(1986年)、第9番(1988年)の後期交響曲はいずれも名盤として評価されています。

既に2作品は紹介していたので、今日は第7番について書こうと思います。1986年6月のウィーン芸術週間の合間に録音されたものです。

交響曲第7番は、アントン・ブルックナーの交響曲作曲家としての地位を高めた作品で、珍しく初演から高い評価を受けたものです。1984年12月30日にアルトゥル・ニキシュ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が初演をおこなったのですが、このときの演奏曲目はフランツ・リストの「レ・プレリュード」、ピアノ独奏によるフランツ・シューベルトの「さすらい人幻想曲」、リストの「ドン・ファンのファタンジー」、そしてリヒァルト・ヴァーグナーの「神々のたそがれ」から「ラインの娘たち」が演奏され、最後にブルックナーの交響曲第7番が演奏されたそうですが、楽章が終わるごとに聴衆からの拍手の数が増えていったと書かれています。(根岸一美 著 音楽之友社「ブルックナー」)。

そして各地で交響曲第7番の演奏が行われますます高い評価を受けるブルックナーですが、意外にもウィーンフィルからの演奏の願い出には一度断っています。理由はこれまでの作品でウィーンフィルから無下に扱われたことへの反動と、高い権威を持っていた音楽評論家エドゥアルト・ハンスリックが幅を利かせていたのを恐れたためと考えられます。

結局ウィーンフィルでの交響曲第7番の初演は1886年3月21日まで持ち越されましたが、アンチ・ヴァーグナー派の評論家による手厳しい批評はありましたが、聴衆からは好意的に受けとめられたと言われています。

私もブルックナーを初めて聴くという方には第7番から入ることをオススメしています。

上記のようにウィーンフィルはブルックナー生前のときから縁が深かったオーケストラですが、持ち前の柔らかな響きと美しい音色がブルックナーを演奏する上ではこの上ないプラスになっています。

ベルナルト・ハイティンクが指揮した交響曲第8番(1995年)の記事でも書きましたが、ハイティンクは2019年のザルツブルク音楽祭でのインタビューで「ウィーン・フィルは特別です。例えばブルックナーの交響曲でも音色と方向性がすばらしくて大好きなんです。」と語っていたほど、ブルックナーといえばウィーンフィルという評価が指揮者の中にもありますね。

特に交響曲第7番については、ウィーンフィルの名演が多いです。1976年のカール・ベームとのレコーディングでは素朴な味わい深い演奏でしたし、1989年のヘルベルト・フォン・カラヤンの最後の録音となったライヴ録音では美しすぎると感じるほどの極上の響きでした。さらに2019年のハイティンク最後となったザルツブルク音楽祭でのライヴ録音では、自然体の境地を感じる演奏で、どれも印象に残っています。

前置きが長くなりましたが、このジュリーニとウィーンフィルによる録音は私の中で交響曲第7番の中で最も好んでいるアルバムです。1986年の録音ということで、ウィーン初演から100年目に当たる節目の年でもあります。

第1楽章や第2楽章で魅せる歌心と柔らかさはもちろんですが、第2楽章の後半の主題のクライマックスでは意外にも壮大なスケールでの描き、ティンパニもとどろいでいます。そして静寂に入ってからコーダでの「葬送音楽」ではしっとりとした柔らかい響きで始まるのですが、この慈愛さがたまりません。

第3楽章ではまた柔らかい響きで魅了してみくれますが、第4楽章ではゆったりとしたテンポで壮大さに締めくくります。

カルロ・マリア・ジュリーニが1980年代にウィーンフィルと録音したブルックナーの後期交響曲。第二弾となる第7番は歌心、慈愛、壮大さで魅了してくれます。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1986年6月, ウィーン楽友協会・大ホール

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:2

  1. ブルックナー初心者です。昨年のハイティンク追悼記事の際に、ブルックナー7番を通しで聴いて、その癒し効果に気付き、少しずつハマり始めています。こちらのジュリーニの演奏も素晴らしく、特に第2楽章などずっと聴いていたい気分でした。第3楽章も落ち着いた展開に納得です。曲自体について、第4楽章だけ自分の中で整理がついていないので、これから理解を深められればと思います。

    • XIZEさま
      コメントありがとうございます。ベートーヴェン→ブラームス→マーラー→ブルックナーという順で聴き進めて、私もブルックナーは後発でした。
      自分の場合は6番から入ってしばらく足止めしてしまったのですが、7番から入ると入りやすいと思いました。
      ベートーヴェンでいうと「田園」から入るイメージです。
      圧倒的に人気なのは8番で、これはベートーヴェンの第九のようにストーリーが分かりやすいというところがあります。ただ、80分を超える超大作なのでブルックナーを聴き進めてからたどり着くほうが良いかと思います。
      ベートーヴェンやマーラーだと終楽章が圧倒的な交響曲が多いですが、ブルックナーは8番を除いて終楽章があっさりしている点はあります。
      7番は私も繰り返し聴いてようやく理解できたような気分になりました。

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