このアルバムの3つのポイント

サイモン・ラトル 英国作品集
サイモン・ラトル 英国作品集
  • ラトルによる2回目の「惑星」録音
  • コリン・マシューズの「冥王星」付きによる演奏
  • ベルリンフィルとのライヴ録音

先日、プラネタリウムを観てきたのですが、最新の科学による発見とCGの技術で太陽系の惑星が鮮明に再現されていて深い感銘を受けました。

そう言えば「惑星」の曲をまだこのサイトで紹介していなかったと思い、今回取り上げることにします。

英国の作曲家グスターヴ・ホルストの代表作である組曲「惑星」。1914年から16年に作曲されましたが、当初は6曲がピアノ・デュオ、そして「海王星」がオルガンのために作られました。これを1917年から管弦楽曲用にオーケストレーションして生まれたのが有名な管弦楽版の「惑星」。特に「木星」は平原綾香さんが「ジュピター」という歌にアレンジされたのでクラシック音楽を知らない方でも耳にしたことがある方は多いでしょう。

ラトルは25歳だった1980年12月に早くもフィルハーモニア管弦楽団と「惑星」を録音していて、日本でのCDデビューとなりました。私はまだ聴いたことがありませんが、他の指揮者と一線を画す才気溢れる演奏だったそうです。24歳という若さでバーミンガム市交響楽団の首席指揮者を務め、しかも世界一流のオーケストラの水準へと高めていった才能はただただすごいです。

2002/2003年のシーズンからベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めたラトルは、就任してすぐの2002年9月にマーラーの交響曲第5番をライヴ録音しています。

そしてラトルにとって2回めとなる「惑星」の録音が2006年3月のベルリンフィルとのライヴ録音。単なる再録音というだけではなく、英国の現代作曲家コリン・マシューズが2000年に作曲した「冥王星、再生する者 (Pluto, the Renewer)」も組み合わせての演奏だったのです。

冥王星は1930年に発見された太陽系の惑星でした。ホルストが「惑星」を作曲した時には未発見だったので組曲の7曲の中には冥王星はありません。そしてマシューズが「冥王星」を作曲し、8曲目として演奏したのがこの録音。

ラトルは最新の研究成果を演奏に盛り込む指揮者で、2002年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とライヴ録音したベートーヴェンの交響曲全集ではベーレンライター版のスコアを使用していましたし、他にもマーラーの交響曲第10番のクック補筆版による5楽章での演奏(1999年の録音)や、補筆版4楽章によるブルックナーの交響曲第9番の世界初演(2012年)などもあります。

この「惑星」もラトルならではの企画でしょう。当時リリースされた2枚組のアルバムには、2枚目に現代作曲家のマーク=アンソニー・タネジによるCeres (ケレス、準惑星の名前。セレスとも)など宇宙に関連する現代音楽が含まれていました。私も持っていたのですが、引っ越しのタイミングでCDを紛失しまって、サイモン・ラトルの英国作品集(British Music)のCD BOXで「惑星」を聴いています。

さて前置きが長くなってしまいましたが、このラトル&ベルリンフィルによる演奏は、スケールが大きく華やかな演奏になっています。特に素晴らしいのが第1曲「火星」。戦いの星として容赦のない激しさで演奏されています。ワーナークラシックスが2016年にリリースした「ラトル&ベルリン・フィル ザ・ベスト」でも、この「惑星」の録音から「火星」が採用されているのですが、それも納得。

「海王星」の神秘的な作品の後に続くマシューズの「冥王星」は最初こそ神秘的なのですが、再生する者というタイトルどおり、半ばで激しく爆発するような表現があります。そしてあっけなく消えて行くのですが、この何とも言えない世界観があります。ホルストの音楽とは別に、これはこれで面白い作品だと思いました。

しかし、奇しくもこの演奏の5ヶ月後の2006年8月、冥王星は「準惑星」に降格してしまいます。理由としては惑星とは言うには大きさが小さく、同じような大きさの星が他にもいたためです。そこで「準惑星」という新しいカテゴリーができ、冥王星は惑星から準惑星に移籍しました。ただ、ホルストの「惑星」と関連して宇宙つながりということでマシューズの「冥王星」が演奏されることは今後もあると思います。

サイモン・ラトル2回目のホルスト「惑星」の録音で、マシューズの「冥王星」を加えた新解釈。ただ、演奏自体は第1曲の「火星」が光っていると思いました・

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:サー・サイモン・ラトル
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン放送合唱団女声合唱団(「海王星」、「冥王星」)
録音:2006年3月15ー18日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:1

  1. 火星は、徐々に接近してくるイメージで、圧迫感のある曲の中でのメリハリも上手くつけられていると思いました。弦楽器のうねりに宇宙で吹き荒れる(?)太陽風のようなものを感じ、ちょっとイマージェンシーモードを発動せねば、という気持ちになりました。木星での歌わせっぷりもさすがイギリス人というところでしょうか。個人的には、海王星のフェードアウトで終わるのが好きかな。

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