このアルバムの3つのポイント
- マリス・ヤンソンス・エディションで初CD化された「悲劇的」
- 推進力のある第1楽章、個々の楽器が美しいバイエルン放送響のハーモニー
- 第2楽章スケルツォ、第3楽章アンダンテの順での演奏
マリス・ヤンソンス ジ・エディションにマーラーの交響曲全集が
Twitterで紹介したのですが、先日リリースされたばかりのMariss Jansons The Edition。マリス・ヤンソンスが首席指揮者を務めていたバイエルン放送交響楽団の自主レコーディング・レーベルのBR KlassikからCDが57枚、SACD Hybridが11枚、そしてDVDが2枚、合計70枚のBOXで、値段も3万3千円を超える大作です。
私はよく中身を見ずにヤンソンスだから購入しておこうと思って買った口ですが、バイエルン放送響との録音全集かと思いきや、ベートーヴェンの交響曲は旧盤では第7番と第8番などがフィルハーモニー・ガスタイクでのライヴ録音(こちらで紹介)でしたが、このBOXでは新盤の2012年サントリーホールでの来日公演でのライヴ録音に変わっています。
また、初出のレコーディングも12枚あり、マーラーでは交響曲第3番、4番、6番、8番がCDとして初リリースとなりました。
昨日初めて気付いたのですが、マーラーの交響曲第1番から第9番までがバイエルン放送響とのコンビでライヴ録音されたということになります。
交響曲第10番第1楽章や、大地の歌こそありませんが、マーラーを得意としながらも交響曲全集が無かったヤンソンスにとって全集が完成したということに。これは嬉しい。
コンセルトヘボウ管との録音と全く違う演奏
このバイエルン放送響との「悲劇的」は2011年5月のフィルハーモニー・ガスタイクでのライヴ録音。
ヤンソンスの「悲劇的」と言えば、同じく首席指揮者を務めていたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とのライヴ録音(2005年)があり、FC2ブログで紹介しましたが、第2楽章がアンダンテ、第3楽章がスケルツォの順で演奏し、「コンセルトヘボウ・サウンド」と言われる豪華なハーモニーを活かして透き通った響きと美しさを追い求めたような演奏でしたが、迫力という面では少し物足りなさも感じました。
しかし、このバイエルン放送響との録音ではまるで違う指揮者を聴いているかのように、第1楽章を速めのテンポで進みます。
私は「悲劇的」と言えばサー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団の1970年の録音を今でも愛聴していますが、第1楽章は速いテンポでグイグイ進み、スケルツォもキビキビして、アンダンテはうっとりするようで、そしてフィナーレは降り落ちる悲劇が劇的に表現されて、全楽章どれも気に入っているのですが、このヤンソンスとバイエルン放送響盤はそれに近い印象があります。もちろんシカゴ響のパワフルなオーケストラと、バイエルン放送響の精緻なアンサンブルを持つオーケストラでは違いはありますが、解釈は似ています。
ヤンソンスは2005年のコンセルトヘボウ盤では演奏時間が第1楽章23:45、第2楽章がアンダンテで15:35、第3楽章がスケルツォで13:15、第4楽章が31:12でトータル83:47で、CDも2枚に分かれていました。
このバイエルン放送響盤(2011年)では第1楽章22:47、第2楽章がスケルツォで12:15、第3楽章がアンダンテで14:27、そして第4楽章が29:49、トータル79:18となり、CD1枚に収まっています。かと言って速すぎる印象はなくこの曲の魅力を余すところなく伝えてくれています。
この交響曲は第2楽章と第3楽章の演奏順がマーラー自身も迷ったと言われています。国際マーラー協会による「全集版」が1963年に出版されたときは、第2楽章がスケルツォ、第3楽章がアンダンテがマーラーの最終意思として定説化されましたが、2003年に国際マーラー協会が第2楽章アンダンテ、第3楽章がスケルツォという順番がマーラーの最終意思と判定しました。それ以降、アンダンテ→スケルツォの順で演奏する指揮者が多くなりました。ヤンソンス自身も2005年のコンセルトヘボウ管盤ではそれに従っています。
しかし、このバイエルン放送響盤ではスケルツォ→アンダンテの順で演奏しているのです。ヤンソンスの見解を聞きたいところですが、私自身は第1楽章との関連性で第2楽章をスケルツォ、そして第3楽章で美しくてつかの間の休息の第3楽章アンダンテを経て、第4楽章に悲劇へ進む順番が好みです。
この演奏では、バイエルン放送響なのにと言ったら失礼ですが、パワフルな演奏が持ち味ではないオーケストラだと思っていましたが、第1楽章は兵隊が行進するような壮大さがあり、ティンパニやシンバルも心地良いぐらい決まっています。
そして第2楽章スケルツォはさらにテンポを上げて引き締まった演奏になっています。これには驚きました。これまでのコンセルトヘボウ盤とは全く違うテイストになっているのです。
第3楽章はさすがと言うべきでしょうか、ヤンソンスが生み出した極上の響きが見事です。
第4楽章は個々の楽器の音色が見事です。少し室内楽的で迫力不足な感じも否めませんが、ヤンソンスはバイエルン放送響とパワーではなく緻密な音楽作りを目指した気がします。第2主題の美しさが本当に素晴らしいと思います。漂うような静寂なひと時の中にいきなりの演奏される最後のトドメのイ短調の和音は強烈です。そしてティンパニが叩きつけるように演奏されるのですが、徐々に音が小さくなっていき、最後にフッと消えてしまいます。このラストの部分は印象的でした。
まとめ
マリス・ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団による初出のCD化となったマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。コンセルトヘボウ管との録音とは全く違う驚きの演奏でした。
オススメ度
指揮:マリス・ヤンソンス
バイエルン放送交響楽団
録音:2011年5月4-6日, フィルハーモニー・ガスタイク(ライヴ)
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試聴
特に無し。
受賞
新譜のため未定。
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