このアルバムの3つのポイント
- モーツァルトの生誕250周年にリリースされたポリーニの弾き振りによるピアノ協奏曲
- ウィーンフィルのしなやかな響き
- レコード芸術のリーダーズ・チョイスで第1位を受賞
ポリーニによるモーツァルトのピアノ協奏曲
本日は正月三が日ということで、明るくて晴れ晴れする曲を紹介したいと思います。
現代最高のピアニストの一人、マウリツィオ・ポリーニはかつてカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団1976年4月にモーツァルトのピアノ協奏曲第19番と23番をセッション録音(こちらの記事で紹介)しています。
1992年のインタビューで、ポリーニは当時を次のように振り返っています。
彼(カール・ベーム)にはモーツァルトの演奏者としてとても心酔していたので、イ長調とヘ長調の協奏曲をやってみたいと私からお願いしました。その後、ベートーヴェンの「第3番」「第4番」「第5番」、そして最後にブラームスの「第1番」を録音しました。
マウリツィオ・ポリーニ、ウンベルト・マジーニによるインタビュー, 1992年
(中略)
ベームは、今、もっと聴かれてよいのではないかと思います。彼の驚くべき厳粛さと彼のスタイルは、今日完全には理解されていないように思うのですけれど。
ベーム/ウィーンフィルの質素でもあり素朴な作品の美しさが表れた演奏に、ポリーニの大理石のような硬いピアノが合わさり、異色な組み合わせのように感じましたが、ベームはポリーニとの協演を気に入り、さらにベートーヴェンとブラームスのピアノ協奏曲も録音しています。
ポリーニはベームとのレコーディング以来29年ぶりにモーツァルトのピアノ協奏曲の録音をおこないましたが、それが2005年5月のウィーンのムジークフェラインザールでのライヴ録音で、ポリーニ自身がウィーンフィルを弾き振りして(ピアノと指揮を兼務して)演奏したもの。
ポリーニのピアノ協奏曲と言えば、子供のときから親交のあった同郷の指揮者クラウディオ・アバドとの協演が非常に多く、ベートーヴェン、ブラームス、シューマン、バルトーク、シェーンベルクなどで録音もしていますが、意外にもモーツァルトの協奏曲は録音していません。一方で、アバドはルドルフ・ゼルキン(第20番、21番)、フリードリヒ・グルダ(第20番、21番、25番、27番)、マリア・ジョアン・ピリス(第14番、17番、20番、21番、26番、27番)やマルタ・アルゲリッチ(第20番、25番)などのピアニストとモーツァルトのコンツェルトを録音しています。
「私たちは音楽的にいってもとてもよく理解し合って来ました。」と語っていたポリーニですが、アバド自体はモーツァルトを得意としていたのに、少なくともレコーディングでのモーツァルトの協演はしなかったということでしょうか。または、モーツァルトのレコーディングでオーケストラが先にウィーンフィルと決まったものの、ウィーンフィルのリハーサルと本番で違う奏者が出てくる慣習への不満などもあり、ウィーン歌劇場のポストを辞任してから疎遠になってしまったアバドが指揮することが難しいということもあったでしょうし、何よりもポリーニ自身が弾き振りにこだわった可能性も高いですね。
いずれにせよ、ポリーニ自身の弾き振りでの演奏ということでオーケストラとピアノの親和性、さらにポリーニの意向が随所に伺えます。
レコ芸のリーダーズ・チョイスで1位を獲得
この録音はモーツァルトの生誕250周年のアニバーサリーだった2006年にリリースされ、人気を博しました。クラシック音楽ジャンルでの売上も上位でしたし、2006年度のレコード芸術のリーダーズ・チョイス(読者が選ぶベスト・アルバム)で第1位に選ばれました。
好評につき、ポリーニはさらに2007年6月にウィーンフィルを弾き振りして、ピアノ協奏曲第12番と24番もライヴ録音しています。
ピアノ協奏曲第17番と21番
選曲が何よりも良いです。モーツァルトの27あるピアノ協奏曲の中でも、のびのびとして明るいこの2曲を選んでいるのが嬉しいです。
70年代や80年代の前半までは打鍵に硬さがあったポリーニのピアノですが、ここでは円熟した温かみがあります。超絶技巧や重低音をガンガン鳴らすスタイルはここでは感じられず、あくまでもモーツァルトの純粋無垢で茶目っ気たっぷりの明るさがあります。柔らかく粒が滑らかです。
オーケストラがウィーンフィルであることも理想的でしょう。柔らかい木管と弦によって始まり、豊かな響きと柔らかさ、そしてヴァイオリンをはじめとする弦の美しさを兼ね備えています。
第21番ではイタリア現代音楽の作曲家サルヴァトーレ・シャリーノのカデンツァを使っていて、珍しさがあります。
ライヴ録音で演奏がイキイキとしている利点もありますが、テンポはあまり変化せずにやや速めのペースで一本調子な演奏になったところもありますが、改めて聴いてもこの2曲の組み合わせは本当に良いですね。
まとめ
モーツァルト・イヤーを盛り上げた円熟のポリーニの弾き振りによるモーツァルトのピアノ協奏曲。ウィーンフィルという理想的なパートナーとの演奏で、音楽ファンを喜ばせた1枚。
オススメ度
ピアノと指揮:マウリツィオ・ポリーニ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2005年5月, ウィーン楽友協会・大ホール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
ポリーニは、以前の記事のバルトークの協奏曲で度肝を抜かれてから、すごいピアニストだと認識していました。今回のモーツァルトも、磨き抜かれた、精米歩合の高い大吟醸のような(あまり例えが良くないか?)印象を受けました。その一方で、ライブ録音ということもあり、人間味にもあふれており、おそらくポリーニさんのものと思われるうなり声が随所に収められています。最終トラック終盤近く4:37 など完全に歌ってらっしゃいます。