このアルバムの3つのポイント
- アシュケナージの交響的練習曲の再録音
- 指揮者で磨かれたバランス感覚
- レコード・アカデミー賞受賞
シューマンの作品に注力したアシュケナージの80~90年代
ピアニストで指揮者のヴラディーミル・アシュケナージはレコーディングが数多く、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集、ピアノ協奏曲全集を3回、ショパンのピアノ作品全集、スクリャービンのピアノ・ソナタ全集、バッハの平均律クラヴィーア曲集全集、ラフマニノフのピアノ作品集など、多くの録音をデッカ・レーベルに遺しています。
ロベルト・シューマンについても1960年代に録音している他、1980年代中盤から90年代にかけてピアノ作品集を精力的にレコーディングしてきました。今回紹介するのは1984年12月にルツェルンでセッション録音されたシューマンの交響的練習曲Op.13、アラベスクOp.18、『蝶々 (パピヨン)』Op.2のアルバム。このディスクは1987年度の日本のレコード・アカデミー賞の器楽曲部門を受賞した名盤です。
1984年と言えばショパンのピアノ作品全集の完成が近付いていて、こちらの記事で紹介したラフマニノフのピアノ協奏曲全集の2回目の録音を盟友ベルナルト・ハイティンクの指揮とコンセルトヘボウ管と始めたときでもあり、ラフマニノフの交響曲全集(1980ー82年)は完成させていて指揮者としても脂が乗ってまさにアシュケナージ全盛期。
交響的練習曲の再録音
アシュケナージのシューマンは詩情が豊か。最初のアラベスクでは音が織りなす緻密な模様、移ろいゆく情景を見事に弾き分けています。続く蝶々はジャン・パウルの小説『生意気盛り』や『仮面舞踏会』からインスパイアされたという音楽で、小説の登場人物や場面が描かれています。アシュケナージは持ち前の無邪気さで性格の違う人物を描き分け、圧倒的なフーガや軽やかなヴルトの踊りも自由自在。
そして注目はやはり大作の交響的練習曲Op.13。アシュケナージの交響的練習曲は、1965年7月の旧録音もありますが、そのときのピアニスティックでシャープな演奏に比べると、新録音はデジタル録音ということもあり、音質がクリアで細部までまろやか。交響的練習曲 (Sinfonische Etüden)という名前が付いているほどのピアノ曲ながらスケールを求められる作品ですが、アシュケナージの指揮者の経験で培ったオーケストラのバランス感覚がこの演奏の色彩感をより引き出しています。本当に見事。
まとめ
アシュケナージによるシューマンの交響的練習曲の再録音を含む作品集。詩情たっぷりの名演です。
オススメ度
ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
録音:1984年12月, ルツェルン・クンストハウス
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廃盤のため無し。
試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
アラベスク、蝶々、交響的練習曲のアルバムが1987年度の日本のレコード・アカデミー賞「器楽部門」を受賞。
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