このアルバムの3つのポイント
- 東ドイツの名指揮者ザンデルリングによるショスタコーヴィチ
- ロシア音楽をドイツの重厚さで
- 第5番で光る個性
東ドイツの名指揮者ザンデルリングのショスタコーヴィチ
今日紹介するのは、ドイツの指揮者クルト・ザンデルリング(1912-2011年)。以前の記事でもザンデルリングとゲヴァントハウス管弦楽団とのアントン・ブルックナーの交響曲第3番を紹介しましたが、今回はドミトリ・ショスタコーヴィチの交響曲集です。
ドイツ出身ですが、戦争に翻弄された指揮者の一人で、Wikipedia のクルト・ザンデルリングの記事によると、ナチス・ドイツが台頭すると親がユダヤ人だったためにザンデルリングはドイツ国籍を剥奪され、ソ連に亡命することに。そしてレニングラード・フィルハーモニー交響楽団 (現・サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団)の第一指揮者となり、当時、音楽監督としてこのオーケストラの全盛期を迎えていたエフゲニー・ムラヴィンスキーのアシスタントも務めました。さらにドミトリ・ショスタコーヴィチ本人とも親交を結んだともあります。
ザンデルリングは1960年に東ドイツ政府の招聘に従いドイツへ帰国することができ、ベルリン交響楽団 (現・ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団)の首席指揮者に就任し、1977年までベルリン響のポストを務めた他、シュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者の座にもありました。東ドイツを代表する指揮者の一人です。
今回紹介するベルリン響とのショスタコーヴィチの交響曲第1番、5番、6番、8番、10番、15番の録音は、2021年にザンデルリング没後10年企画としてタワーレコードの限定販売でベルリン・クラシックス・レーベルとリリースしたものです。
ドイツのオーケストラでザンデルリングの解釈で
1977年にベルリン響の首席指揮者を退任したとは言え、終身客演指揮者や名誉指揮者としてこのオーケストラと良好な関係を築いたザンデルリング。このショスタコーヴィチの録音は1976年から83年にかけてなので首席指揮者退任の前後の時期になりますが、元々は交響曲全集として企画されていたものが途中で頓挫してしまい6曲の選集となったもの。
ベルリン南西部シュテーグリッツ=ツェーレンドルフ区にあるダーレム地区のイエス・キリスト教会でセッション録音されたもの。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団も1960年代、70年代でよく使っていたこの教会は音質も良く、音が逃げていかずにギュッと凝縮するような特徴があります。
ムラヴィンスキーの影響を受けたとは言え、このショスタコーヴィチの交響曲集がムラヴィンスキー流の演奏であるわけではありません。あくまでもザンデルリングが独自の解釈でベルリンのオーケストラとともに重厚なシンフォニーを作っています。レニングラード・フィルのような獰猛さがあるわけでもありません。
全体的にオーソドックスな演奏ですが特に際立っているのが交響曲第5番。第1楽章の冒頭から個性的です。やや速めのテンポで低弦が煽るように奏で、高弦がはちきれんばかりにそれに応え、雄大なシンフォニーが生まれていき、テンポを少し下げて丁寧にヴァイオリンの物悲しい旋律が引き出されます。悲鳴のような嗚咽の後、ヴァイオリンの細かいトレモロに低弦が優しさを吐露するようです。そして音楽がヒートアップする展開部ではザンデルリングの手腕が遺憾なく発揮されていて、トラック1の9分56秒あたりから加速するところの重厚感は本当にすごいです。
他にも交響曲第1番も気迫があります。この曲はショスタコーヴィチが音楽院の卒業制作として作曲したものですが、本当に学生が作った作品とは思えないほど容赦ない演奏をザンデルリングとベルリン響は聴かせてくれます。
交響曲第10番は第2楽章では有無を言わさない圧倒感があり、第3楽章は実にシュールな舞曲。
交響曲第8番は他の曲よりも重厚感が一際顕著で、ドイツのオーケストラならではの醍醐味です。一方でショスタコーヴィチの最後の交響曲となった交響曲第15番では静寂さが見事。ザンデルリングとベルリン響はジャン・シベリウスの交響曲全集の録音もありますが、そこでも最後の交響曲第7番で世を達観した演奏が印象に残りましたが、このショスタコーヴィチでも同じ印象を受けました。
あまり人気はないですが私が個人的に大好きなのが交響曲第6番。全集にならずに選集になってしまい、前衛的な第4番や、名曲中の名曲である第7番「レニングラード」、そしてショスタコーヴィチの「第九」への期待をあざ笑うかのような軽快な第9番と、さらにバスの独唱と合唱を伴う第13番「バビ・ヤール」など、含まれなかった交響曲もあるのですが、難解ながらも味があるこの第6番が選集に入ったのはすごく嬉しいです。
まとめ
ザンデルリングがゆかりのあったショスタコーヴィチの演奏。重厚でありながらもしなやかさも持つ演奏。ショスタコーヴィチで安心感を求めないかもしれませんが、安心して聴けるアルバムです。特に第5番と第10番が良いと思いました。
オススメ度
指揮:クルト・ザンデルリング
ベルリン交響楽団
録音:1976年9月9-10, 15-17日(第8番), 1977年2月9-11, 14日(第10番), 1978年5月26, 31日, 6月1-2日 (第15番), 1979年4月25-27日 (第6番), 1982年1月19-22日 (第5番), 1983年6月8-10日 (第1番), ベルリン・イエス・キリスト教会
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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