このアルバムの3つのポイント
- アバドの後任としてルツェルン祝祭管の第2代音楽監督に就任したシャイーの初めてのコンビでの録音
- ヴィルトゥオーソ・オーケストラを巧みにコントロールしたシャイーの手腕
- 来日公演でも称賛された「ハルサイ」
クラウディオ・アバドの後任としてルツェルン祝祭管の音楽監督に
スイス、ルツェルンを拠点にするルツェルン祝祭管弦楽団は、ルツェルン音楽祭のために臨時に編成される期間限定のオーケストラです。メンバーは各国のオーケストラの一流演奏家ばかりで、マーラー室内管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などのメンバーが集います。
クラウディオ・アバドが2003年に芸術監督に就任してからメンバーを一新し、スーパー・オーケストラとして晩年のアバドと数々の名演をおこなってきました。特にマーラーの交響曲第3番(2007年)やブルックナーの交響曲第5番(2011年)はアバドの遺した録音の中でも最高峰の出来だと思っています。
アバドが2014年1月に逝去されてから、一時アンドリス・ネルソンスがピンチ・ヒッターとしてルツェルン祝祭管の指揮もおこないましたが、正式に音楽監督に選ばれ2016年から就任したのは、アバドと同じくイタリア出身のリッカルド・シャイー。
2004年までオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を務めていましたが、まだまだ中堅というイメージが拭えなかったのですが、その後2005年から2016年までドイツのライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターを務め、最古の歴史を持ちつつもやや停滞していたこのオーケストラを復活させました。そして2017年からは母国のミラノ・スカラ座の音楽監督に移り、さらに目覚ましい活躍をおこなっています。
そのシャイーとルツェルン祝祭管の最初の録音が、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を含む2017年8月のライヴ・レコーディング。
2017年の来日公演でも称賛された「春の祭典」
リッカルド・シャイーとルツェルン祝祭管は、2017年10月に来日公演をおこない、サントリーホールでのストラヴィンスキーの「春の祭典」の演奏では、日経新聞の批評記事でもルツェルン祝祭管のヴィルトォーソぶりとシャイーのコントロールの巧さが賞賛されていました。
ファゴットのソロを長く長く引き延ばして始まったストラヴィンスキー「春の祭典」では、高度なアンサンブル力が遺憾なく発揮された。セクションごとのまとまりが素晴らしく、低弦を中心にどっしりした土台が築かれ、一丸となった金管群の共鳴も下腹に響く。蜘蛛の巣のように複雑な音の網を張り巡らせる管に、弦が弓をいっぱいに使ってスピード感を加えた。声部が層状に積み重なると、結束する楽器群の間に強烈なきしみが生じ壮観だ。
日経新聞 音楽評論家 江藤 光紀氏によるレビュー記事「シャイー指揮 ルツェルン祝祭管 実力者結集 貫禄と風格」(2017/10/20)
シャイーとルツェルン祝祭管は来日公演に先立つ2017年8月に、ルツェルン音楽祭でストラヴィンスキーの作品を演奏し、これがライヴ・レコーディングもされています。
このアルバムの収録曲は以下のとおりです。
1.葬送の歌 Op.5 ※世界初録音
2.幻想曲「花火」 Op.4
3.幻想的スケルツォ Op.3
4.組曲「牧神と羊飼いの娘」 Op.2
5.バレエ組曲「春の祭典」
「ハルサイ」がメインのアルバムですが、注目すべきは葬送の歌Op.5。
この作品はストラヴィンスキーの師であるリムスキー=コルサコフの追悼曲として1908年に作曲された作品であるが、1世紀以上も楽譜が行方不明となっていました。
2015年にロシアのサンクトペテルブルク音楽院で見つかった楽譜を使って、2016年12月にヴァレリー・ゲルギエフ指揮のマリインスキー歌劇場管弦楽団が復刻の初演をおこないました。そして世界初の録音となったのが、このシャイー指揮ルツェルン祝祭管。貴重な演奏です。
Op.2「牧神と羊飼いの娘」のメゾ・ソプラノ独唱はソフィー・コシュ(Sophie Koch)が務めています。
たっぷりと間合いを取って始まる「春の祭典」
「ハルサイ」では、冒頭のファゴットのソロがたっぷりと間合いを持って演奏されます。まるで物語の始まりのように、象徴的なイントロです。息遣いも聴こえるほど臨場感があります。
名手の集まりのオーケストラらしくヴィルトゥオーソぶりが遺憾無く発揮されていて、この音楽に求められる重厚感、スケール感、リズムには申し分がありません。個々の力量が前面に出ていますが、これを見事に一つのアンサンブルにまとめているシャイーの手腕もお見事でしょう。
このディスクについて、ガーディアン誌の批評でも5つ星の高評価が与えられています。
まとめ
ルツェルン祝祭管のヴィルトゥオーソぶりとそれを巧みにコントロールしたシャイーの手腕が光るアルバムです。新音楽監督シャイーとルツェルン祝祭管の幸先の良いスタートとなりました。
オススメ度
メゾ・ソプラノ:ソフィー・コシュ
指揮:リッカルド・シャイー
ルツェルン祝祭管弦楽団
録音:2017年8月16, 17, 19日, ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター(ライヴ)
スポンサーリンク
試聴
iTunesとDeccaのオフィシャルサイトで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
いつも貴サイトを楽しませて頂いております。読み応えがありますし、勉強にもなります。
私はブルックナー・フェチであるのと同時にストラヴィンスキー・フェチでもあります。
「春の祭典」に開眼したのは中学1年の時。
当時、全日本吹奏楽コンクールで駒沢大学が同曲から「選ばれし乙女への賛美」以降を演奏し、金賞を受賞しました。これをレコードで聴いたのが病気の始まり。今では同曲異演盤は80種類。
取り上げていらっしゃるシャイー指揮ルツェルン祝祭管弦楽団盤は私の中でもベスト1。
シャイーの指揮が素晴らしいのは当然として、オケがまた巧いですね。録音も極上。まずは文句のつけようがありません。
ちなみに私の中で第2位はラトル指揮ベルリン・フィル、第3位はアンチェル指揮チェコ・フィル(意外でしょうか?)。
ところで、私は貴殿のサイトの関心のあるところにコメントを書かせて頂いています。
これに対する貴殿からのご返事を頂くのはとても嬉しいのですが、お手数でしょうし、ご多忙と思いますのでお読み頂くだけで構いません。
何ならスルーして頂いても…。
これからもよろしくお願い致します。