このアルバムの3つのポイント
- カラヤン6度目のチャイコフスキーの交響曲第4番の録音
- ウィーンフィルの美音を活かした演奏
- 複雑に絡み合う、悩めるチャイコフスキーの旋律
チャイコフスキーを何度も録音したカラヤン
ヘルベルト・フォン・カラヤンはチャイコフスキーを得意とし、特に第4番から第6番の後期交響曲は何度も録音をおこなっています。交響曲第4番は、正規録音でも6回録音おこなっていて、その最後となったのが今回紹介する1984年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのセッション録音です。
1984年のウィーンフィルとの交響曲第4番
1980年代中盤になってくると、カラヤンは音楽監督を務めていたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との軋轢が顕在化してきて、それから逃れるようにウィーンフィルとの演奏、録音が増えてきます。特に最晩年にかけては、1989年4月にベルリンフィルのポストを辞任して新たな出発を果たそうとする中で、同じく4月にブルックナーの交響曲第7番をウィーンフィルと演奏し、ライヴ録音もおこなっています。そして7月にザルツブルク音楽祭でウィーンフィルとヴェルディの歌劇「仮面舞踏会」を上演する予定でしたが、リハーサルをおこなった翌日にカラヤンは突然の死去を迎えます。「仮面舞踏会」では代理の指揮者を立てていなかったので、誰がカラヤンの代わりを務められるのか関係者は奔走しましたが、サー・ゲオルグ・ショルティしかいないということで、主役のテノール歌手のプラシド・ドミンゴの直談判によりショルティが指揮することになりました。そのエピソードについてはこちらの記事に書いています。
他にもウィーンフィルとは1985年のドヴォルザークの「新世界より」も録音しています。チャイコフスキーの交響曲第4番ヘ短調はその前年に録音されたものです。
まろやかになったサウンドと旋律の線を強調
この交響曲第4番は、第1楽章の冒頭からホルンの強烈なファンファーレが炸裂し、これがモチーフとなって全曲を有機的につなげています。カラヤンとウィーンフィルはホルンの強い音を出しつつも、やや抑制を効かせていて音楽が暴走しないように細心の注意を払っています。ウィーンフィルらしい木管や弦の豊かな響きがまろやかです。また、旋律の線を強調してすっきりとさせていますが、逆に低音があまり聴こえないのです。
クライマックスに入る前に少し溜めを効かせて、一気に強音を炸裂させているため、チャイコフスキーに襲いかかる「運命」を感じさせるような劇的な効果を生み出しています。
第2楽章ではウィーンフィルの持つ魅力が全開です。冒頭のオーボエの主題が素晴らしいですし、ハーモニーになったときの美しさも良いです。第3楽章のピチカートは美しいですが、特にコメントは無いです。
第4楽章は強烈な響きと急激なテンポが特徴です。第1楽章ではあれほど抑えを効かせていたのですが、カラヤンとしてはこの楽章で最大のクライマックスを作るようにしたのでしょう。音量もウィーンフィルにしては最大限出ています。第4楽章でこれだけの音量を出すなら、第1楽章冒頭の「運命」のモチーフでもっと音量を出しても良かったのにと思ってしまいます。何だか全体的なバランスがちぐはぐな感じが。
1976年のベルリンフィルとの録音と比較すると
1976年にベルリンフィルとこの曲を演奏したときは、シカゴ交響楽団が演奏しているのかと思うぐらいに金管が強烈で、機能性が高い演奏でしたが(こちらの記事に書いています)、ウィーンフィルとのこの再録ではまろやかになってますね。ただ、シンフォニックさは薄れています。また、ベルリンフィルのときよりもアンサンブルは揃っていません。第3楽章もベルリンフィルのほうがすごかったですね。私個人としては、ベルリンフィルとの演奏のほうが好みです。ただ、オーボエを始めとする木管の美しさや、弦の色っぽさはこちらのウィーンフィルのほうが軍配が上がるでしょう。
まとめ
聴きどころでのテンポを速めることによる効果が劇的で、緩急の付いたメリハリのある演奏です。ウィーンフィルらしい豊かな響きで第2楽章がオススメです。第4楽章は強烈ですが、全体的のバランスを考慮するとベルリンフィルとの70年代の旧録のほうが良かったと言う率直な印象。
オススメ度
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1984年9月, ウィーン楽友協会・大ホール
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【タワレコ】チャイコフスキー:交響曲第4番 幻想序曲≪ロメオとジュリエット≫試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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