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チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」 テオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナ(2015年)
チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」 テオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナ(2015年)
  • 鬼才クルレンツィスと手兵ムジカエテルナによる『悲愴』
  • 独創的な大胆さと繊細さ
  • 日本のレコードアカデミー賞大賞とオランダのエジソン賞受賞!

新年のニューイヤー・コンサートのワルツの余韻に浸っていたいですが、早く紹介したいので暗い曲ですが今日は『悲愴』交響曲について書きます。

ギリシャのアテネ出身の鬼才の指揮者、テオドール・クルレンツィス。ロシアのサンクトペテルブルク音楽院で指揮を学び、ノヴォルシビスク国立歌劇場の音楽監督だったときにアンサンブル・ムジカエテルナを創設し、芸術監督を務めています。いまは南西ドイツ放送交響楽団の首席指揮者も務めている中堅どころ(1972年生まれで今は49歳)の指揮者ですが、近年目覚ましい活躍を続けています。

特にムジカエテルナとの演奏・レコーディングは話題を集め、2017年度の日本のレコード・アカデミー賞では今回紹介するチャイコフスキーの交響曲「悲愴」が交響曲部門と大賞を受賞し、モーツァルトの歌劇『ドン・ジョヴァンニ』がオペラ部門と大賞銀賞を獲得。「悲愴」はオランダのエジソン賞でも管弦楽部門を受賞しました。

さらに2018年度では同じコンビによるマーラーの交響曲「悲劇的」がレコード・アカデミー賞の交響曲部門と大賞を受賞。2年連続で受賞しています。

現在はベートーヴェンの交響曲チクルスを進めていて、交響曲第5番「運命」交響曲第7番がともに2018年に録音されています。いたずらにスケールを求めるわけではなく、室内楽のような緻密なアンサンブルで大胆な表現は確かにどのオーケストラ、どの指揮者にも無いような個性的な演奏だと思います。

日本では特に評価が高いですが、米国のグラミー賞、英国のグラモフォン賞はまだ取っていないので、国によっては評価が割れているようですね。

今回紹介するチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」は名曲なので名演も多いわけですが、その中の1枚にこのクルレンツィス盤を入れたいところ。ベルリンのフンクハウス・ナパシュトラーセ(Funkhaus Nalepastraße)での録音で、ライヴ録音が全盛の今どきでは珍しいセッション録音です。それだけよく練られた演奏に仕上がっています。

第1楽章は大胆で繊細。序奏、第1主題、第2主題としみじみと演奏していきますが、一旦音が消え、長めに設けた休符のフェルマータの後、ff(フォルティッシモ)の強烈なトゥッティで展開部を開始します。ffが来ると分かっていたのに、あまりの力強さに心臓が止まるほどの驚きを感じました。そしてムジカエテルナの激しいアンサンブルで情動的にエスカレーションしていきます。弦楽器も敢えて軋むように荒々しく演奏していきます。

第4楽章は冒頭に「シュー」という、声のような、何かが擦れるような音が聞こえるのですが、私には何の音かよく分かりませんでした。同じ旋律が繰り返される2回目ではこの音は聞こえませんでした。また、曲が扇動的になると今度は「カチカチカチ」と謎の音が聞こえます。トラック4の6分58秒あたりから7分21秒の間です。演奏自体は強烈なメランコリーで素晴らしいのですが、指揮者によるものなのか、セッション録音にも関わらずこうしたノイズみたいなのが入ってしまうことに私には抵抗感がありました。ちなみに2020年11月にソニー・クラシカルからリリースされたBEST CLASSICS 100 極の「極HiFi CD」で聴いています。

鬼才クルレンツィスとムジカエテルナによる「悲愴」。日本とオランダの音楽賞を受賞した名盤で、数あるこの名曲の名演の中に入れたい1枚です。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:テオドール・クルレンツィス
ムジカエテルナ
録音:2015年2月9ー15日, フンクハウス・ナパシュトラーセ

iTunesで試聴可能。

2017年度の日本レコード・アカデミー賞の大賞及び「交響曲部門」を受賞。また2018年のオランダ・エジソン賞の管弦楽部門(HET ORKEST)を受賞。

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コメント数:1

  1. 人気のある指揮者のようですが、これまで聴く機会がありませんでした。解釈は非常に斬新で、引き込まれるものがありました。ご指摘の謎の音はやはり気になりましたが、感情のほとばしり、ということなのかなと勝手に解釈しました。弦楽器がガシガシと前面に出てくるのに対して、管楽器が舞台裏に押しやられているような印象(特に3楽章!)もありました。録音ミックスの仕方かもしれません。

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