このアルバムの3つのポイント
- ショルティ/シカゴ響の2回目の交響曲全集から渾身の「英雄」
- 骨太で力強く、しなやかに美しく
- 楽譜に忠実、なのにすごい
ショルティの2回目のベートーヴェン交響曲全集
サー・ゲオルグ・ショルティは1972年〜74年に1回目のベートーヴェンの交響曲全集(FC2ブログ記事)を、音楽監督を務めたシカゴ交響楽団と録音して、シカゴ響というスーパーオーケストラのサウンドを最大限に引き出して、まるで大聖堂のような壮大な構造物のような演奏を記録した。そして2回目となった交響曲全集は1986年〜89年に同じくシカゴ響と。録音の技術はデジタルへと変わり、今聴いても音質がかなり良い。また、1912年生まれのショルティ自身も、1回目が60代前半と遅かったが、それから約15年後の70代半ばに再び全集を録音したいという気持ちになったのだろう。年齢を感じさせないすさまじい気迫がみなぎっている。再録となった全集でも、基本的なアプローチは1回目と変わらないが、壮年期のショルティの特徴だった鋭角的な引き締まった音楽が、年齢とともに丸みを帯びたのだろうか、角が取れたような演奏がが特徴である。
交響曲第3番「英雄」は忠実な演奏×オペラのドラマ性
今回紹介する第3番「英雄」が録音されたのは1989年5月。冒頭の和音から迫力ある演奏で、これぞショルティとシカゴ響だという実感が湧く。金管楽器もうるさくなく、1回目の演奏では少し気になったキンキンとしたところもなくなっている。長すぎて省略されることも多い第1楽章の提示部のリピートも行われており、楽譜を忠実に解釈しているのがショルティらしい。ただ、繰り返しがあっても単調になることはなく、重厚で壮大なハーモニーをまだまだ聴きたいと思ってしまう。
特筆すべきは第2楽章の「葬送行進曲」。私はこれまでヴァーグナーの楽劇のように耽美に流れるのがこの曲の良さだと思っていたが、ショルティとシカゴ響のこの演奏は違う。弦の低音部をしっかり鳴らしてハーモニーの厚みを持たせて、どっしりとした印象を与え、そしてオペラばりのドラマ性を生み出している。ここでアドレナリンがどっと放出される。
軽やかな第3楽章のスケルツォでもホルンの柔らかいサウンドが本当にシカゴ響なのかと思ってしまうほど。自由闊達に駆け回る弦楽器も良いし、トゥッティでの壮大さはこのオーケストラならでは。
第4楽章でもショルティとシカゴ響らしい壮大なフィナーレを聴ける。この部分の解釈は1973年のシカゴ響との旧録(FC2ブログ記事)とそれほど差がないが、デッカレーベルが誇る音響技術とデジタル録音が相まって、とてもクリアに聴こえる。
カップリングの「エグモント」序曲もピリッとして
「英雄」とカップリングされているのは1989年11月に録音された「エグモント」序曲。ゲーテが作った戯曲「エグモント」の上演にあたり、付随音楽の作曲を依嘱されたベートーヴェンが生み出した作品で、その中の序曲が「エグモント」序曲である。8分ぐらいしかない短い音楽だが、ベートーヴェンらしい重厚感あり、美しさあり、と山椒のようにピリッとした作品である。
ショルティとシカゴ響は伸びのあるサウンドでこの曲をリラックスして演奏している。ヴァイオリンやホルンが伸びやかな音色で、音がつっぱらずにまろやかであるため、肩の力を抜いて聴くことができる。クライマックスではテンポが上がり、感情が掻き立てられる。まるでオペラのように躍動感のある仕上がり。
まとめ
再録だから前回と同じ感じかなと思って聴いていたのだが、旧録以上に低音部の厚みが増し、迫力と美しさが両立する演奏である。数ある「英雄」の録音の中でも、これはとりわけ素晴らしい。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1989年5月(第3番), 11月(エグモント序曲), シカゴ・オーケストラ・ホール
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試聴
受賞
特に無し。
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