4年ぶりにベルリンフィルが来日、ついに首席指揮者のペトレンコと
世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。クラシック音楽に興味がない方と会話したときでも、「ベルリンフィルとウィーンフィルなら知っている」というぐらい2つのオーケストラの存在感は飛び抜けています。
ベルリンフィルは首席指揮者・芸術監督だったサー・サイモン・ラトルが2018年で退任することを発表してから、次の首席指揮者選びが難航したのもまだまだ記憶に新しいです。2018年6月にラトルは退任し、キリル・ペトレンコが次の首席指揮者・芸術監督として2019年8月に就任しました。
それから間もない2019年11月にベルリンフィルの来日公演がありましたが、そのときは新・首席指揮者のペトレンコではなく当時83歳のズービン・メータが5都市(名古屋、大阪、福岡、川崎、東京)で8公演を指揮しました。
それからコロナ禍になってしまい、ベルリンフィルの来日が実現することはしばらくなかったのですが、2年前の2021年8月のベルリンフィル運営のトップとのインタビューでこんな発言が。
そしていよいよ2023年11月にベルリンフィルは4年ぶりの来日公演を果たしました。1957年の初来日から数えて24回目の来日です。
11月14日(火)から25日(土)まで、6都市(高松、名古屋、姫路、大阪、東京、川崎)で10公演。プログラムAがモーツァルトの交響曲第29番K201、ベルクのオーケストラのための3つの小品Op.6、ブラームスの交響曲第4番Op.98で、プログラムBがレーガーのモーツァルトの主題による変奏曲とフーガOp.132、R.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」Op.40の曲目で、それぞれの5公演ずつ演奏されます。
ペトレンコは録音にあまり積極的ではなく、ベルリンフィルに就任する前のものも少ないですし、就任して4年経った今でも数えるほどしかありません。なので今回の来日公演でペトレンコとベルリンフィルがどういう演奏をするのか楽しみにしていた方も多かったでしょう。私もその一人です。
11月20日のサントリーホール公演を聴く
私が聴いたのは11月20日(月)のサントリーホール公演。プログラムBです。
この秋は来日公演のラッシュで、私もこちらの記事に書いたように11月15日(水)は横浜みなとみらいホールでウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を、そして20日(月)がサントリーホールでベルリンフィル、さらに22日(水)もサントリーホールでライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団と聴きに行き、ヨーロッパの最高峰の演奏を1週間で3回も聴ける幸せな週でした。
さて、11月20日のサントリーホールですが、ホール前の噴水ではツリーにイルミネーションが飾られていてクリスマスムード。
公演情報を見ていよいよベルリンフィルを聴く気持ちが高まってきます。
龍角散が特別協賛スポンサーになっていて、ホールに入場すると「龍角散のどすっきりタブレット」のハニーレモン味を配っていました。
ホールに入る前にはこの日の曲目が展示されていました。後で分かったのですが、プログラム冊子が有料なので、買わなかった人でも曲目が分かるようにとの配慮だったのですね。
カメラNG徹底の厳戒態勢
さて時間に余裕を持って大ホールに入って、誰も演奏者がいないステージの写真を撮っていると、ホールのスタッフの方が飛んできました。「オーケストラの意向でカメラ撮影はお控えください」と。「開演前でもダメですか?」と聞くと「はい、今後はお控えください」。今回はかなり厳戒態勢のようです。余談ですがその2日後のゲヴァントハウス管のサントリーホール公演では、演奏中以外はカメラ撮影OKで、開演前、休憩中、演奏後のカーテンコールでの撮影は可能でした。スタッフさんに聞くと、カメラ撮影の許可は主催者側の判断だそうで。ちなみに今回のベルリンフィルの主催者はフジテレビジョン、ゲヴァントハウス管はKAJIMOTOでした。
ということでスマホの中には広角レンズで撮影した大ホールの写真があるのですが、載せるのは控えます。
マネタイズもしっかり
ベルリンフィルの来日コンサートが商売上手だなと思ったのはプログラム冊子。こちらの記事で書いた10月末のクラウス・マケラ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団のサントリーホール公演でも、11月のウィーンフィル公演はプログラム冊子が無料で配布されてたのですが、今回配布されたのはベルリンフィルのデジタル・コンサートホールのクリアファイル。この中に、他の演奏家の演奏会のチラシとウクライナへの寄付金の案内は入っていたのですが、曲目についての情報はありませんでした。プログラム冊子は有料で2千円でした。ちなみに直後のゲヴァントハウス管の公演でもプログラムは有料でしたが1千円でした。
ただ、ホールに漂う高揚感や聴衆の方々の雰囲気が他の演奏会とは違っていて、ベルリンフィルはやはり別格の存在だなぁと思いました。
対向配置のオーケストラ、職人芸のペトレンコ
さて演奏についてですが、プログラム前半のレーガーのモーツァルトの主題による変奏曲とフーガOp.132。モーツァルトのピアノソナタ「トルコ行進曲付き」の第1楽章から引用した主題が第1変奏から第8変奏まで続き最後に巨大なフーガで締めるという作品。
木管の主題の後に第1ヴァイオリンが演奏し始めるのですが、それが「ふわっ」とするような軽さで、驚きました。確かにサントリーホールの音響の良さもあるとは思いますが、同じ場所で違うオーケストラで聴いたときにこんな感覚はなかったです。これがベルリンフィルなのかと痛感しました。
曲付き」の第1楽章から引用した主題が第1変奏から第8変奏まで続き最後に巨大なフーガで締めるという作品。
木管の主題の後に第1ヴァイオリンが演奏し始めるのですが、それが「ふわっ」とするような軽さで、驚きました。確かにサントリーホールの音響の良さもあるとは思いますが、同じ場所で違うオーケストラで聴いたときにこんな感覚はなかったです。これがベルリンフィルなのかと痛感しました。
オーケストラは対向配置にして第1ヴァイオリンが指揮者に向かって左、そして第2ヴァイオリンが右という配置。これが高音域の見事なステレオ効果を生み出していました。
ペトレンコの指揮棒は短く、オーケストラのメンバーに的確な指示を出しています。コンセンサスを取って進める指揮者として良好な関係を築けているのを確信しました。
終曲のフーガは静寂から次々と音が加わり最後には圧倒的なクライマックス。カオスになりそうでならないこの絶妙なバランスが見事でした。
後半はR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」Op.40。事前のインタビューで「(ベルリンフィルの奏者全員が)すべてを出し切れる美しい曲」と語っていたペトレンコですが、まさにオーケストラの力を見るにはもってこいの曲。
コンサートマスターの樫本さんがヴァイオリン独奏も担当し、美しさと卓越した技巧で魅了しました。コンサートマスターがソロを務めるのが多いので、今回も樫本さんが担当する可能性もあるとの前評判でしたが、プログラムを見るとソロの名前にしっかり樫本さんが書かれていましたね。
この英雄の生涯は本当にオーケストラの集大成の作品ですね。バランスを間違えるとカオスになる危険な曲でもあるのですが、ペトレンコとベルリンフィルはそれを見事に統率していました。
演奏終了時に21時近くになっていて、鳴り止まない拍手の中でもアンコールは無しで楽団員が舞台袖に出ていきます。最後にペトレンコだけが登場し、ニコニコとした満面の笑みで嬉しそうに挨拶をしていました。
充実期を迎えたペトレンコとベルリンフィルの演奏会。また次の来日公演があれば必ず行こうと思った一夜でした。
指揮:キリル・ペトレンコ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏:2023年11月20日, サントリーホール
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