このアルバムの3つのポイント
- ウィーンフィルとの関係復活の演奏会
- 荒削りな推進力のブル9
- 目を開けて指揮するテ・デウム
ウィーンフィルと関係を復活させたカラヤン
一つ前の記事でヘルベルト・フォン・カラヤンとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の1985年11月24日の万霊節ライヴでのブルックナーの交響曲第9番の演奏を紹介しました。今回紹介するのは、1978年5月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してブルックナーの交響曲第9番とテ・デウムを演奏したもの。ドイツ・グラモフォンの創立125周年を記念して2023年8月に45作品のDVDが再発売され、その中にこのカラヤンのブルックナーも含まれています。
【ユニバーサル・ミュージック】ブルックナー:交響曲第8番・第9番、テ・デウム [初回限定盤]
Wikipedia のカラヤンのページにはこんなことが書かれています。
ウィーン国立歌劇場のポストは監督のエゴン・ヒルベルトと対立し、1964年に辞任した。以後十数年、ウィーン・フィルとは一部のレコーディングとザルツブルク音楽祭のみでの関係となる。
【Wikipedia】ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーンフィルの公演アーカイブのサイトでカラヤンで調べてみると、1967年以降から1年で夏のザルツブルク祭だけしか指揮していない年も多く、1977年も7月26日、30日、8月15日のザルツブルク音楽祭で指揮したのみでその次が1978年5月7日と8日のウィーン楽友協会主催のコンサートとなっています。そして7月29日、8月3日、8月15日(ブルックナーの交響曲第8番)のザルツブルク音楽祭を指揮して、翌1979年5月12日、13日がムジークフェラインザールでのブル8、そして6月4日が聖フローリアン修道院でのブル8を演奏しています。
DVD は2枚組でDVD1が1979年6月4日の聖フローリアン修道院でのブル8、DVD2 が1978年5月7-8日のブル9&テ・デウムが収録されているというわけです。
ザルツブルク音楽を除くと1978年の前にウィーンフィルを演奏会で指揮したのが1975年3月1日、2日。ここではベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」をアレクシス・ワイセンベルクと、そして後半にブルックナーの交響曲第7番を演奏しています。カラヤンにとって1975年以来3年ぶりとなったムジークフェラインでの演奏会が今回紹介するもので、ウィーンフィルとの関係を復活させたでもブル9、そして翌年もブル8を取り上げています。DVD の解説でもこう書かれています。
ウィーン・フィルの演奏は完璧ではなかったが、それでもカラヤンはこの演奏を商品化することを喜んだ。実際このブルックナー演奏は、カラヤンとウィーン・フィルとの関係の復活の印だった。ウィーン・フィルは事務局も新体制となり、ゲルハルト・ヘッツェルという尊敬すべき人物がコンサート・マスターの任にあった。この共演を機に、カラヤンとウィーン・フィルの黄金時代が始まろうとしていたのだ。
リチャード・オズボーン (訳:岩下 久美子), UCBG-9173/4 のブックレットより
荒削りながら推進力が魅力ブルックナー交響曲第9番
ブルックナーの交響曲第9番は歴代のカラヤンの指揮の中でも屈指の推進力を誇ります。ベルリンフィルとの全集 (1975-81年)でも1975年9月に第9番を録音していますがそのときと2年8ヶ月しか変わらないのですが演奏時間が全く異なります。
実測では第1楽章が22分44秒、第2楽章が10分11秒、第3楽章が23分32秒。全集のときの1975年では9月ではそれぞれ24分54秒、10分37秒、25分51秒なのでかなり速くなっています。1978年ほどではないですが1985年のライヴでもやや速めでしたので、カラヤンはセッション録音と演奏会でスタイルを変えたということが言えます。
時期 | 1975年9月 (セッション) | 1978年5月 (ライヴ) | 1985年11月 (ライヴ) |
オケ | ベルリンフィル | ウィーンフィル | ベルリンフィル |
第1楽章 | 24:54 | 22:44 | 23:11 |
第2楽章 | 10:37 | 10:11 | 10:26 |
第3楽章 | 25:51 | 23:32 | 24:21 |
壮年期の特徴で目を閉じて指揮するカラヤン。85年と見比べると指揮の動きがかなり大きくダイナミックです。1975年から76年に命に関わる脊髄の病気で手術を受けたカラヤン。1978年5月のこの時点でも70歳を迎えていて、慢性的な痛みに悩まされていたと思われますが、噛みしめるように痛みを堪えて集中しているのが伺えます。
1985年のベルリンフィルのときは「倍管」といって金管楽器とティンパニの奏者を指定された数より1.5〜2倍に増やしていましたが、このウィーンフィルのときは標準の数。ティンパニ奏者も1人です。
第1楽章冒頭のトレモロは非常に細かいヴェールのようですが熱を帯びてくると爆発するような推進力があります。ピークを迎える第1主題の第7動機ではアンサンブルがかなりずれていて、アンサンブルが比較的ルーズなウィーンフィルの特徴を考慮しても決して満足行く出来ではなかったのでしょう。第2主題ではgezogen (引きずるように)と指示されたとおりヴィオラとコントラバスの低音が存在感を出しています。第1楽章の展開部は熱く、テンポを上げて頂点を作っていくのですが333小節の4分の4拍子に変わってフォルテッシモになるあたりからアンサンブルが乱れ出して一部があまりの速さについて行けなくなっています。展開部のフィナーレはティンパニが轟くのですが、恐ろしいほどのカラヤンの気迫を感じます。Langsamer (ゆっくり)に変わる399小節からはレクイエムのような光が差し込み安らぎを与えてくれます。コーダでもアンサンブルが乱れるところもあり、第1楽章はカラヤンが求める速さにウィーンフィルが寄り添えていないです。
第2楽章はさらに強靭なスケルツォで容赦ないです。第3楽章は慈愛の音楽ですが、カラヤンは最後まで目を閉じて集中力が途切れることなく指揮していきます。
目を開けて指揮するテ・デウム
同じ日に演奏されたテ・デウムでは、カラヤンが目を開けて指揮しています。壮年期でも第九の第4楽章など合唱曲だと目を開けていることが確認できますが、テ・デウムでは最初から最後まで目を開けています。
しかも自ら歌を口ずさみながら指揮していて、先ほどの交響曲とは違って音楽も活き活きしているように感じます。確かにブルックナー自ら第9番が未完成に終わったら第4楽章としてテ・デウムを演奏してほしいと書いたと言われていますが、容赦ない交響曲からテ・デウムになると希望の光のようにガラッと音楽が変わるのが見ものです。
まとめ
カラヤンがウィーンフィルのムジークフェラインザールの演奏会を3年ぶりに指揮した演奏会のライヴ。全集や晩年の映像とも違うブルックナーを味わえます。
オススメ度
【テ・デウム】
アンナ・トモワ=シントウ(ソプラノ)
アグネス・バルツァ(メッゾ・ソプラノ)
デイヴィッド・レンドール(テノール)
ジョゼ・ヴァン・ダム(バス・バリトン)
ウィーン楽友協会合唱団(合唱指揮:ヘルムート・フロシャウアー)
【交響曲第9番】
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1978年5月7-8日, ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)
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試聴
特に無し。
受賞
特に無し。
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