リヒテルが一番好きな曲で『導きの星』
今日紹介するのは、ロシアのピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテル (1915-1997年)の録音。20世紀最高のピアニストの一人とも言われるリヒテルは超絶的なテクニックと豊かな詩情で人気を博しました。
1958年の伝説となったブルガリアのソフィアでのリサイタルで西洋でも話題になったリヒテル。このブログでもヨーロッパに活動を広げてレコーディングも積極的におこなった1960年代のロンドンのアビーロードスタジオでのベートーヴェンのピアノソナタ『テンペスト』(1961年)やクルト・ザンデルリング指揮ウィーン交響楽団とのベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番 (1962年)、キャリア晩年のベートーヴェンの後期ピアノソナタ(1991年)などを紹介しています。
そんなリヒテルが得意とした作曲家がシューベルト。私もシューベルトの魅力をリヒテルの録音から学び、そしてマウリツィオ・ポリーニの演奏で確信したものでした。
ユーリー・ボリソフ著の『リヒテルは語る』(ちくま学芸文庫)という本で、リヒテルがシューベルトの『さすらい人幻想曲』D.760 について語っています。
リヒテルのさすらい人を聴きたくなって、棚のCD を探しました。私はユニバーサル・ミュージックから発売されたリヒテルのレコーディング全集 (CD51枚組)を持っているのですが、シューベルトのさすらい人の歌曲はあるのですが幻想曲のほうは含まれていません。別のEMI (現ワーナー)のCD BOX にありました。
大胆さと繊細さ
この『さすらい人幻想曲』は1963年6月のパリでの録音。4楽章から構成される曲ですが、切れ目なく演奏されるためこのCD では1つのトラックで収録されています。演奏時間は20分42秒 (Apple Music の表示では20分56秒)。
リヒテルは『導きの星』と呼んだこの作品の新たな一面を引き出しています。ソフィア・リサイタルでの豪快で超絶的な『展覧会の絵』ばりの力強さで和音を奏で、意気揚々と歩いていく大胆さがありつつも、日が曇ったり雨が降ったりして歩み方が変化していくかのようです。第1楽章の終盤ではテンポをぐっと落として消え入るかのように静かになり、続く第2楽章のアダージョでは実に繊細。この相反する表現力がリヒテルの魅力です。そして第3楽章では踊りだすようなハツラツとした表情のスケルツォ。第4楽章のアレグロでは雲一つなく太陽が燦々と照らすように豪快。
久しぶりにリヒテルを聴いて「良いなぁ」と思った次第でした。
オススメ度
ピアノ:スビャトスラフ・リヒテル
録音:1963年6月12日, フランス・パリ
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試聴
Apple Music で試聴可能。
受賞
特に無し。
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