タイパ時代こそ色褪せない名盤を
クラシック音楽の良くないところは、販売元の謳い文句に釣られて購入して実際聴いてみても、「あれ?」と思う録音が割とあること。レビューを探して読んでみると「XX年の録音のほうが良い」ということが書いてあったり。そっちも聴かないとこの指揮者は語れないのか、とがっかりするところからクラシックの底なし沼が始まります。聴いても、聴いても、まだ聴き足りない。
その沼にハマった私もCDがどんどん増えて棚が一つ増え、二つ増え、もう最近では衣装用ケース二収納するようになってしまったのですが、令和の今はタイムパフォーマンス、略してタイパの時代。この指揮者ならこれを聴いておいたほうが良いという定番の名盤を紹介します。名盤に外れなし。
今回取り上げるのは20世紀後半に活躍した名指揮者、カルロス・クライバー、ヘルベルト・フォン・カラヤン、レナード・バーンスタイン、ゲオルグ・ショルティ、カール・ベーム、カルロ・マリア・ジュリーニです。
カルロス・クライバー/ベートーヴェン交響曲第5番、7番 (1974, 75年)
クライバーのデビュー盤はウィーンフィルと王道のベートーヴェン
まずはカルロス・クライバー (1930-2004年)。ドイツ出身でアルゼンチン育ち。名指揮者エーリヒ・クライバーの息子ですが、親の七光りを嫌い、またエーリヒも息子が指揮者になることを反対していたので、指揮者デビューの際には偽名のカール・ケラーで演奏会にデビューしたほど。気に入らないことがあるとコンサートをキャンセルすることも度々あり、録音嫌いでもあったクライバーが遺した録音は全て名盤の誉れが高いです。
ヴェーバーの『魔弾の射手』、R.シュトラウスの『ばらの騎士』、ヴァーグナーの『トリスタンとイゾルデ』、ブラームスの交響曲第4番、さらには地味なベートーヴェンの交響曲第4番での名演など選びきれないですが、一つ選ぶとしたらデビュー盤のベートーヴェンの交響曲第5番『運命』と第7番。最初の録音でクラシック音楽の王道である『運命』を、しかも名門のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するなんて本当に直球勝負なのですが、冒頭のタタタターンからグイグイと引き込まれてしまいます。
クライバーは指揮姿も流れるように美しいのでぜひ映像でも観ていただきたいです。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/チャイコフスキー交響曲第6番『悲愴』 (1976年)
帝王カラヤンが繰り返し録音した『悲愴』
20世紀のクラシック音楽界を席巻した帝王こと、ヘルベルト・フォン・カラヤン (1908-1989年)。オーストリア出身です。膨大なレコーディングをおこない、ベートーヴェン、ブラームスなども名演が多いですが、一つ選ぶとしたらチャイコフスキー。交響曲第6番『悲愴』は映像作品も合わせると7回も録音していますが、1976年のこの録音は6回目のもの。
1955年から89年まで首席指揮者を務めたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との全盛期に当たる70年代のこの録音は目を閉じて指揮するスタイルだった当時のカラヤンだからこそ生み出せる音響のすごさ。
レナード・バーンスタイン/マーラー交響曲第5番 (1987年)
えぐるようなマーラーの悲痛さ
アメリカ出身のレナード・バーンスタイン (1918-1990年)はニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督を務めた後、作曲の時間を作りたいという理由で1969年以降は特定のポストに就かず客演指揮者として活躍します。
バーンスタインの名盤にはベートーヴェンやブラームス、ショスタコーヴィチ、自作のウェスト・サイド・ストーリーなどもありますが、やはりマーラーでしょう。交響曲全集を2回完成させているバーンスタインですが、全集に含まれずバーンスタイン死後に発売されたベルリンフィルを唯一指揮した第9番 (1979年)のライヴ録音が人気ですが、私は敢えてウィーンフィルとの第5番 (1987年)を推したいです。
ゆったりとしたテンポでえぐるようなマーラーの悲痛さを引き出したバーンスタイン
ゲオルグ・ショルティ/ヴァーグナー『ニーベルングの指環』(1958-65年)
ショルティの代名詞。耳で聴くオペラ。
ハンガリー出身の指揮者ゲオルグ・ショルティ (1912-1997年)。こちらも膨大なレコーディングをおこなっていますが、一つ選ぶなら楽劇『ニーベルングの指環』 (通称、「リング」)。
デッカの敏腕プロデューサー、ジョン・カルショーがレコード時代を見据えて「耳で聴くオペラ」を作りたいと、ヴァーグナーのリングの4部作をスタジオ録音することになり、指揮者に選ばれたのがショルティ。その第1弾が1958年の『ラインの黄金』でした。
ショルティは1969年から91年までシカゴ交響楽団の音楽監督を務めて黄金時代を築き上げこの時代の名盤も多いですが、リングは引き締まった響きでボルテージの高いショルティ代名詞とも言うべき名盤で、今聴いても高い音質を誇るデッカの技術が合わさりレコーディングの可能性を広めたアルバムです。
カール・ベーム/ベートーヴェン交響曲第6番『田園』 (1971年)
音楽の番人ベームとウィーンの響き
オーストリア出身のカール・ベーム (1894-1981年)はカラヤン同じくオーストリアを代表する指揮者。楽譜に忠実で休符もきっちり守り感情に流されない指揮ぶりは、K.クライバーやバーンスタインのスタイルとは真逆ですが、ウィーンフィルからの信頼が厚く、「音楽の番人」と呼ばれることも。
そんなベームの名盤で定評があるのはモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスといったドイツ=オーストリア音楽だったり、1950-60年代の壮年期の『トリスタンとイゾルデ』やブラームスの交響曲第1番だったりしますが、いかにもベームらしさを感じるのは1970年代のウィーンフィルとの『田園』。
ベートーヴェンの交響曲全集の1枚ですが、ウィーンの香りがする気品ある演奏です。ベームの音楽を聴くとホッとします。
カルロ・マリア・ジュリーニ/マーラー交響曲第9番 (1976年)
各国で音楽賞を受賞したジュリーニの名盤
イタリア出身のカルロ・マリア・ジュリーニ (1914-2005年)は1969年からシカゴ交響楽団の首席客演指揮者、1978年からロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督になりアメリカでも活躍しましたが、1980年代以降は奥様の体調のためヨーロッパに拠点を戻しました。
とにかく歌うように旋律を美しく引き出す一方で、骨格がしっかりとした構築をするのがジュリーニの特徴。壮年期のフィガロの結婚やドン・ジョヴァンニなどの歌劇や、晩年のウィーンフィルとのブルックナーの後期交響曲や、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェンの交響曲、交響曲第9番シリーズ、レクイエムシリーズなども愛聴されていますが、一つ選ぶならマーラーの交響曲第9番。
ジュリーニのマーラーは限られていて録音したのも第1番、『大地の歌』、第9番。中でもシカゴ交響楽団との第9番はマーラーの毒を抜き取って浄化させたようなジュリーニが感じ取った世界が描かれています。米国グラミー賞、日本のレコード・アカデミー賞など各国の音楽賞を受賞したまさに名盤です。
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